今年7月、某大手外食チェーン店の経営に対する「労働環境改善に関する第三者委員会」の調査結果が発表された。報告書では「当該企業の運営は、法令違反であることはもとより、社員の生命、身体、精神に危険を及ぼす重大な状況に陥っていた」と認定され、経営側の認識不足が厳しく指摘された。
違法な人件費削減で、本当に「コストダウン」はできるのか?

 そもそも、第三者委員会の調査のきっかけは、同社が労働関係法令を逸脱した「違法な勤務」を従業員に強いた結果、従業員の退職、新規採用の不調による人員不足が発生し、大量閉店に追い込まれたことに起因するとされる。

 わが国には、従業員を雇う場合の法律が明確に定められている。守らない場合には、懲役刑や罰金刑の対象になることさえある、厳しいルールである。しかしながら、企業にとり、人を雇う際の法律を守らないことの“本当の怖さ”とは、刑事罰の対象になることではなく、「従業員の気持ち、心が離れてしまうこと」である。人間は“理屈”ではなく“感情”で動くからだ。

 職場や仕事に対して気持ち、心が離れた従業員が「一生懸命に働くこと」は決してない。仕事に「創意工夫を凝らすこと」もない。「職場の取り組みに融通を利かせること」もない。「長く勤めること」もないかもしれない。

 このように、気持ちが離れた従業員のパフォーマンスは、大きくダウンしてしまう。しかしながら、企業は一生懸命働かなくなった従業員に対しても、今までどおりの給料を払わなければならないので、モチベーションの落ちた従業員が所属する企業は、従業員がしっかりと働かないことによる損失を被ることになる。

 具体的には、次のような現象が顕著になる。
(1)遅刻、早退、欠勤が増える。
(2)休憩時間、服装、備品の使用など、「職場のルール」が守られなくなる。
(3)仕事が雑でルーズになり、ミスが増える。
(4)適切な報告、連絡、相談が行われなくなる。
(5)同じ仕事をしているのに、今までより時間がかかる。
(6)勤務中の不要な会話が増える。

 挙げれば切りがない。これらは皆、“商品力の低下”“サービスの劣化”を招き、「顧客離れ」による売上げ・利益の低下を誘発してしまう。

 真のコストダウンとは「利益を増やすこと」だといわれる。経費を削減しても、その結果として利益が減ってしまえば、それはコストダウンではなく、コストアップとなる。経費を使ったとしても、使った経費以上の利益が得られれば、それはコストダウンといえる。

 残業代を正しく支払わないなど、違法な勤務を強いるという方法による人件費の削減は、従業員のパフォーマンス低下による損失を招きがちである。そのため、一般的には真のコストダウンにはなり得ず、結果的にコストアップにつながってしまうケースが少なくない。

前述の外食チェーン店のケースでは、違法な勤務を強いたことにより、従業員が働くことを辞めてしまい、新規採用もままならなくなってしまった。その結果が、大量閉店はもとより、「ブランド力の低下」「企業イメージの悪化」という大きな損失を被ることになったといえよう。

 したがって、企業の人件費に対する考え方は、「いかにして、ルールを逸脱してでも人件費を減らすか」ではなく、「いかにして、給料どおりの、あるいは給料以上の働きをしてもらえるように仕向けるか」が重要になる。

 従業員に給料どおりの、あるいは給料以上の働きをしてもらうためには、企業側が決められたルールを守って従業員の働きやすい環境を整え、皆の“モチベーション”を上げる努力をすることが欠かせない。従業員が自分の仕事に対して“意欲的”になれば、給料以上の働きが大いに期待でき、負担した人件費を上回るメリットを企業が享受できることになる。このような発想の転換ができない企業は、生き残りが難しいかもしれない。

コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)

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