多くのビジネスパーソンは、会社や団体といった組織の中でアサインメントされて日々を過ごしている。与えられた職務に一生懸命で、他人の行動や考え方、組織の性質を気にする余裕などないのが実情だろう。しかし、時には周りをメタ認知して、「組織や個人のプリンシプル(原理・原則)」を理解しておかないと、的はずれな認識からつまらない諍いを起こしてしまうこともある。改めて、「人や組織は特有のプリンシプルで動いている」ということについて、筆者の考えを述べてみよう。
組織風土を改善するには、「組織や個人のプリンシプル(原理・原則)」に対する理解が重要

人は「現状維持バイアス」に囚われている

人は「現状が変わること」を無意識に敬遠する。現状を変換することに経済的メリットがあってもである。

例えば、収入があまり変わらないダブルインカムの夫婦が、「夫は2,000万円・妻は1,000万円」の生命保険に加入していたとしよう。この加入方法は、遺族年金の支給の仕組からしたら完全に間違っているのだが、いくら「加入額は、夫と妻で逆にしたほうがいいです」と説明しても、これを変えようとしない。このことを「現状維持バイアス」という。これはおそらく、生命保険にお世話になることは日常的に起こらないため、リスクに対して鈍い状態に置かれているからであろう。

このように、人はよほどの現実的理由がないと、自分を変えようとはしない。今のままで苦労しているわけではないし、何となく今の状態でいることに落ち着くのだろう。「会社に不満があっても、大きな問題が顕在化していない限りは、ずるずると勤め続けてしまう」のもそうだし、「仕事を進める中で、新しいやり方を取り入れた改善・改革が進まない」のも現状維持バイアスがなせる業である。

職場環境改善の鍵は「スマホ禁止」?

現代人にとって必要不可欠なアイテムとなっているスマートフォン(以下、スマホ)だが、弊害も理解しておいた方がよい。スマホを持っていると、他にやるべきことがあるのに、それに集中できずパフォーマンスが落ちることが明らかとなっている。例えば、人と会うときにスマホをテーブルの上に置いている人は、スマホに気を取られて人の話を真剣に聞いていない。また、仕事中にデスクの上にスマホを置いておくのも、仕事への集中力を削いでしまう、といった具合だ。

ある実験によれば、机の上に置いておくだけでなく、カバンの中にしまっておいても、仕事のパフォーマンスは上がらなかったそうである。一方で、「家に帰ったらスマホを禁止」という実験を1週間続けたら、幸福度・人生満足度・自己肯定感が高まったそうだ。

これらの結果は、「いかにスマホが日常的に小さなストレスを蓄積させているか」を物語っていると言えそうだ。仕事に支障のない範囲で、「スマホ禁止」を職場環境改善のツールとして活用することも有意義かもしれない。

コロナ禍とテクノロジーの進展で“わがまま”になる組織人

交通機関等のモビリティが発達し、体力が低下しているのと歩を合わせるように、人間の“わがまま”が目につくようになってきた。これは組織内でも見られる現象で、「自分は悪くない、周りが悪い」という言葉で表現されることを耳にしたこともあるだろう。その原因には、「コロナ禍」と「テクノロジーの進展」が大きく影響しているのかもしれない。

かつては、自分の職場にどれほど嫌な人がいようが、出勤して仕事をしなければならなかった。そのような環境で、忍耐力やストレス耐性が鍛えられたのである。しかし、昨今のリモートワークや在宅勤務により、嫌な人と顔を合わせたり、気分の乗らない飲み会に無理やり付き合わされることもなくなった。自分の気の合う人とだけ付き合い、好きなように行動してよい環境が拡がりつつあるのである。このことは、悪く言えば“人のわがままを助長している”とも言えよう。

この大きな流れを止めることはできない。このような環境を所与のものとして、組織としての対策を講じていく必要があるだろう。

「組織」と「イジメ」は“不可分”

新卒採用者でも中途採用者でも、入った組織でイジメに遭ったことがあるかもしれない。イジメが良いことであるはずもないが、ある研究では、「組織からイジメはなくならない」と報告されている。

「イジメの効能」と言い切ってしまえば誤解を招くこと請け合いであるが、ある視点では「イジメに組織を結束させる効果がある」という。例えば、どんな組織もヒエラルヒーがあり、秩序で成り立っている。新入社員は、その肌感覚がないため、それを教え込むためにイジメが手段として使わることがあるのである。そうすることで、新入社員の組織へのロイヤルティが高まるわけだ。

倫理的に、イジメは決して許されることではないが、組織からイジメがなくなることは難しい。「組織からイジメは切り離せない」と理解し、対策を立てていく必要があるだろう。



このような不可視な前提の下、ビジネスパーソンは仕事に勤しんでいる。これらを理解し、いくらかでも改善できれば、ワークエンゲージメントも向上するに違いない。それには、職場で対話を重ねることが重要だ。ぜひお勧めしたい。
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