12月1日就職活動が「解禁」したと、新聞など大手メディアが一斉に報じた。・・・さて、カッコつきで「解禁」と書いたのにはわけがある。
12月1日就職活動「解禁」という落とし穴

 企業の採用担当者ならほとんどが承知していることなのだが、このルールは日本経団連が定めた「採用選考に関する企業の倫理憲章」という自主的なものであり、約830社が共同宣言しているに過ぎない。日本で新卒採用している企業は2万社程度はあるだろうから、会社としては一部である。もちろん破ったからといって罰則はない。

 つい先日、著名な大手IT企業の親しい人事担当役員に、いよいよ12月1日ですねと言ったら、「うちには関係ありません。とっくに動いていますから。インターンシップ採用を主体にしています」とのことだった。主要な外資系企業、コンサルティング業界、採用意欲の強いベンチャー企業、大手IT企業などは、堂々と12月以前から実質的な選考活動を開始しているし、実は日本の伝統的な大手企業もインターンシップを通じて結果的に内定に至るルートを拡大しつつある。表面的な大手メディアの情報だけでは、こうした実情は分からない。

 とはいえ、上記の倫理憲章共同宣言企業800社強のなかに日本を代表する大手企業が多数含まれており、また何より大手就職ナビが業界の自主規制で12月1日に一斉に本オープンし、学生の企業へのプレエントリー、説明会申込みが可能になるため、大多数の学生がこの日初めて企業と本格的に接触することになる。しかし、これまた大多数の学生が、数か月間極めて無駄で多忙な日々を過ごすことになる。それはなぜか。
 HR総研(HR総合調査研究所)の調査によると、企業が採用対象のターゲット大学を決めて活動する率が年々上昇しており、2014年新卒採用では実に半数以上の企業がそうしていると答えている。これは大手から中堅、中小企業すべての企業へのアンケート回答であり、学生が名前を知っているような著名な大手企業であれば、ほぼすべてがターゲット大学を決めていると言っていいだろう。しかし、これらの著名な大手企業にほとんどの学生が殺到する。
 株式会社ニッチモ代表取締役の海老原嗣生氏によると、2000~10年までの平均値では、新卒約55万人のうち人気100社への就職者数は約1万8千人。割合にすれば4%にも満たない。その100社に大多数の学生は殺到するが、その大半は大学名ではじかれているのが現状なのである。

 なぜ企業はターゲット大学を定めて採用をするのか。元々大手企業は指定校制などで大学をターゲティングしていたのだが、就職ナビの普及で一時期大学の門戸を広げる動きがあった。しかし、一方でこの約20年間、大学は規制緩和で増え続け、少子化にもかかわらず大学生は急増し、いまや無試験で入学する学生は半数以上。偏差値の下位層が大きく増え、大学生の学力の幅は大きく広がった。そうした学生が一斉に大手企業に殺到するため、企業はそれら応募者すべてに平等に対応することはできず、ターゲット大学により採用勢力を集中し、その他はエントリーシートでバッサリ落とすということになる。それが今の就職活動の実情である。

 では、学生はどうすればよいか。最近数校の大学で講演した際にも話したことだが、「自分の大学を採用ターゲットにしている企業を中心に就職活動をすること」である。いくら就職活動で自己分析を重ね、大手企業の会社説明会に足しげく通い、エントリーシートの添削講座を受け、模擬面接を受けても、自分の大学が採用ターゲットに入っていない企業を受け続けても落ち続けるだけである。
 企業が自分の大学を採用ターゲットにしているかどうかを確認するには、大学の就職部、キャリアセンターに聞くのが一番であり、学内説明会に出るのが早道である。自分の学校のOB,OGに訪問できれば、なお良いだろう。もちろんその他の企業を受けてはいけないわけではない。ただ、学生が自然と知っている企業に応募すると、そのほとんどは超大手企業で、一部の大学からしか取らないことがほとんどで落ちる確率が非常に高いということである。

 本当は企業側が採用ターゲット大学を明示すればいいのだが、世間の批判が怖くて出来ないのが現状だ。せめて、主要な採用実績大学を明示してくれればいいのだが。最近の学生は社会常識がない、マナーがなっていないと言う前に、暗黙の企業の採用ルールが学生を苦しめていることを忘れてはいけないと思う。


HRプロ 代表/HR総合調査研究所 所長 寺澤康介

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