同一労働同一賃金と無期転換制度

国の働き方改革の一環で、「同一労働同一賃金ガイドライン(案)」が昨年12月に公表された。この種のガイドラインは法律が公布・施行されて以降に発出されるのが通例であるが、今回はイレギュラーな手法がとられた。これが何を意味するのかは不明だが、おそらく企業への「心構え」や「準備」を急くためであろう。

この「同一労働同一賃金ガイドライン(案)」は、正社員と有期・パート等の非正規社員との均等・均衡待遇を図る主旨で、関連法の改正を経た後に適用されることとなっている。具体的には、労働契約法第20条(有期契約労働者と無期契約労働者の不合理な労働条件の禁止)を廃止し、パートタイム労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)に移管することで、いわゆる非正規労働者のカテゴリーをパートタイム労働法(名称は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」に変更される)に一元化することで、有期契約労働者及び短時間労働者等の非正規社員と正社員との均等・均衡待遇を図らねばならないとされる見込みである。しかも、この法律は労働契約法と異なり労働行政法であるから、労働行政当局からの行政指導が実施されることになる。従って、法施行以後は非正規社員の処遇が正規社員に近づかざるを得ない環境が整いつつあると認識しなければならない。

以上から分かるように、無期転換されたフルタイム労働者は同一労働同一賃金の対象からは外れる。当該労働者は正社員とみなされてしまうからだ。しかしながら、今後の雇用管理が「正社員」「無期転換社員」「有期契約社員」としたときに、正社員と有期契約社員との均等・均衡処遇に対応するだけで事足りるかと問われれば、否という答えになる。法理論的には対象外であっても「無期転換社員」の処遇を蚊帳の外に置くことは現実的にはあり得ないからだ。

同一労働同一賃金で問われているのは、誰と比べるかではなく、正社員に適用されている制度を他の雇用管理区分の社員にどのように適用するか、の問題である。従って、企業としては、無期転換社員の労働条件が従前の有期契約社員時代と同一でいい、という判断に固執すればとんでもないしっぺ返しに遭う可能性が高くなるだろう。恐らく、裁判においても法の主旨が生かされるのではなかろうか。

従って、企業は同一労働同一賃金時代の到来とその主旨を十分視野に入れた無期転換社員制度を検討していかねばならないことになる。

無期転換制度構築は経営者の手で

ここまで、無期転換制度を考えるにあたって理解しておくべき基本的事項を解説してきた。最後に強調しておきたいのは、これまでの自社の有期労働契約の実務的運用が疎かになっていなかったか、をしっかりと検証・見直すことが第一。それから、自社の今後の雇用管理がどうあるべきかを経営者が主体となって検討することが第二。同一労働同一賃金は、今後の日本の雇用の在り方が転換していく第一歩であるから、それに直結する雇用管理制度を構築するのは経営者以外にない。無期転換制度は、人事担当社員が事務的に処理する類のものではないことを肝に銘じるべきである。現在の人手不足感に惑わされない長期的な視点での対応が求められている。


株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ
社会保険労務士・CFP(R) 大曲義典
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