「最近の若い者は・・・」に始まる中高年の嘆きは、年々歳々、形を変えて繰り返されている。

 現在管理職になっている40代から50代は、新入社員のころは「新人類」と呼ばれた世代である。高度経済成長の中に生を受け、飢えを知らずに育った「新人類」世代は、「とにかく食べていくのが大事」と考える当時の中高年からは、「理解できない他者」として扱われていたのだ。
 
 世代間ギャップには、このように育った時代背景が色濃く影を落としている。 中高年から見て理解不能な若者の行動も、彼らの育った社会を見ていけば、納得のいく面も多く、自ずと対応策も見えてくるのである。
理解不能な「いまどきの若者」にどう対応するか

他者からの承認が生存原理になっている若者たち

 人間は人間関係の中で生きている。これは、世代を問わず言えることなのだが、中高年と若年層の大きな違いは、人間関係への依存度合いだろう。

 小中学生のころから携帯を持っているのが当たり前、という若者たちは、同世代間の密なコミュニケーションに適応してきた。「KY」「コミュ障」「アスペ」「便所飯」などの流行語を見ればわかるように、コミュニケーション能力至上主義ともいえる社会の中で生きているのである。彼・彼女らの行動原理は「出る杭にならないこと」。
  Lineの「既読」や「返信」が遅いのは許されないので、どんな時間でもすぐに返信する。そのためには、携帯やスマホを24時間手放せない。「嫌われない」「仲間はずれにならない」ために、若い世代が払っている涙ぐましい努力は、上の世代からはかなり理解不能に見える。

 「周りに理解されなくても自分は自分でしょ?」というおじさんおばさん世代の問いは、「周りに否定されたら自分自身もない」という若い世代の感覚を打ち崩すことはできない。つまり、理解できようとできまいと、若い世代は他者から承認されることが生存原理となっていることを理解し、それを前提につきあうしかないのである。

 もうひとつ、現代の若者を特徴づけるのは、厳しい就活をくぐり抜けてきたことである。

 就活の中で、学生が企業に提出するエントリーシートは、平均約30件、多い場合は100件にものぼるという。一部のエリート大学の限られた学生以外は、30社近くの企業から「お祈りメール」を受け取っているということになる。つまり、それだけ多くの「君は我が社には必要ない。いらない人間だ」という通告を受けているのである。

 他者からの承認に敏感な上に、この厳しさである。就活を終了して企業の一員になるころには、彼・彼女らのメンタルはかなり悪化していることが想像される。
その結果、「ちょっと叱るとすぐに体調を崩して休み、それが続くと『うつ状態』という診断書を持ってきて休職してしまう」「自分の至らぬ点は認めず、『上司にパワハラされたからうつ病になった』と公言する」、このような承認欲求をこじらせた「困った若手社員」ができあがるのである。

 中高年から見ると「社会性がない」「打たれ弱い」「自己中心的」と見えるこのような行動も、育ってきた環境がそうさせているとも言える。

承認欲求を傷つけず、個別・具体的に指導する

では、そのように育ってきた若手社員に、どのように接したらよいのだろうか。

 承認欲求を満たす最も簡単で効果的な方法は、「話をしっかり聴く」ということである。
「ほかのことを考えず、集中して相手の話を聴く」「気に入らない点があっても頭から否定しない」「うなずき、あいづちをしっかりと」という3点を押さえるだけでも、相手に対して「自分の話をしっかり聞いてくれる=自分を承認してくれる」という効果を与えることができる。

 逆に、このような若手社員への対応で、いちばんまずいのは、存在自体を否定するような言葉で叱ることである。
 「お前みたいなヤツはうちにはいらない」というのが最もNGなセリフだ。もちろん、これは若い世代に対してだけでなく、パワハラになりやすい言葉の典型でもある。そのほか、「もう少し空気読んで、気を利かせてよ」など、コミュニケーション・スキルに関する注意も地雷である。ここを踏んでしまうと、彼らの心のドアはピシャリと閉じられ、信頼関係の構築などありえなくなってしまう。

 「上司・会社は君に期待している」「必ず会社に貢献できるような存在になると信じている」という「相手の存在を承認する」前提で話をすることが大切だ。その上で、注意する場合は、「もっときちんとやって」ではなく、「書類を作成するときは、過去のこの文書を参考にするといいよ」「◯◯という言い方のほうが、社会人としてのマナーにかなうし、相手に伝わるよ」という調子で、具体的に、個別の状況に即した指導をするのが望ましい。

いまどきの若者には、自分のスタイルに固執するより、はっきりした根拠・ルールには素直に従う、という面も強い。
「コミュ力」よりも「具体的な仕事のスキル」。これを若い社員たちに教えるのも、中高年としての関わり方のひとつなのである。


メンタルサポートろうむ代表
社会保険労務士/産業カウンセラー/セクハラ・パワハラ防止コンサルタント
李怜香(り れいか)

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