東京商工リサーチの調べによると、「人手不足」に関連した倒産は2019年1〜10月で334件(前年同期324件)に達し、前年同期を3%超過。倒産件数が年間で過去最多を記録した2018年の387件を上回る可能性が出てきている。人手不足は中小企業ほど深刻な状態であるが、採用課題だけではなく、それ以上に今在籍している人材をいかに定着させるかが大きな問題となった。そこで今回は「従業員が辞めずに働く理由」の分析方法についてお伝えしたい。そして、人材を定着させるための環境づくりと採用基準に、この分析を活用していただきたいと思う。

従業員が辞めずに働く理由とは

「社員が働く理由」は一人ひとりによって異なるが、多数派の意見としてはどんなものがあるか、企業側は把握しているだろうか。大事なことは、社長が思っている「社員が働く理由」と、人事が考えている「社員が働く理由」、そして、社員自身が思っている「働く理由」が一致しているということである。この3つの項目が一致している会社は、一般的に定着率が高いといわれている。そこで、その分析方法を3点あげてみたい。

まず1点目は「適性検査の活用」である。適性検査にはさまざまな種類があるが、これらを活用することで、企業全体の状態を把握できる。なかなか言語化できなかったものを数値として現すことで社風が「見える化」する。

それでは代表的な適性検査をご紹介したい。

・リクルート「SPI3」……面接では確認しにくい基本的な資質をはかる検査であり、応募者の人柄を簡単に確認できる。結果は受検後すぐに受けとれて、面接で確認すべき項目が報告書に表示される。

・日本エス・エイチ・エル「玉手箱III」……「知的能力」と「パーソナリティ」の両面から受検者を測定する総合適性診断システム。入社時に見ておくべき「バイタリティ」、「チームワーク」などを含む9特性のフォーマットで報告される。

・日本エス・エイチ・エル 総合適正テスト「WebGAB」……知的能力(言語・計数)とパーソナリティについての詳細な測定結果と同時に、「将来のマネジメント適性」、「営業」、「研究開発」など7つの職務適性について予測する。

・日本能率協会「V−CAT」……個人特性を、人それぞれに備わった固有の「持ち味」と、持ち味の行動への現れ方を左右して環境への適応・不適応を決める「メンタルヘルス」の両面から把握する適性検査。

・ジェイ・ディー・エル「CUBIC適性検査」……個人の資質や特性を「性格」、「意欲」、「社会性」、「価値観」の側面から評価。平均値と比較しながら、個人の特性や全体像が具体的に把握できる。

・日本・精神技術研究所「内田クレペリン検査」……90年以上の歴史と、年間70万人の受検実績に裏付けられた妥当性・信頼性の高い心理検査。外国人採用にも利用できる。

・ミツカリ「mitsucari」……性格や価値観を可視化する個人の分析だけでなく、人間関係や組織との相性も可視化する適性検査。10分で受検可能で料金も非常に安価。社員受検は何名でも無料となる。

上記のような適性検査を活用し、従業員の傾向を把握することも有効である。

2点目は「社内アンケートの実施」である。しかし、実施理由を明確に伝えておかないと社員からは人事評価に影響が及ぶと思われてしまい、なかなか本音は出てこない。「定着する人材採用のために、社員の皆様が当社で働く理由を教えて欲しい」と伝え、無記名の実施をすることで、より本音が引き出せるだろう。Googleフォームの活用といった集計処理も簡単にできる方法を、あらかじめ選択しておく必要がある。アンケートの質問項目としては、下記のような項目があげられる。

・入社何年目か?
・当社で仕事をすることの満足度とその理由
・仕事をする上でのモチベーションに該当するものは?(給料・人間関係・仕事内容・休日数・労働時間・福利厚生・やりがい・自己成長など)
・当社で働く魅力は?
・満足度は100点満点中何点か? また、その理由
・仕事を探している友人に、当社をすすめたいか? また、その理由

3点目は「本当の退職理由」の分析である。退職時に、本人に理由を聞いても、多くは「一身上の都合により」という建前で話すため、本音の理由はつかみにくい。介護といった家族の問題で退職を余儀なくされるケースもあるが、多くは「単に転職」をしている。大切なことは、「なぜ退職にいたったか」を会社が分析できているかどうかである。会社を辞める理由としては、身近な人間関係の問題と、今より好条件の求人を見つけたというケースが多い。

退職時には本音を聞き出すことは難しくても、退職後2〜3ヵ月後に冷静になった状態で話す機会を設けることで、本音を引き出すことも可能である。ここで得た本音には真摯に向き合い、受けいれる姿勢をもつことと、退職後に貴重な時間をつくってくれたことへの感謝は忘れないようにしたい。

質問事項としては下記のような項目があげられる。

・今はどんな仕事をしているか?
・当社を退職しようと思った決め手は何か?
・当社をもっと働きやすい環境にするための改善点は?
・今の仕事では当社を転職に至った理由を解決できているか?
・今後当社に戻りたい気持ちはあるか?
・今後のキャリアの目標は?

以上のような項目をヒアリングし、「見える化」することで、「従業員が働く理由」が言語化できる。それを求人募集や会社説明会、面接などで活用していただきたい。

「従業員が働く理由」から見えてくる明確な欲しい人材像

先述した方法で分析した結果から、下記の6項目を明確にすることで、あなたの会社で働く理由は明確になる。

(1)給与・待遇面:給料が高いか、低いか。給料以外のやりがいはあるか。賞与の有無。
(2)仕事内容面:単調な仕事か複雑な仕事か。指示があるか。指示がぶれていないか。
(3)人間関係面:ドライかウェットか。仕組み化されているか。
(4)評価面:厳格な運用か適当な運用か。従業員が満足しているか。役割は伝わっているか。
(5)労働時間など衛生面:残業の有無は。事務所がキレイか。やる気が出る環境か。
(6)社風面:社長と社員が同じ方向を向いているか。理念が浸透しているか。自由な職場か。ワークライフバランスはどうか。

上記に関して「見える化」、「言語化」してから採用計画を立てることで、ミスマッチのない採用が可能となる。

「人、モノ、カネ、情報」のうち「人を大切にしている」という経営者は多いが、具体的に人に対してどのような投資をしているかを質問すると、返答がないケースが多い。「企業は人なり」。ミスマッチのない採用と、定着率向上で企業の永続的な成長発展は可能となる。


田中亜矢子
社会保険労務士
人を育てる人、を育てる。採用定着コンサルティングOFFICE「サン&ムーン」 代表
http://www.sun1moon.com