就活も採活もWebへの依存度が高いと言えるかもしれない。一般的に、学生は就職ナビからプレエントリーし、セミナー情報もWebで知る。学生の学力や適性を測るテストもWebで行われるケースが増え、面接の通知はメールで伝えられることが多い。かつてと比べると、お互い「顔の見えない」なかで就職、採用が進んでしまっている。
こんな就活、採活に異議を唱える就職サービス会社がある。パフだ。「顔の見える就職と採用」という理想を掲げて10数年。パフはテクニックや効率を追わない。企業に対して、学生を選ぶのではなく「育てる」採用活動を提案している。そんなパフの非常識とも思える理念と実践を釘崎清秀社長にきいた。

企業からの一方向の情報でなく、 学生と企業が対等なサイトを構築

現在の新卒採用のスタイルを批判しています。なぜですか?

第1回 「顔の見える就職と採用」を実践する 就職サービス会社パフの存在理由
わたしが新卒採用PR業界を知ったのは、学生時代にリクルートでアルバイトした時のことです。いまから27年前だから1983年のことです。アルバイトと言っても、企業を訪問し、企画提案する営業でした。その時にリクルートの事業のものすごさを知ったのです。
しかし疑問もありました。学生はリクルートブックに紹介されているのが広告だと知らないで読んでいるのです。また書かれている内容が適正・的確かと言えばそうではありません。意図的に学生を「ここはすごい。いい会社」とミスリードしています。本当はやばい会社でもよく見えてしまうのです。つまり学生はだまされているわけですよ。そういう新卒採用メディアのあり方に違和感を抱いたのです。
わたしはその後にコンピュータの世界に入り、プログラマとして腕を磨きました。そして1990年に転職し、適性検査と人事情報システムの企画開発を経験しました。そして1995年にインターネット求人サイト「登龍門」立ち上げに参画して運営責任者になりました。
1995年はWindows95というOSが発売され、一般人でも電話回線でインターネット接続が可能になった記念すべき年です。
そして1997年12月に自分の考える就職ビジネスを実現すべく、パフを設立したのです。新卒採用メディアは企業から学生に情報が一方向に流れますが、わたしはネットなら学生と企業が対等なサイトが作れると考えたのです。

就職ナビで、学生は企業と接触しないまま就職できると錯覚

1997年は経済環境がかなり厳しい時でしたね。

パフを設立した1997年はアジア通貨危機が起こった年です。三洋証券、拓銀、山一證券が倒産し、98年には長銀が破綻します。経済環境の悪化に伴い、採用ゼロ企業が続出し、就職に苦しむ学生が増えていました。そこで始めたのが「パフの就職応援ページ」です。求人媒体ではなく、学生の視点に立ち、悩みに答えるサイトです。就職相談室という掲示板では、わたしが毎日数十人の学生の質問に答え、次第に口コミで評判が広まっていきました。
この頃はリクルートが紙メディアからリクルートナビ(現在のリクナビ)に移行する時期で、採用メディアのWeb化が鮮明になった時期です。企業はWebで楽をして採用、学生は企業とほとんど接触しないまま就職できるという錯覚に陥る素地が作られた時期です。
そういう就職・採用は間違っています。そこで「顔の見える就職と採用」というコンセプトを掲げ、98年秋に「職サークル」を始めました。「職サークル」は企業に対して「ウソをつかない」採用活動を、学生に対して「仮面をつけない」就職をするように説きます。
採用活動は、その年度の採用学生を「選ぶ」のではなく、社会全体の共通財産として若者を育てる場にしようではないかと呼びかけたのです。学生に伝える情報やイベントも、仕事の本質、働くリアルを伝えて、学び、気付きの機会にしてもらおうというもの。
こういう趣旨を企業に伝えて職サークルに参画してもらおうとしたのですが、50社訪ねて49社に断られました。「なるほどね。でも会社としては参画しかねる」という企業がもっとも多く、次に「ふーん?」という無関心派。ただ「これからの採用はこれでなくてはならない」という少数企業があり、そのような企業に対して私が有していたありったけの採用ノウハウやサービスを提供できたことで、パフはつぶれずに済み、今日まで活動することができたのです。

「学生のことをいちばん知っている」という強みを生かす ワンストップサービス

「職サークル」を創設して、企業が採用活動を通じて若者を育てるというコミュニティを作られたのがパフの創設期。それから10数年が経ちましたが、現在のビジネスドメインを教えてください。

第1回 「顔の見える就職と採用」を実践する 就職サービス会社パフの存在理由
パフの事業の前にパフの強みを説明しておきます。一般の就職情報会社は、営業も制作担当も学生と話すことはなく、ほとんど学生のことを知りません。ところがパフのスタッフは毎日のようにブログやメールで学生の相談に乗っています。もちろん学生と直接会って話す機会もとても多いのです。そこでわたしは「パフは学生のことをいちばん知っている」と自慢します。
「いちばん知っている」強みを生かして展開しているビジネスドメインは6つです。
1番目は採用のコンサル&アウトソーシング。2番目が就職情報サイト「職学校Web」で創業期の「パフの就職応援ページ」の発展形です。3番目がイベントで、パフが企画するものと、企業や大学の要望に応じて開くものがあります。
4番目がシステムです。採用管理DBと内定者フォローシステムがあり、後者は2001年にスタートし、130社がパフの内定者フォローシステムを使っていた年もあります。丸10年で延べ870社の実績があります。これはわたし自身がコンピュータ会社でSEだった経験もあって始められた事業です。
5番目が採用ツール。ムービー、入社案内、ホームページとさまざまな形態のツールを作成しています。つまり新卒採用に関してはワンストップサービスで、あらゆるサービスを提供できるのがパフです。そして、学生をいちばん知っているという強みを生かして企画しています。
6番目の事業は企業向けではなく、大学向けに就業力育成プログラムを提供する事業で、最近始めました。

「顔の見える就職と採用」を社会に根付かせるための4カ年計画

パフが「顔の見える就職と採用」を掲げて活動を開始して10数年。しかしWeb就活、Web採活はますます画一化しているようにも見えます。この状態を変えられますか。

変えたいと思っています。しかし今年や来年に一気に変わることはないでしょう。わたしは今年から「職サークルルネッサンス」という4カ年計画を始めています。まず今年は「ウソをつかず採用活動を通じて学生を育てる少数の企業がある」というウワサを広めようと思っています。そのために「NO WORKING NO LIFE WEEK」を実施します。これは11月20日(月)から12月5日(日)にかけての1週間に職サークル参画企業が自主企画で開催するものです。
たとえば「全社員が受け入れるOB/OG訪問」「親と一緒に参加する働く意味を考えるセミナー」「社長と話す」「採用担当者が1時間に一度つぶやくホンネ」「職サークル参画企業を訪ねるバスツアー」。
そして12月19日(日)学生の発表会を開きます。これにはマスコミにも案内し、記事として取り上げてもらう予定です。こういう取り組みを通じて学生の気付きの機会を与えると同時に、社会に「こんな就職、採用の取り組みがある」という認知を広げるのです。
2年目は仲間を増やす年です。パフは年間約200社との取引がありますが、今年の「NO WORKING NO LIFE WEEK」参画企業は36社(9月9日現在)です。これを増やします。
3年目は仲間たちが育てる採用活動を展開する年。そして4年目には育てる採用活動が、当たり前になる年。こういう4カ年計画で「若者たちは社会共有の財産」、「採用活動で若者を育てる」という常識を確立したいと思うのです。

取材を終えて

「本音が聞きたい」という言葉が就活で採活でも声高に語られる。企業は、学生が就活本を過信して化粧、演技することを嘆く。ところが学生も本当の情報が得られないと不満を募らせている。双方にとって不幸なボタンの掛け違いは、Web依存の採用、就職状況では中々変わらないだろう。
パフの「職サークルルネッサンス」はその状況を変えようと果敢に挑戦している。賛同者が増えることを期待する。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!