私が所属するサイボウズ株式会社では、「100人100通りの人事制度」を掲げ、多様な働き方を許容する斬新な仕組みを創り続けています。しかし、この「100通りの人事制度」はいきなり生まれた訳ではありません。新しい働き方を求める人に必要な制度を適用できるように、「新しく追加すること」を積み重ねた結果、現在のスタイルになりました。

本コラムは、私自身のサイボウズでの経験を元に多様なアプローチの手法をご紹介しています。第1回は“シニア社員も十人十色”という現状を踏まえた、「人事制度設計のあり方」をお伝えしました。今回は、シニア社員の「報酬」「仕事の成果」「モチベーション」を最適化し、さらに業績にも直結する「シニア社員のコミットメント」を高めるアプローチについて考えます。

【人生100年時代におけるシニア社員の活躍支援】第1回から読む▶社員がシニアになっても“活き活きワクワク”働き続ける制度設計とは
第2回:シニア社員の「報酬」「仕事の成果」「モチベーション」の3つを最適化するアプローチとは

「チーム(会社)へのコミットメント」とは

(図解)仕事の結果=『能力』×『熱量』×『考え方』
京セラやKDDIを創業し、またJALの経営再建を成功させた故稲盛和夫氏は、仕事の結果は、『能力』×『熱量』×『考え方』(3つの掛け算)で決まると語っておられます。

第1回のコラムで、シニア社員を分類する際に「スキルの高さ」と「チームへのコミットメントの高さ」という言葉を使いましたが、稲盛氏の言葉をお借りしてこれを表現すると以下の通りになります。

・スキル=『能力』
・チームへのコミットメント=『熱量』×『考え方』

『熱量』とは、自分の「能力」をどれだけ一生懸命使うことができるか、『考え方』とは、その「熱量」を注ぐ心の姿勢(どのような方向や目的に向けるか)を意味します。例えるなら、物理や数学の世界の“ベクトル”の「大きさ」と「向き」と考えるとイメージしやすいかもしれません。

「チームへのコミットメント」が高い状態とは、「自分のスキルを駆使して、モチベーション高く働いている」かつ「チームのゴール達成に貢献できている」ということです。そして、それぞれのレベルを上げ続けることで「チームのさらなる成長や業績」に繋がっていくのです。

シニア社員について考える上で避けて通れない「報酬と成果のミスマッチ」の解消

ここでは「報酬」に比べて「仕事の成果」が低いというケースに絞って話を進めます。

この場合の有効なアプローチは「報酬を下げる」ことです。正確に言うと、会社側からシニア社員に「今のままだと報酬を下げる必要がありますが、どうしますか?」と伝え、具体的に会話を始めることからです。このアプローチが非常に有効な(おそらく唯一の)方法ではないでしょうか。

ただし、単純に「報酬」を減らすのではなく、シニア社員が自分にマッチする方法を考えられるような提案とセットで行うことを推奨します。

1.猶予期間を設ける(≒早く伝える)
2.報酬を見直す(減らす)と同時に、働く時間も見直す(減らす)

特に、「1.猶予期間を設ける」ことはとても重要です。いきなり「来月からお給料を減らします」と言われたら、当然ながら社員側は相当なショックを受けるでしょう。モチベーションも業務のパフォーマンスも低下し、本人にも会社にも、何もメリットありません。

では、どう伝えるかというと「このままだと報酬を減らす可能性がある」という事実をできるだけ前もって本人に伝えます。その後、ある程度の猶予期間を確保した上で「本人の覚悟を引き出して、ネクストアクションを一緒に考え、リスキリング支援や副業支援に向けた本人の行動を促す」という進め方が効果的です。

また、人によっては「2. 報酬を見直す(減らす)と同時に、働く時間も見直す(減らす)」のほうが非常に有効に機能するケースもあります。以下、詳しく説明します。

「報酬」だけでなく「働く時間」を減らすという選択肢も

持続的成長が求められ、生産性向上に取り組むことが当たり前となった現代において、“仕事の成果として生み出された価値”は、時と共に徐々に減っていきます。一般的には、同じことをずっと続けていても、評価は上がらないものです。

発展途上の若手や中堅社員は、「その価値の自然減」の部分で新しいチャレンジを試みたり、新しい役割を任されたり、さらなる研鑽を積むことを求められます。そして、自分自身の市場価値(スキルや社内価値)を過去より高めることによって評価され、「報酬」を維持向上しています。しかしながら、シニア社員の場合はそれが難しい場合があります。

一方で、生み出した仕事の「価値」は減少していても、経験が豊富なシニア社員の方が「仕事の効率」は向上していることはよくあります。習熟度が増し、イレギュラーの対処も行いながら、以前よりも短い時間で仕上げることができるようになるからです。

シニア社員の「報酬」が減っていくということ自体は、不可避かもしれません。
ただ、同時に業務時間を減らすことができれば、「報酬」は減ったとしても「時給」はアップします。そして、その空いた時間を使って、社外で副業をしたり、社内の別業務を担当したり(社内副業)することができるようになるのです。つまり、「仕事の成果や価値」を新たに生み出し、その対価として別の「報酬」を得ることも可能となるかもしれません。

実をいうと、私自身がこの運用に救われた一人です。幸いにも上司が報酬減額までの十分な猶予期間設けて、同時に勤務時間の削減も認めてくれました。そのため、猶予期間中に社内外に副業先や新しい役割を開拓し、役職や権限を後進にバトンタッチすることができました。つまり、私自身にとっても、会社にとっても、そして一緒に働くメンバーにとっても、三方向に望ましい状況に着地できたと考えています。

全ての人に適合するアプローチではないかもしれませんが、会社側が報酬の見直しを考える際に、思い切って働く時間も見直してみると、お互いに新たなメリットを享受できる場合があります。一つの選択肢として準備しておくことを推奨します。
(図解)会社のメリット/社員のメリット

シニア社員と会社が“今後”についてガチ対話することがスタートになる

冒頭でお伝えした通り、「チームへのコミットメント」を高めるとは、仕事への「熱量」と「考え方」それぞれのレベルを上げることを意味します。そのための方法はいくつもありますが、今回お伝えした「報酬の見直し」を伴うアプローチを成功に導くには「3つのステップ」を踏まえることがポイントになります。


ステップ1:「報酬」について真正面から向き合って会話をする
ステップ2:「どう働くか」、「どのように貢献できるか」を会社側と社員で一緒に考える
ステップ3:会社側がその実行を支援する


会社側とシニア社員が対話しながら、共に考える機会を設けることは、シニア社員の仕事だけでなくライフプランに関わる「熱量」を高める支援になります。また、シニア社員自身も自分のスキルをチームのために使う気持ちを強めることができるでしょう。

「キャリアの終焉」ではなく「キャリアのリスタート(再構築)」ができる仕組みづくりを

シニア社員にとっての「報酬の減額」が「モチベーション」に対してどのような影響を及ぼすかということを改めて考えると、実は直接的な因果関係はありません。

報酬が減ってやる気を失ってしまう人もいれば、減額に至るまでのプロセスの中で新たなやりがいを見つけてワクワクと再始動する人もいます。一方、「報酬」と「仕事の成果」とのミスマッチは、経済的合理性の観点から見過ごすことはできない問題です。次第に、ミスマッチを解消する方向に動き「報酬」はいずれ必ず減ります。

誰もが社内の「イス取りゲーム」に勝てるわけではありません。そして、自分が生み出す「仕事の成果」の価値は少しずつ減っていきます。多くの人にとって「報酬の減額」が不可避なのであれば、そのタイミングは「キャリアの終焉」ではなく、「キャリアのリスタート(再構築)」として捉えることもできます。その際に、シニア社員が自分自身で道を選んでいけるような仕組みを準備しておくことが、人事的観点(パフォーマンス向上、人材確保)から望ましいのではないでしょうか。

次回は、「キャリアの再構築」に有効に機能する仕組みである「リスキリング支援」と「副業支援」について考察を深めたいと思います。
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