第6回 規律の徹底

強いチームをつくる『上司力』

「自立型」の部下をつくるための、最後のテーマは、規律の徹底です。言葉を変えると「守るべきことを守らせる」ということです。
これは、ともすると「ルールで縛る」と捉えがちであり、むしろ自立型を阻害するのではないかと考える人もいるようですが、それは違います。規律が乱れている職場では、自立型のメンバーは育たないのです。
それはなぜか?
例えば、遅刻が多いメンバーがいたとします。真面目に時間を守っているメンバーからすると、遅刻をする人がいるというだけでストレスがたまります。また、「なんだ、あいつは。ふざけるな」とうっぷんがたまり、負の感情が沸き起こります。
このような状態では、やる気にブレーキがかかりやすい。つまり、自立型に向かうエネルギーを奪ってしまいます。

そして、規律を乱しているメンバーに対して我々上司が何も注意をしなかったらどうなるか?
真面目に行動しているメンバーからすると「なぜ、あのような行動をした人に注意をしないのか?」と不満を溜めます。すると、ますます負の感情が心を支配し、自立型に向かうパワーを引き下げてしまいます。

私は色々な企業のマネジャーにお会いする機会がありますが、「厳しくできない」と言う人は多いものです。
確かに、厳しく指摘するとその場では気まずい雰囲気が流れることがあります。その気まずさを恐れて、厳しく言えない・・・。
しかし、指摘すべきときに指摘しないと、周りのメンバーが「なぜ言ってくれない?」と不満を溜める。結果的に、前向きに取り組んでいるメンバーのやる気の芽を摘み取ってしまいます。
誰でも「嫌われたくない」という気持ちがあります。しかし、嫌われることを恐れて指摘すべきときに指摘しないと、チーム力を引き下げる結果となります。

また、不思議なことに上司がしっかりと指摘しないチームは、メンバー同士も指摘し合うことを止めてしまいます。厳しいことを言い合わず、お互いにいつもニコニコ笑いながら楽しい会話を繰り広げる。一見楽しい職場です。
しかし、そのような職場が一番恐ろしい。これこそ、本音の指摘をし合えない「仲良しクラブ」です。仲良しクラブになったら最後。本音で語り合わず、表面的な付き合いを続けるので、問題が放置されます。

業績の向上は難しそうですね・・・。

では、チームが規律を守って仕事をするために最も必要なことは何か?
それは、言うまでもなく我々上司が規律を徹底して守ることです。
例えば、メンバーに「個人情報保護のために、机の上はきれいにせよ!」と指示しておいて、自分の机はゴチャゴチャ・・・。「あの人は、言っていることとやっていることが違う」と感じられると、メンバーは規律を守ることがばかばかしいと感じ始めます。
「○○さんが言うことはもっともだ」と感じてもらうためには、まず自分が徹底してください。

また、規律を守ることの大切さを朝礼やミーティングで逐一説くことも大切です。例えば、時間を守ることの大切さや、報連相の大切さを説く。メンバーに「いまさら何だよ」と感じられるのではないかと恐れないで下さい。そう感じられても構いません。
メンバーの意識に「規律を守ることは大切だ」と植えつけることが目的なのです。

なお、規律を正す最も簡単な方法が挨拶です。朝出社した際に、大きな声で「おはようございます」と発声する事をルール化する。中にいる人も、「おはようございます」と挨拶を返す。挨拶は礼儀の基本。それが習慣化されると、不思議なことに他の行動も正されてくる効果があります。
色々な企業様にお伺いしますが、挨拶がしっかりしているところは、不思議と全ての面がしっかりしている。研修を行っても、開始時間の5分前には全員が集合していると言うことも珍しくありません。
一方で挨拶がない、又は元気がない企業様は、全てがダラダラしている。研修を行うと遅刻する人が続出。課題の提出物も出てこない・・・。

皆様の職場では、挨拶がしっかりできていますでしょうか?
挨拶の乱れは規律の乱れと肝に銘じ、メンバーそして自分の挨拶をまずは見直してください。

規律が守られている職場はけじめがあり、安心して仕事に取り組めます。真面目にやっている社員にストレスが掛からず、パフォーマンスも上がります。
前述したように、規律を乱している社員に我々マネジャーが指摘をしないと、真面目にやっている社員が不満を持ち、パフォーマンスを下げてしまうリスクがあります。

ただ、「いつも真面目にやっているメンバーがたまたま遅刻をした」などの場合はどうするのか?
いつも真面目にやっているのだから、何も指摘しなくてもよいのではないか?

確かに、心理的には「今回はしょうがないよな」と感じるかもしれません。
しかし、何も指摘をしないのはフェアではありません。いつも真面目にやっているメンバーであっても、規律を破ったのは間違いないのですから、きっちり指摘を行う必要があります。
もし、そこで指摘をしなければ「ひいきをしている」と見られるかもしれません。このようなきっかけで、他のメンバーが不信感を抱くこともあるのです。

しかし、日頃真面目にやっている人にいきなり頭ごなしに叱るのは得策ではありません。冷静にミスを指摘し、次回から気をつけるように話します。ミスが複数回続くようでしたら、徐々に厳しい指摘を行い、最終手段として叱責をします。
叱責をする際の注意点は、「○○さん、今日の朝遅刻したのは間違いないよね」等と、事実を確認します。その後、何か事情があったのかを聞きます。家庭でトラブルが発生したなど、特別な事情がある場合もありますので。その上で初めて、短く語気を強めて叱責を行います。

叱責する際は、あくまでメンバーのことを考えて。
「お前のせいで俺が困るんだよ」と自分中心の言葉や、「お前はバカか」等と人格を否定するような言葉は逆効果とさえいえます。
「遅刻をすると、○○さんのこれまでの信用が台無しになるぞ」等、その人のことを考えて叱っているということが伝わるようにしてください。

ただ、一番理想的なのは、メンバー同士が指摘し合う風土です。
規律を乱しそうなメンバーがいたら、「○○さん、そのような行動は止めてください」とお互いに言い合う風土、それこそが自浄作用が働く強いチームといえるのではないでしょうか。
そのためにはどうすればよいのか?
実は、ここまで述べてきた
「共通目標を掲げる」
「個人ビジョンを明確にする」
「エンパワーメントをして役割を与える」
等が有効な手段となります。

メンバーが共通目標に本気になっていれば、チーム全体の動きを常に考えるようになります。チーム全体でがんばらなければ共通目標は達成できません。誰かが、規律を乱せばチームワークが乱れ、共通目標達成は不可能となります。
すると、それを指摘する動きが起こるのです。

また、個人ビジョンが明確なメンバーは、今の仕事にやりがいを見出し、成果が出てきます。成果が出れば自信が出ます。自分に自信のあるメンバーは、遠慮することなく規律を乱すメンバーに指摘を行えます。
エンパワーメントで役割が与えられているメンバーも、「自分の責任を果たそう!」と前向きになっています。その責任意識が、規律を乱すメンバーを注意するという方向に 向かわせるのです。

一方で、「共通目標を掲げる」「個人ビジョンを明確にする」「エンパワーメントで役割を与える」といったチームを強くする要素を満たさないままに、お互いに指摘をし合おうとすると、それは単なるいがみ合いに発展する恐れがあります。
メンバー同士の心が一つになっておらず、チームワークもできていない状況なのですから・・・。

よく「うちには規律を乱す問題児がいる」等と相談を受けます。
そして「そのようなメンバーには、どう接すればよいのでしょうか?」と個人だけの問題のように考えているマネジャーが見受けられます。
しかし、多くの場合、それ以前のチームを強くする要素を満たす努力をしていないというのが現状なのです
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著者プロフィール

株式会社ジェック CPM経営変革推進統括 取締役 松井 達則

1972年生まれ。立教大学卒業。アメリカン・エキスプレスを経て、2001年株式会社ジェックに入社。通信業界・住宅業界・不動産業界・食品メーカーをはじめ、多くの業界に対してリーダーシップ教育及び現場変革コンサルティングの経験がある。特に、営業部隊の変革には定評があり、これまで多くのプロジェクトリーダーとして顧客成果を創出している。近年は「自律型人材育成」をテーマに、創造的な職場づくりへの取り組みに力を入れている。
【著書】 『メモテク』(かんき出版)、『営業のプロが教えるすごい仕事術』(日本実業出版社:共著)
【執筆】 『ザッツ営業』(日本実業出版社)、『企業実務』(日本実業出版社)、『近代中小企業』(データエージェント)

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