スタートアップ企業は「ファイナンス戦略」が重要であることは言うまでもありません。なぜなら、多くのスタートアップ企業の当面の目標は「IPO(株式上場)の達成」だからです。そこで今回は、スタートアップで活躍できる「経理人材」とはどのような人かを整理してみたいと思います。「経理財務」の人材を経験者採用で採用する際に、人事が留意しておきたいことをまとめてみます。

第1回から読む▶【1】“スタートアップ企業”へ転職したい大企業出身者が増加!?人材の流動化が進んでいるワケ
【8】スタートアップ企業で活躍できる「経理人材」とは?

スタートアップ企業における経理人材の重要性

スタートアップ企業にとって、「どのような経理人材を採用するか」ということは非常に重要です。ではなぜIPO(株式上場)に経理が重要なのかというと、IPO審査をクリアするための審査質問の多くが「経理関連の質問」や「経理の知識がないと答えられない質問」だからです。このことは経理だけでなく人事(総務)の皆様に対しても同様のことが言え、労務に関するIPO審査の質問も経理ほどではありませんが出題されます。

つまりスタートアップ企業にとって「経理財務」と「人事労務」のスキルレベルと審査質問への瞬時かつ適切な対応力は、IPO審査合格の鍵を握るといっても過言ではありません。また、人事と経理財務のメンバーが連携して、助け合うチームワークも重要です。そのため、人事の皆様にとっても、一緒に仕事をしていく経理・財務のメンバーにどのような人材を受け入れるか重要になりますので「経理人材」に関する知識を入れておかれると良いと思います。

大企業とスタートアップでは業務の任せ方が正反対

経験者採用で、大企業出身の経理人材を迎え入れるにあたって、大企業での経理実務経験者のスキルレベルには、3つの段階があると理解しておいた方が良いでしょう。

レベル1:経理業務のうちの一部だけ経験がある
レベル2:経理業務全般の実務経験がある
レベル3:経理業務全般の実務経験に加えて「統括経験」がある


事務処理量が莫大にある大企業の特色は、経理部の人員が多く、基本的には各担当者は自身の業務だけ(入金管理だけ、売上請求書の管理だけ、といったように)に深く関わっています。その後、時間をかけてさまざまな業務担当のスキルを積み重ね、やがて統括担当になっていく、という成長過程を経るのが一般的です。これは経理業務に限らず大企業の人事(総務)も同様でしょう。そのため、いくらやる気があっても、20代の若手経理社員は1のレベル、30代の中堅になって2のレベル、40代でようやく3のレベルの仕事を任せてもらえる、という企業が多いでしょう。大企業である限り、それは仕方がない仕組みだと思います。

ところがスタートアップ企業はその正反対です。若手社員であっても「人手が足りないので、やる気があるならばとにかく全ての経理業務をこなして欲しい」、「税理士もついているし、やればなんとかなるからできれば統括まで全部やってみようよ」くらいの勢いで仕事を進めてもらうことを期待するものです。そのため、人事担当者がケアをしないと、次のようなアンマッチや不満の声が出てくる可能性があります。

【良くある不満その1】
経理業務の一部しか実務経験がないのに、全ての経理実務業務と統括まで勢いだけで任されて、毎日プレッシャーだ。自分の上に1日も早く上司を入れて欲しい


こういった声は、若手社員から挙がることが多いでしょう。大企業では経理実務の全てを経験していたわけではないのに、スタートアップ企業では人手が少ないため、経理統括担当としてなし崩し的に任されてしまい「自分が最終決裁者として責任をとる自信がないので、誰か上司をつけて欲しい」と会社に要望するケースです。ただ、大企業からスタートアップに転職される20代の方の中には気持ちが非常に強い方もいるので、実際に意向を汲み上司を入れても、結局上司と衝突してしまうケースもみられます。そのため、こういったケースでは、人事担当者が聞き手となり本人のプレッシャーや不安を吸収した上で、むしろ反対に本人の下のポジションに人を採用して、日常業務を部下に引継ぎ、本人は統括担当者として成長してもらう、という形のほうがうまくいくケースもあります。人事担当者として、「せっかく〇〇さんのやりたいようにできるスタートアップ企業に転職してきたのに、不安だから上司を入れて欲しい、と言って上司を入れたらそれは結局、大企業に居た時と同じ環境になってしまいませんか」と冷静にアドバイスして差し上げると良いと思います。

【良くある不満その2】
経理の統括だけをするつもりで転職してきたのに、何で自分が細かい実務処理までしなければいけないのか


一方で、今度はベテラン社員からはこのような声が出てきそうです。スタートアップ企業も起業してしばらくは、経理部門は少数精鋭でこなさなければいけないでしょう(それは経理に限らず他のどの部門も同じです)。

そのため、スタートアップ企業では、たとえ役員や管理職であっても「口だけでなく手も動かさないと会社がまわらない」ということをご理解いただく必要があります。人事担当者としては、「そのような状況について、スタートアップ企業ではそれが日常なんです」と笑顔でフォローしていただけると良いと思います。


【良くある不満その3】
経理業務だけをやるつもりで入社してきたのに、どうして現場社員に経費精算や請求書の提出の催促もしなければいけないのか


最後の3つ目は、年齢に関係なく起きうるアンマッチです。「自分の担当する業務以外のことに関しては、一切越権行為をしてはいけない」と思い込んでおられる方によく見られます。これはある意味、大企業出身者の方の宿命といいますか、環境の影響があると私は思います。
大企業の場合、社員が何千人、何万人といますから、一人ひとりの業務を明確にし、かつ、人と人との業務の境目をきっちり線引きしておかないと、組織が大混乱に陥り統制がとれなくなってしまいます。ただ、その環境に慣れてしまうと、おのずと「自分の業務からはみ出すことをしてはいけない」、「自分の業務以外で気になったことを見聞きしても、口や手を出すのは混乱を招くし、相手に対しても失礼なことだ」という思考になっていく人も多いと思います。
しかし、スタートアップ企業では、その思考こそが周囲との軋轢を生むことになります。スタートアップ企業は部署や上下関係を問わず、お互いに助け合っていかないと円滑に業務がまわらない側面は多分にあります。人事担当者としては、こういったスタートアップならではの環境に慣れてもらうようにサポートする必要があるでしょう。

経理人材の定着がIPO(株式上場)の達成可能性を高める

冒頭でもお話ししたように、スタートアップ企業にとって優秀な経理人材が定着するかしないかは、IPOの達成可能性に直接的な影響を与えます。人事の皆様も、同じバックオフィスの仲間として経理担当者を支え、また経理担当者から反対に支えてもらえる関係性を築かれると少数精鋭の環境下でもお互いに心強く感じ、業務に取り組むことができると思います。
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