2016年4月に「女性活躍推進法」が施行されて以降、いよいよ女性の就業が当たり前になりつつある。総務省が発表した2019年6月の労働力調査によると、女性の就業者数は初めて3,000万人を突破した。35~39歳女性の労働力率は76.7%となり、1999年の30~34歳の労働力率56.7%、および35~39歳の61.5%と比べると、10ポイント以上も向上した。M字カーブの凹みは解消されつつある中で、女性活躍推進への「疲れ」や「反発」の声も少なからず聞こえてきている。また、昨今の「働き方改革」によって、管理部門がやるべき仕事量は増大しており、喫緊の課題とはいえない女性活躍推進は後回しにされている感がある。しかしながら、女性活躍推進が成功するか否かは、今後の日本を占う施策であり、決して他人事にしてはならない。
女性活躍は後回しにされるのか。他人事で済ませてはならない理由

今なお、男性が育児休業を取得しにくい理由とは

女性の育児休業は、いまや、ほとんどの企業が取り入れているといっても過言ではないだろう。厚生労働省の「平成30年度雇用均等基本調査」によると、82.2%の女性が育児休業を取得している。しかしながら、男性の育児休業取得率は近年増えてきたとはいっても、わずか6.16%で、しかも、そのうちの約60%が取得日数5日未満にすぎない。
  
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「平成29年度労働者調査」によれば、男性の育児休業がなかなか進まない主な理由は以下のとおりとなっている。

(1)業務が繁忙で職場の人手が不足していた……38.5%
(2)職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だった……33.7%
(3)自分にしかできない仕事や担当している仕事があった……22.1%
(4)収入を減らしたくなかった……16%

これらの理由は、すべて男性にのみ当てはまり、女性には当てはまらない、というものでもない。かつては女性たちも上記と同じ理由で育児休業を取得できず、退職を余儀なくされたり、容易な仕事にシフトしたりしてきた。同じ職場の男性や、子どもを持たない社員たちからは「ぶら下がり社員」といわれながらも、自身の意欲を下げて葛藤を減らしてきた女性もいたのではないだろうか。

しかし現在は、育児休業を取得したとしてもキャリアを築くことも可能になっているだろう。男性社員も同じ認識を持てるよう環境を整えねばならない。

女性活躍推進が、その他の社会問題解決の糸口に

すべての女性が活躍できる職場というのは、誰もが活躍できる職場づくりの第一歩だといえる。制度が整っているだけでなく、職場全体でフォローしあえる風土ができている環境といえるからだ。実は、この「会社の制度や風土の問題」は、今後全社員に非常に大きく関わってくることだと考えている。なぜなら、「本格的な介護社会の到来」と、働き手が「病気を抱えながらの就業が当然の社会」になることが予想されるからだ。

「高齢化社会」というのは「人口に占める高齢者の割合が7%に達した社会」のことだ。ちなみに、「高齢社会」は14%。日本は現在28%にものぼっているので、世界に類を見ない状況、前例のない高齢社会に既に突入している。そして現在も、すごいスピードで進んでいる。それが日本の現状だ。

「2025年の崖」という言葉を聞いたことがあるだろうか。2025年には「団塊の世代」が一斉に75歳以上の後期高齢者になるというものだ。国民の4人に1人が後期高齢者という、想像を絶する超高齢社会が到来することがわかっている。

働き手が一斉にリタイアするその頃には、女性も当たり前のように働いているだろう。そのため、かつての日本社会のように、結婚した女性に介護を任せきりにすることは、もはや期待できない。それ以上に、「嫁いだ女性は自身の父母と義父母の面倒をすべてみるべき」という前時代的な価値観は大きく変化しているはずだ。「2025年の崖」は、団塊の世代にとってだけでなく、すべての人にとって他人事で済ませてはならない切実な問題なのである。
 
介護だけではない。高齢者自身も社会で活躍していく道を探さなければならなくなるのだ。企業としても、高齢の従業員が増えれば健康にもますます対処していく必要がある。また、年齢を問わず2人に1人が癌を罹患する時代だともいわれている。闘病・治療と仕事を両立させるというのは、今後誰の身にも起こりうる課題なのである。

なお、介護や病気によって会社を休むのと、育児を理由に会社を休むのとではまるで意味が違うことを知っておかなければならない。

妊娠から出産後までの「産前産後休業」、そして子供が1歳になるまでの間で希望する期間を休業できる育児休業は、必ずしも計画通りにはならなくとも、本人と企業とで、休業に向けた準備を進めることができる。また休業期間中は、子供の誕生に喜びをかみしめつつ、それまでの日常とは異なる「子供がいる」状態での働き方に向けて、本人も企業も、備える時間を持つことができるだろう。働き手は復帰時期を自分で調整しやすく、企業にとっても社員の職場復帰時期を予測し、それに対して準備可能なものだ。復帰後も子どもが小さく手がかかるうちは休みや遅刻・早退が発生することも予想されるため、保育園は自宅か会社の近くにあってほしいと誰もが望む。しかし、そのような対応も子どもの成長とともに不要となってくるので、ある程度は期間限定と考えてよいだろう。

しかし、家族の介護や自身の病気は、ある日突然やってくる。もしも、年老いた父母が転倒してしまったら、即座に介護生活が始まるし、いつまで続くかわからない。さらに、実家が遠方にある場合もある。突発的にふりかかるこれらの難問の対処として、女性が活躍しやすい環境をつくっておくことは、実はすべての人にとって直接的にも間接的にも有用なのだ。「女性活躍推進」は、今後、自分自身に関わってくる社会的課題を解決するための土台づくりなのだということを理解しておきたい。

【参考】
厚生労働省の「平成30年度雇用均等基本調査」
三菱UFJリサーチ&コンサルティング「平成29年度労働者調査」(PDF)


ワークパートナーゆう社労士事務所
代表 國府田千秋

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