学生の大手志向による一極化する応募状況を改めるべく、厚生労働省をはじめとする各公的機関が中小企業への就職促進のイベントをいろいろと実施しております。これは確かに成果が上がっていると実感しております。たとえば、就活サイトに新規の求人がほとんど出てこなくなるような時期でもヤングハローワークに相談に行くと、そこには新卒の求人が見つけられることが多いようです。
  ただ、一方では問題もあるように感じております。それが表題のブラック企業の問題です。今回はそのあたりについての個人的な意見を述べてみたいと思います。

まずブラック企業とはそもそもどのような企業なのでしょうか?
言葉ばかりが独り歩きしている感がありますが、私自身は以下の3つに分類できるのではないかと思います。
(1)意図的にコンプライアンスを無視しており、しかもそれを改めるつもりのない会社
(2)コンプライアンス意識はあるが、守るべき法律に対する知識がなく、結果的に違法、脱法行為を行っている会社
(3)社風、あるいは経営TOPの発想や行動が個性的であり、万人向けでない会社

実際のところは(1)~(3)の組み合わせになっている企業がほとんどで、どれかひとつに集約されることはほとんどありません。また、一律にそうだというわけでは決してありませんが、企業規模で言うと知名度の高い大企業は違法・脱法行為が発覚するとマスコミにより社会的制裁を受けるために、概ね(1)あるいは(2)という会社は少ないように感じています。
また、中小企業すべてに問題があるわけではもちろんありませんが、誤解を恐れずに言ってしまうと、中小企業には(1)または(2)の企業が一定の比率で含まれている可能性がないとは言えないと考えています。
 (1)はオーナー企業、あるいはワンマン企業に多いように感じています。中小企業の場合、企業TOPの個性が強いとどうしてもその意向に逆らえず、そのTOPの考え方が違法であっても誰も意見できずに(意見すると辞めないといけない)、そのまま違法、脱法行為が継続してしまうという状況が多いように感じます。
 (2)は急成長している会社に多いのではないでしょうか。たとえば、技術ベンチャーで技術者ばかりの会社ですと、人事労務系の法律の知識がありませんので、自分達が特に問題ないと感じており、そういった方面に対する問題意識も少なく、結果的には違法・脱法行為が放置されているようなケースです。このような会社は管理系にプロが加わると、劇的に良くなるケースが見受けられます。
 (3)については企業規模に関係なく存在していると感じています。有名な会社、大きな会社だと思って入社したらとんでもない社風で、とてもついていけずに早期離職してしまったというようなケースですね。ネットでの評判ではこういう企業はブラックだと書かれていることが多いのですが、私見としては、その社風に合う人にとっては良い会社なので、必ずしもブラックではないと考えています。ただ、合うか合わないかのマッチングの幅が狭いので、そのあたりの見極めを行って仲介する必要があると考えています。

 このようなブラック企業の見極めを行い、適切な企業紹介を行うことが、大学の就職支援室の重要な職務のひとつであると感じております。本学では、過去のOB・OGの離職状況なども独自に調べ、加えていろいろなところに出ている企業の評判なども調べて学生に伝えるようにしております。ただ、この手の情報についてはさまざまな情報が横行しており、すべての情報が真実でないことも事実です。
したがって、学生に対してはできるだけ情報元も正確に伝え、自己の判断で応募の可否を決断するように伝えております。併せて、噂レベルのブラック企業の風評や、「ブラック=悪い会社」との思考停止したような一律的な判断を行わないよう留意して指導しております。

 さて、少し論点がずれてしまったのですが、上述したようにリーマンショック以降の新卒の求人難に対して、さまざまな行政機関から中小企業への就職支援の施策を行っていただいております。しかし、この部分についてのフィルタリング機能がほとんど働いていないように感じており、非常に遺憾に感じることがあります。これには理由があります。いわゆる中小企業への学生の就職促進施策については、県、市町村、厚生労働省、中小企業庁、そして経済産業省などさまざまなところから助成金が出ており、それを元に支援していただいているようなのですが、ほとんどの場合、行政機関間での連携や情報のシェアが行われていないために、このような状況になっていると考えています。
 企業を外部から見て、その会社の実情がどうかという判断を行うことは非常にリスクがあります。公正中立な立場であるべき行政機関が、企業選別のフィルタリングを行うことに対して、その判断基準に対する説明のリスクを考えると抵抗感があることは良く理解できます。だからといって、すべての企業を「優良企業」として学生に紹介するわけにもいきません。さらに、行政機関が介在する就職支援イベントの場合、行政機関のお墨付きの企業という見方を持つ学生が多いのも事実です。まさか「参加企業の中にブラック企業が含まれているかもしれません。それについては自己責任で判断してください」と参加学生に伝えるわけにもいかないでしょうから、やはり一定のフィルタリングを行う必要があるのではと感じています。

 さて、そういう状況で「今後どうすべきか」という点について、私見を述べさせていただきます。一言でいうと、これは情報の開示を徹底することに尽きると考えています。具体的には、入社3年以内の離職率、男女比率、男女管理職の割合、平均勤続年数などを参加申し込み時点に企業に記入していただき、そのデータをそのまま学生に開示してはどうかと考えています。実は、本学の学内説明会においてはすでに実施しておりますが、少なくとも(1)の会社は入ってきていないように感じます。ただ大学ごとに個別の基準を設定していても煩雑になりますので、これらを規格化できないものかと考えております。これは基準を満たしていない企業をフィルタリングするだけでなく、労務管理に優れている企業をピックアップし、学生にアピールできるというメリットもあるのではと感じております(厚生労働省が「くるみんマーク」を設定していますが、あのようなイメージですね)。

 これについては私個人の力ではどうにもならない部分があるのですが、地元の官公庁には少しずつ話をしている状況で、わずかですが前向きに進められそうな動きが出てきています。本コラムを読んでいただいている関係者の方で、もしご賛同いただける方がいれば、ぜひ一緒に前向きに取り組んでいきたいと考えております。

では今回はこのあたりで・・・。
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