現実に即した「評価制度」を作る方法の第4回目です。現状を分析して賃金制度の方向が決まると、いよいよ次は「賃金制度」本体を設計します。賃金制度で最も重要なポイントは「基本給」です。さまざまな理由で支給する手当はすべてオプションと考えてください。
マニュアル不要、誰でもできる人事評価制度【4】現実にあった制度の作り方~賃金制度設計編~

「基本給」を考える

経営者や企業の人事担当者に「基本給の意味を教えてください」と質問すると、明確に答えてもらえるケースは少ないものです。しかし、毎月支払う給与の中で、「基本給」は最も多くの割合を占めています。そのため、基本給の意味をしっかりと決めることが大切です。例えば、「年齢」もしくは「年齢と能力」の両方を基準にするなど、理由はさまざまですが、会社が自由に決めることができます。

その決める際の判断基準のひとつが、前回にご説明した従業員を序列する「ギャップ分析」です。ギャップ分析は、個人の能力だけを見て順位付けをしました。順位と賃金が比例しているなら、基本給は「能力に対する手当」と判断できます。しかし、そうはならないケースが多いのが実情です。理由はさまざまですが、中途採用者の賃金を決める際に「前職と同額の賃金で採用した」といった原因で、イレギュラーが発生していることが考えられます。

ここでは「基本給を能力給とするか」、もしくは「基本給は年齢給とし、能力給は手当で支給するか」を決定します。

ちなみに、私はいつも基本給を能力給とすることをおすすめしています。本来、賃金は「仕事に対する成果」として支給するものと考えているからです。これまでのように年齢や勤続年数だけで賃金が上昇する仕組みは、終身雇用を前提としないこれからの時代に合いません。

「等級」を設定する

次に、「等級」を設定します。等級とは能力に応じたグループのことです。名称はなんでも構いません。例えば、「グレード」や「ランク」、「レベル」などでもよいでしょう。もちろん「等級」のままでも結構です。

私は等級をよく相撲に例えます。相撲には「番付」があります。それは、横綱を頂点として大関、関脇、小結、前頭などさまざまです。すべての関取に番付がついています。この番付を頭に思い浮かべてみてください。横綱は大関よりも強いという称号ですよね。また、横綱であれば、前頭と同じような成績を出す関取は認められません。これがポイントです。横綱には横綱の能力、大関には大関の能力と、称号によって分けられています。

これは、企業の等級そのものです。同じような能力の従業員を等級でまとめられています。まさに、その能力のレベルに応じて2等級、1等級と序列する企業のようです。

また、「横綱と大関では格が違う」という表現をよく耳にします。横綱と大関を企業の等級で例えるなら、「2等級と1等級は格が違う」と表現できます。そうした意味から、等級が上になることを「昇格」といいます。

従業員の順位付けをして上から順に並べてみてください。すると、明らかに能力差が認められるところがあるので、そこに線を引きましょう。線を引いたところが、等級の違いとなります。

例えば、上位から3等級、2等級、1等級という具合です。わかりやすく分けるなら、3等級が管理職、2等級が中堅社員(役職者含む)、1等級が一般社員となります。基本的にはこの3等級に分けられれば十分です。
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等級の幅を設定する

そして、等級の賃金に「上限と下限」を設定します。こうすることで、等級が上昇しなければ、賃金はある一定の水準以上はあがらなくなります。また、等級が下降すれば、賃金も下がるという仕組みになります。

これは、いつまでも同じグレードで滞留すると、いずれは賃金が頭打ちになるということと、さぼっていると賃金が下がることを意味します。こうすることで、やる気のある従業員はさらに上を目指そうとモチベーションを高め、昇格に意味を感じるようになります。
マニュアル不要、誰でもできる人事評価制度【4】現実にあった制度の作り方~賃金制度設計編~
しかし、問題点もあります。等級よってすべての従業員がうまく格付けできないケースです。基本給と能力が合致していないことが原因です。

例えば、Aは「3等級の賃金だが、3等級にするにはどうも……」と思う場合、格という意味からも明らかに3等級以下であれば、2等級に降格することになります。
マニュアル不要、誰でもできる人事評価制度【4】現実にあった制度の作り方~賃金制度設計編~
ただし、2等級の賃金まで下げることは「不利益変更」になりかねません。そこで、2等級の賃金上限を引上げます。このように、現実の従業員の能力と賃金を最大限考慮して等級の設定を行い、すべての従業員を格付けします。
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等級設定の注意点

7~9等級ぐらいまで設定されている等級制度もよく見かけます。そこで、経営者の方に「7等級と8等級の違いはなんですか?」と質問させていただくと、あまり明確な答えが返ってくることはありません。また、9等級分を設定していても、ある等級には従業員がいないといったケースもあります。

最初は、少ない等級で運用することをおすすめします。「こんなに少ない等級では、一番上の等級まで登れたあとは、どうすればよいですか?」という質問を受けるかもしれません。しかし、実際に必要になったら時点で等級を増やせば良いのです。

実在しない夢のような等級を作っても、現実に即しません。また、そうそう簡単に上位等級まで上昇することもありません。等級を分ける明確な理由がないなら、分けなくても良いのです。


真田直和
真田直和社会保険労務士事務所 代表
https://www.nsanada-sr.jp/

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