メンタルヘルス不調による休職者の増加が問題になり始めてから10年近く経ちました。その一方で、ストレスチェックを実施するだけ、またはメンタルヘルス対応を外部の機関にお任せしている、といった会社がいまだに多く存在します。メンタルヘルス不調を防ぐためには、会社が主体となって対策を講じることが必須です。今回は、メンタルヘルス不調による休職者への対応に関して、多くの会社が見落としがちな点と、産業保健職の存在意義について説明します。
「メンタルヘルス不調による休職者」への職場復帰支援で必ず行うべきこと

会社が休職者に必ず伝えなければならない「2つのこと」

従業員がメンタルヘルス不調で休職をする場合、多くは「抑うつ状態」、「適応障害」、「自律神経失調症」等の診断書をもって「休ませてほしい」と従業員が申告するところから始まります。

休職を認める場合、人事部門は(1)「復職するための基準」をきちんと本人に伝えること、(2)「休職は会社の措置であって労働者の権利ではないこと」を伝えること、を必ず行いましょう。スムーズな復職のためだけでなく、のちに従業員から訴えられるといったトラブルから会社を守るためにも大切です。

(1)の「復職するための基準」については、「週5日、定時に会社に来られること、働こうという意欲があること」といった一般的な基準のほか、「復職時点である程度のパフォーマンスが出せ、復職後3ヵ月程度でほぼ従前のパフォーマンスに戻ること」を加えることをお勧めしています。また、「いつまでに復職できないと解雇または自然退職になるのか」といった、休職に関する会社の就業規則を伝えるのも必須です。

また、診断書を貰ってくれば休めることが従業員の権利であるように考えている人がごく一部いることも事実です。そのため(2)が必須となります。「休職」は会社が発令するものであり、「解雇の猶予」、つまり本来なら働けないから解雇するところを、傷病が治るまで猶予するための措置であることを、人事担当者は常に忘れないようにしましょう。

ところで、多くの従業員は、休職期間の最初の2週間程度は家からほとんど出ず、ずっと横になっているという経過をたどります。これは仕事によって体や心に蓄積したダメージを回復させるための期間であり、その後はじめて色々なことが考えられるようになります。ですので、最初の2週間程度はあまり会社から連絡を入れない方がいいと思われますし、休職に入る際に(1)と(2)を伝えても頭に入らないことが多いです。

そこで、僕の場合、休職1ヵ月目に産業医面談を行っていますが、そこで人事担当者から改めて(1)と(2)を伝えることを勧めています。また、(1)と(2)が書かれた用紙をあらかじめ作っておき、従業員が休職に入る際に「調子がよくなったらこれを読んでね」と渡しておくのもいいでしょう。

なぜ「産業保健職」が必要か

従業員が職場のストレスで心身の不調をきたした場合、職場の人が定期的に連絡を入れることが症状に悪影響となる場合もあります。また、本人としては職場に言いたくないこともあるでしょう。そこで、産業保健職(産業医等)の出番になります。

多くの場合、従業員の休職が決まったら、産業保健職は該当する従業員の主治医に手紙を書きます。この手紙の目的は、「会社が認める休職期間」と、「その方の業務内容」を伝えることです。休職期間が3ヵ月の会社もあれば、3年のところもあります。その期間にあわせて、主治医も治療計画を立てます。僕の場合、休職期間中、月1回か2ヵ月に1回程度産業医面談等を行います。そこで従業員の体調を確認し、必要に応じて主治医に追加の手紙を書いています。

また、1年以上休職期間がある場合、3~6ヵ月のリハビリをする方が復職につながりやすいのですが、そのあたりのことを説明するのは産業医の役割です。リハビリの実施が就業規則に書かれている場合は人事担当者が本人に説明するのですが、その際も産業保健職が同席する方がスムーズです。

さらに、主治医の意見や本人の状態や意見を、そのままではなく、医学的専門性をもってある程度かみ砕いて会社に伝えることや、会社の方針や本人業務内容等も鑑みて復職可能かどうかを判断することなども、産業医の職務になります。

このように、従業員が休職に入った時点から、同時に復職の準備を始めておく必要があるのです。

特に、産業保健職がいない会社において、人事部門だけで休復職の判断を行う場合、「復職直前に主治医から復職可という診断書が出たが、本人はとても働ける状態には見えない」といったケースがしばしばあるとも聞きます。この場合、主治医の意見に従って復職させるか、あるいは他の医師を探して本当に復職可能か判断してもらうことになりますが、復職直前の1回の面談だけで復職可否の判断を下すのは難しいことが多いです。

産業医の選任義務のない小さな企業では、顧問となる医師とあらかじめ契約しておいて、休職に入った時点から上記のような継続的な支援業務を行っていただくことをお勧めします。


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