これから春にかけては、従業員の入社や退社が増える時期です。この記事では、入退社時の「社会保険・雇用保険に関する手続き」と、「税金に関する手続き」を紹介します。何が必要なのかを改めて確認し、スムーズに手続きが行えるように備えましょう。
従業員の「入社・退社時の手続き」を解説。これからの時期に向けて再確認しておこう

入社時の「労働条件通知書」はPDFとメールでの交付も可能に

まずは入社時の手続きから解説します。

1.「労働条件通知書」の交付
最初に、「労働者にどのような労働条件で働いてもらうのか」を、書面にて交付する必要があります。従来は紙のみが認められていましたが、2019年4月からは、労働者が希望した場合PDFやメールによる交付も可能になりました。

なお、以下の内容は必須で記載するよう定められていますので、確実に押さえましょう。

・労働契約の期間に関する事項
・就業の場所及び従業すべき業務に関する事項
・始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
・賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期に関する事項
・退職に関する事項(解雇の事由を含む)


2.社会保険・雇用保険の資格取得
<健康保険・厚生年金保険の資格取得手続き>

従業員の入社5日以内に、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を管轄の年金事務所へ提出します。入社した従業員に被扶養者がいる場合には「健康保険被扶養者(異動)届」や「第3号被保険者関係届」の提出が必要になります。そのため、従業員の被扶養者の社会保険の加入状況等もあらかじめ確認しておきましょう。

<雇用保険の資格取得手続き>
従業員が入社した翌月10日までに、「雇用保険被保険者資格取得届」を管轄の公共職業安定所(ハローワーク)に提出します。添付書類として、賃金台帳、労働者名簿、出勤簿等が必要となる場合がありますので、これらの帳簿も併せて準備しておきましょう。

退社時期によって税金の手続き方法が異なるので注意

続いて、退社時の手続きに必要となるものを確認していきましょう。

1.社会保険・雇用保険の資格喪失
<健康保険・厚生年金保険の資格喪失手続き>

退職日の翌々日から5日以内に、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を管轄の年金事務所へ提出します。このとき、退職者とその被扶養者の「健康保険被保険者証」を添付する必要があります。「健康保険被保険者証」は退職日当日までは使用できますので、その翌日以降に被扶養者の分も含めて忘れずに返却してもらってください。

<雇用保険の資格喪失手続き>
退職日の翌々日から10日以内に、「雇用保険被保険者資格喪失届」を管轄の公共職業安定所に提出します。

また、本人が離職票の交付を希望する場合には「雇用保険被保険者離職証明書」を併せて提出します。これは、退職者が失業中、雇用保険の基本手当を受給する場合に必要となる手続きです。必須ではない上、必要な場合にも退職者によって対応の一部が異なります。退職が決まったら、従業員に離職票の要否をあらかじめ確認しておきましょう。

退職後に次の会社で働くまで間が空く場合、健康保険や国民年金の加入手続きは退職者自身が行わなければなりません。さらに、雇用保険の基本手当を受給する場合も、退職者自身が公共職業安定所に行く必要があります。それらの情報を退職者に説明することも大切です。

2.税金関係の手続き
<住民税の徴収方法切り替え手続>

従業員が退職すると、企業が給与から差し引いて特別徴収していた住民税が徴収できなくなるため、退職日の翌月10日までに「給与所得者異動届出書」を退職者の居住する自治体に提出します。退職後の住民税の徴収方法は以下の通りですが、退職した時期によって選択できる徴収方法が異なります。

(1)普通徴収(住民自らが住民税を納付する方法)へ切り替え
(2)最後の給与で一括徴収
(3)特別徴収を継続

・6月~12月に退職した場合:
原則は(1)、申出があれば(2)、再就職先が決まっていて申出があれば(3)の方法で徴収されます。

・1月~5月に退職した場合:(2)になります。「給与所得者異動届出書」に、退職後の徴収方法を記載する欄がありますので、退職者と認識を合わせておきましょう。また、もし(3)の徴収方法を選ぶ場合には、「給与所得者異動届出書」は転職先経由で自治体に提出する点に注意が必要です。

<源泉徴収票の交付>
従業員の退職後1ヵ月以内に、その年の1月から退職時までの給与支払状況を記載した「給与所得の源泉徴収票」を作成し、本人に交付します。また、退職金の支払いがある場合には、「退職所得の源泉徴収票」を作成し、こちらも退職後1ヵ月以内に退職者に交付しなければいけません。

チェックリストを作成し、抜け漏れを防ぐ

以上、法律で定められている手続きをメインに説明をしましたが、実際にはこのほかにも、退職願の提出や貸与品の準備・返却等、社内手続きも多く存在することと思います。抜け漏れがないようにチェックリストを作成し、会社と従業員の双方で確認することで、一連の手続きをスムーズに行えるようにしたいものです。

また、現在は新型コロナウィルス感染症の影響で、電子申請や郵送による手続きを推奨していたり、手続き期限を延長していたりと、自治体によって特別措置が設けられていることがあります。手続きの際には、念のためホームページ等で最新の情報をご確認ください。



内川 真彩美
いろどり社会保険労務士事務所
社会保険労務士、両立支援コーディネーター
https://www.irodori-sr.com

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