人材フローを健全に保つために新しい人事制度が必要

定量分析に基づく合理的な人事制度設計
今の人事制度のトレンドについてお話したうえで、これまで見てきた定量分析の重要性を考えていきたいと思います。
 例えば、現在社員数380人の会社があるとしましょう。このうち実務層が200名、管理職が180名とします。しかし、仕事の実態をみるなかで管理職が実際どれだけ必要かをみると80名という数字になったとします。そうなると残りの100名の管理職は必要ないことになります。
 新卒で入社して全員が60歳で定年退職すると考えてみますと、会社に在職している期間は38年ですから、毎年10人の新卒が入社して、10人が定年退職するということになります。でも、この会社の適正な人員構成を考えると管理職は80名です。だいたい40歳で管理職になるとすると、管理職になってから定年まで20年ですから、毎年4名が管理職になり、4名の管理職が退職する計算になります。毎年10名の新入社員がいるので、その10名が40歳になって4名が管理職になったとしても、6名は管理職になれないことになります。
 そこで、管理職の適正な数が80名ということをおさえたうえで、人員構成をシミュレーションすると、管理職手前の段階で大量の人数が滞留することになります。滞留した層のモチベーションが下がるから、管理職に上げてしまおうとすると元の図にもどる、すなわち管理職180人という結果になってしまうわけです。これでは実際に管理職として仕事をしているのは80人だけで、あとの100人は肩書きだけの管理職となります。当然、支払い賃金も多くなるわけです。
 現在のように、右肩上がりの成長は考えにくい、一時的な成長はあったとしても、それが将来にわたって続くとは予想できない時代には、新卒の採用だけでなく、中途で足りないところを埋めることと同時に、自然退職だけでなく、新陳代謝が進むような会社の仕組みを作っていくこと、会社のなかを人材がうまく流れていくような仕組み、これを人材フローと呼んでいますが、その仕組みを作っていき、正しい人員構造を作っていくことが必要になってきています。そうでなければ、先ほどのように、大きな滞留層が発生してしまったり、過剰な管理職が発生してしまったりすることになります。
 これをうまく作っていくためには、どうすればいいのでしょう?
 ひとつは、最近では、皆が管理職になろうとする方向だけでなくなってきています。職種を分けて、もともと管理職を狙わない専門職、技能職などを作る会社も増えています。しかしながら、滞留しない人材フローを作るためには、新陳代謝が避けられないものです。これは定年退職だけでは対応できない。そこで、先ほどの賃金水準というテーマが関わってきます。HPの方には外部水準よりも高い賃金を支払う、LPの方には必ずしも外部水準までの賃金を支払わないということで、HPの外部流出を防ぎつつ、LPの代謝を図ります。そうしないと健全な人材フローを作り上げることができないということです。
 これまで述べたように、定量分析のなかで等級と実際の人数を調べたり、外部市場に照らして流動性を考えたりしたことも、人材フローを健全に保っていこうとする新しい人事制度を作っていくために必要なのです。定量分析をするなかで現在の人事制度の問題点や課題を的確につかみ、新しい人事制度の設計を行っていただきたいと思います。

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