イノベーションを期待し、日々変革の取り組んでいる組織は多い。プロジェクトや会議、研修、セミナーなどを開催し、現状を変革して、新たなものを生み出そうとしている。アイディアを創出する方法や、創造性を発揮するためのハウツー本は、書店にいくらでもある。数年前に、ブルーオーシャン戦略という本がベストセラーになった。誰もいない海で魚を独り占めするかのように、競争の無い未開拓の市場を造り出そうとする戦略で、INSEAD(欧州経営大学院)の教授W・チャン・キムとレネ・モボルニュが著した戦略論である。
イノベーションが起こる組織とは

 しかし、この本の中で事例として紹介された企業も、いずれは激変する市場変化にさらされて、すぐさまブルーオーションが、熾烈な競争にさらされるレッドオーシャンになり、淘汰された企業も少なくない。そして、また新たなイノベーションに取り組んでいる。 企業は常にイノベーションを探求し続けなくてはならい宿命にある。優良企業においては、市場のニーズを探り、ニーズの無いアイディアは切り捨て、既存の改良に取り組む持続的イノベーションに終始する傾向がある。そのため、既存の製品やサービスへ改善することに目を奪われ、顧客の新たなニーズや市場の変化に気がつかず、結果イノベーションが起こりにくい組織になりやすい。このことをハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセンはイノベーションジレンマという理論を唱え、この論文は世界的ベストセラーとなり、多くの企業はこの理論を理解している。
 この論文では、イノベーションには、前記のような傾向に陥る持続的イノベーションと、既存製品やサービスを壊すかもしれないが、全く新たな価値を提供する破壊的イノベーションがあり、優良企業を始め、イノベーションに取り組む多くの企業は破壊的イノベーションを軽視する傾向にあると論じている。
 何故、組織の中では、このように理解されているものの、イノベーションが継続しなかったり、真のイノベーションが起こりにくかったりするのだろうか。
 「ハーバード・ビジネス・レビュー」に掲載された論文の分析で興味深い結果がある。多様なメンバーで構成されたチームと均一なメンバーで構成されたチームでそれぞれ、アイディアを出させて、革新的か?という視点からその質を評価した分析がある。その結果、均質なメンバーのチームのアイディアの質の平均点は、多様なメンバーの質より平均点が高かったという結果がでた。
 しかし、個々のアイディアの質を見ると、多様性の高い組織は、質の低いアイディアが出る一方、ずば抜けて素晴らしいアイディアも出たという結果があった。つまり、多様な人が集まるチームは、平均的にはアイディアの質は期待できないかもしれないが、中にはずば抜けた逸材がいる可能性が高いと言えるのではないだろうか。
 この例を、組織の中でイノベーションを起す取り組みに当てはめて考えてみよう。例えば、新たな商品やアイディアを生み出すプロジェクトがある。そのプロジェクトには、既存の組織で優秀と言われる人材が集められることが一般的だろう。また、リーダー発掘の仕組みで、既存の評価システムの中で優秀な成果を出してきた人材だけを集め、既存の改善提案を出させる取り組みがある。
 このような提案を見ると、革新的な提案はあまり期待できないかもしれない。むしろ、既存の尺度ではない、新たな尺度で人材を選ぶ仕組みが必要ではないだろうか。その中から、イノベーションジレンマに陥らない真のイノベーションを引き起こす人材が発掘できる可能性がある。


HR総研 客員研究員 下山博志
(株式会社人財ラボ 代表取締役社長/ASTDグローバルネットワーク・ジャパン副会長)

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