新型コロナウイルス感染症拡大の影響で景気が悪化する中、希望退職者の募集や解雇、退職勧奨などの「雇用調整」に取り組む企業が増えている。このような背景によって、「解雇」や「退職勧奨」が、労働者・使用者ともに関心の高いワードになっているといえるだろう。今回は、「解雇」と「退職勧奨」の違いと、実務上の注意点について解説する。
新型コロナウイルス感染症に起因した「雇用調整」が増加。「解雇」と「退職勧奨」の違いとは

「労働契約の終了」の分類と、「整理解雇」の適法性を判断する4つの基準

厚生労働省から、「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について(12月11日現在集計分)」が公表された。これによると、2020年12月11日時点までの累積値で、「雇用調整」の可能性がある事業所数は11万9,712事業所、「解雇等見込み」の労働者数は7万6,543人となった。

また、希望退職者を募る企業も急増するなど、新型コロナウイルス感染症拡大による業績悪化のため、さまざまな形で雇用調整に取り組む企業が増えている。

企業が行う雇用調整において、「労使間の労働契約」を終了させる方法には、主として次のような分類がある。
「『解雇』と『退職勧奨』の違いとは」の図表1
「解雇」は、「使用者からの一方的な意思表示による労働契約の終了」を指す。「労働者からの一方的な意思表示による労働契約の終了」は「辞職」であるが、解雇は労働者の生活に大きな影響を及ぼすため、辞職よりも厳格な規制が設けられている。

「労働基準法」上の規制としては、期間の定めのない労働契約の場合、原則として使用者は解雇する労働者に対して30日前に予告する必要があるほか、産前産後休業期間といった一定の場合には解雇が制限される(「労働基準法」第19条、第20条)。また、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上、相当であると認められない場合は、権利濫用として無効となる(「労働契約法」第16条)。

解雇は、懲戒処分の一種である「懲戒解雇」とそれ以外の「普通解雇」に大別され、さらに、普通解雇にも「整理解雇」と「狭義の普通解雇」の区分がある。新型コロナウイルス感染症拡大の影響による人員削減のための解雇は「整理解雇」となるが、これについても「労働契約法」第16条の「解雇権濫用法理」が適用される。

「整理解雇」の適法性は、次の4つの要件に着目し、これらを具体的に総合考慮して判断を行う。

(1)人員削減の必要性:債務超過や赤字の累積など、企業の合理的運営上の必要性
(2)解雇回避努力の有無:経費削減、配置転換、希望退職者の募集など
(3)被解雇者選定の合理性:規律違反歴、貢献度、雇用形態など
(4)手続の妥当性:労働組合(労働者)との協議・交渉の有無、納得を得るための努力など


この4つの要件を見てもわかるように、企業が経営上、厳しい状況に陥ったからといってすぐに整理解雇できるかというと、難しい場合もある。そのため、各要件を検討し、慎重に実施する必要があるのだ。

法的リスクが小さい「合意退職」を実施する際の注意点

前述のとおり、「解雇」は厳格な規制に加え、無効と判断されるリスクもあることから、実務上は解雇に至る前に「合意退職」を成立させるケースが多い。これは使用者から労働者に退職を促し、労使間の合意によって労働契約を解消することを指し、「退職勧奨」から「合意退職」へ、という流れになる。「退職勧奨」は、法律を根拠とする行為ではないため、被退職勧奨者側が勧奨に応じるか否かは、なんら拘束されることなく自由に意思決定することができる。

法律を根拠としていないために、退職勧奨は原則として使用者が自由に行うことができるともいえるが、一方でその説得の手段・態様などが社会通念上、相当と認められる範囲を逸脱してしまった場合、被退職勧奨者の自由な意思決定を妨げ、違法な権利侵害を行ったとして、不法行為(「民法」第709条)と見なされる。

労働者に不当な心理的圧迫を与えるような行き過ぎた行動があったケースでは、損害賠償義務(慰謝料支払義務)を負う可能性もある。具体的には、以下に該当すると「違法」と判断される可能性が高いので、注意が必要だ。

・多人数(使用者側)による面談
・誤信させる言動
・暴力的、または被退職勧奨者の名誉を棄損するような言動
・多数回の長時間にわたる拘束
・不当な人選
・本人が退職しない意思を明確にしているのにも関わらず、退職勧奨を執拗に行うこと


また、雇用調整の手段として、希望退職者を募集する企業も急増している。「希望退職(制度)」は、経営上の必要性から、退職金の増額といった一定の優遇措置を示して退職希望者を募る制度で、期間を定めて時限的に実施するものだ。希望退職の募集は、従業員に対する退職申し込みの誘引であり、これを受けて従業員が応募し、使用者が承諾することで合意が成立する。希望退職は「合意退職」のひとつとなるので、法的リスクは小さい方だろう。

なお、似た制度として「早期退職優遇制度」があるが、こちらは中長期的な人事政策上の観点から、恒常的に実施されているのが通常である。

「希望退職募集」と「早期退職優遇制度」は、時限的な措置か恒常的な制度かという点が異なるものの、どちらも従業員の中から希望退職者を募って、これに応じた従業員を「合意退職」させる方法だ。法的リスクが比較的小さいとはいえ、使用者側は事前に十分な検討や準備をしていないと、退職者が集まらず雇用調整の目的を達成できない。そして結局、整理解雇を検討せざるを得ない場合も出てしまう。

いずれにしても、「解雇」と「退職勧奨」には、事前に十分な検討・準備を行い、万全の体制で取り組む必要があるので、社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談しながら進めていくことをおすすめする。
松田法子
社会保険労務士法人SOPHIA 代表
https://sr-sophia.com/

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