労働者と使用者との間で、職場におけるルールを定めた「就業規則」。人事担当者であれば、誰もがその役割を知っておく必要がある。特に近年は、働き方改革に関連した法改正や、副業の解禁などに代表される働き方の多様化などを背景に、「就業規則」の重要性が一段と高まっており、より正確な理解・対応が求められている。こうした社会の趨勢に合わせて、「就業規則」を見直し、変更しなければいけない。また、「就業規則」は制定後、所轄労働基準監督署に届け出る必要がある。本稿では「就業規則」に着目し、作成・届出の流れ、また変更や周知に関する注意点について、労働基準法をふまえて詳細に解説する。
「就業規則」の作成方法とは? 就業規則変更と届け出の流れや閲覧方法を労働基準法をふまえて解説

「就業規則」の定義や目的、効力とは

まずは、「就業規則」の定義や目的、効力から解説していきたい。

◆「就業規則」とは何か

「就業規則」とは、労働者と使用者の双方が守るべき雇用に関する規則集である。具体的には、始業と終業の時刻や休憩時間、休日・休暇、賃金の決定や計算・支払い方法、退職や解雇に関する取り決め、安全衛生や職業訓練、災害時の補償などについて、それぞれの会社ごとに定めている。職場でのルールを明確にし、労使双方がしっかりと遵守することで労使間のトラブルを避けられる効果がある。

◆労働基準法における「就業規則」の定め

労働基準法第89条、90条では、常時10人以上の労働者を使用している事業場では、「就業規則」を作成し、過半数組合または労働者の過半数代表者からの意見書を添付し、所轄労働基準監督署に届け出る必要があると明記している。これは、「就業規則」を変更した場合においても同様となる。

◆「労働条件」(労働契約)との違い

「就業規則」は、使用者と対象となる労働者全員との間に統一して定められたルールである。それとは別に、使用者は労働者一人ひとりと労働契約を締結する必要がある。その際に、明示しなくてはいけないのが「労働条件」である。具体的には、以下の6点が絶対的に明示すべき事項として提示されている。

【労働条件の絶対的明示事項】
(1)労働契約の期間に関する事項
(2)有期労働契約の更新の基準に関する事項
(3)就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
(4)始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、2交代制等に就業させる場合に関する事項
(5)賃金の決定・計算・支払い方法、賃金の締め切り、支払い時期、昇給に関する事項(退職手当及び臨時の賃金は除く)
(6)退職に関する事項(解雇を含む)

以上は、「就業規則」と連動して決定された上で、使用者と労働者が個別で合意する条件となる。この他の条件に関しては、「就業規則」に定める労働条件を提示することが一般的である。従って使用者は、労働者と労働契約を結ぶ際、「就業規則」の周知も行う必要がある。

◆「就業規則」の効力

労働基準法第92条では、「就業規則」は法令や労働協約に反してはならないとしている。また、労働基準法第93条及び労働契約法第12条では、「就業規則」で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効となると明記している。

「就業規則」の記載事項とは

次に、「就業規則」にはどのような事項を記載すれば良いのかを説明する。

労働基準法第89条に基で定められているとおり、「就業規則」には、必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)と、当該事業場でルールを定めた場合に記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)がある。下記にそれぞれの内容をあげる。

1.絶対的必要記載事項

絶対的必要記載事項としては、以下の3点が挙げられる。
【就業規則の絶対的明示事項】
(1)労働時間関係:始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項
(2)賃金関係:賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
(3)退職関係:退職に関する事項(解雇の事由を含む)

2.相対的必要記載事項

相対的必要記載事項としては、以下の8点が挙げられる。
【就業規則の相対的明示事項】
(1)退職手当関係:適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
(2)臨時の賃金・最低賃金額関係:臨時の賃金等(退職手当を除きま)及び最低賃金額に関する事項
(3)費用負担関係:労働者に食費、作業用品その他の負担をさせることに関する事項
(4)安全衛生関係:安全及び衛生に関する事項
(5)職業訓練関係:職業訓練に関する事項
(6)災害補償・業務外の傷病扶助関係:災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
(7)表彰・制裁関係:表彰及び制裁の種類及び程度に関する事項
(8)その他:事業場の労働者すべてに適用されるルールに関する事項

「就業規則」の作成・変更、届出の流れ

では、「就業規則」の作成・変更、届出は実際にどのような手順で行うのか、流れに沿って解説する。

◆「就業規則」の作成(変更)から届け出まで

1.就業規則案の作成

前述の記載事項をふまえ、事業場の実態に合った「就業規則」を作成する。厚生労働省のホームページでは、「就業規則」の規定例を解説とともに示した「モデル就業規則」を掲示している。これを参考に就業規則案を作成するのも有効だ。



2.過半数組合または労働者の過半数代表者からの意見の聴取

「就業規則」の作成・変更の際は、事業場における過半数組合または労働者の過半数代表者の意見を聴き、「意見書」として添付・提出することが義務づけられている。「意見書」については後述する。

3.労働基準監督署への「就業規則(変更)届」の届け出

「就業規則」は作成(変更)した際に、所轄労働基準監督署に届け出なければならないとされている。違反した場合には、30万円以下の罰金が科されることになる。

4.事業所での「就業規則」の周知

労働基準法第106条では、「就業規則」は各作業所の見やすい場所への掲示、備え付け、書面の交付などによって労働者に周知しなければならないと記している。

◆「就業規則(変更)届」とは

常時10人以上の労働者を使用する使用者は、「就業規則」を作成・変更する際に、管轄の労働基準監督署に届けを提出しなければいけないと定められている。「主な変更事項」の他、「労働保険番号」や「事業場名」などの記載項目がまとめられた様式が、東京労働局のホームページでダウンロードできる。

◆就業規則の届出に必要な「意見書」とは

労働基準法第90条では、「就業規則の作成や変更に際しては、過半数代表者の意見を聴き、意見書を添付する必要がある」と明記している。「意見書」とは「就業規則」の内容に対して、労働者の代表から意見を聴取し書き記した書類のことを言う。使用者が労働者に不利なルールを勝手に作成・運用できないようにするほか、労働者には労働条件への興味・関心を持ってもらい、就業規則の内容を把握してもらうことが、「意見書」を作成する目的と言える。

◆意見書に必要な記載項目

「就業規則」の意見書に決まった様式はない。「就業規則(変更届)」同様、東京労働局のホームページで様式のダウンロードが可能だ。以下に必要な記載項目を掲げておく。

・会社名および代表取締役氏名
・話し合いをした日付
・「就業規則」に対する労働者代表の意見(「特になし」などでも問題はない)
・労働組合の名称または労働者代表の職名と氏名
・労働者の過半数代表者を選出した方法(具体的には、「投票により選出」などがある)

「就業規則」の周知や不利益変更に関するトラブル防止のポイント

最後に、労使間でのトラブル防止のためにも、「就業規則」に関して果たすべき義務について、注意点を解説していきたい。

(1)「就業規則」の周知

労働基準法106条では、使用者は労働者に対して就業規則を必ず周知しなければならないと定めている。特に注意しなければいけないのは、「就業規則」を労働者が自由に閲覧できる状態にしておくことだ。許可制にしてしまうと、法令違反と見なされる可能性がある。

◆「就業規則」の周知義務に違反した場合

「就業規則」の周知義務を怠った場合には、労働基準法違反として罰則が課せられ、管轄の労働基準監督署から指導や是正勧告を受けてしまう。

・「就業規則」が無効となる
もし、周知が不十分であった場合は、「就業規則」の規定そのものが無効になってしまう可能性がある。過去の判例でも同様のケースがみられる。

・最悪の場合、30万円以下の罰金を科される
違反が悪質である場合には、労働基準法第120条により、30万円以下の罰金を科される恐れもある。

◆「就業規則」の周知方法

「就業規則」の周知方法としては、主に3つある。

・常時、各作業場の見やすい場所に掲示する
見やすい場所とは、労働者が手に取って閲覧できる場所を意味する。事業所が複数ある企業は、全業所に掲示または備え付ける必要がある。

・書面で労働者に交付する
可能であれば「就業規則」を印刷し、労働者に配布するのが最も確実な方法と言える。

・全従業員がアクセスできるデータとして共有する
具体的には、磁気テープや磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置することが定められている。共有のウェブサイトなどにアップロードすることも可である。

(2)「就業規則」の不利益変更

労働契約法第9条では、使用者は労働者と合意することなく、「就業規則」を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできないと明記している。不利益の具体例としては、以下の通りである。いずれも、労働者に与えられていたメリットを会社が一方的な判断でなくしてしまう変更が、「不利益変更」に該当しやすい。

・給与の減額
・各種手当の廃止
・休日数の削減
・休職/復職の条件や福利厚生の変更

◆「就業規則」の変更を適用するためには

「就業規則」の不利益変更が一切できないわけではない。実は、労働契約法第9条には“ただし、次条の場合は、この限りでない”という但し書きがある。次条とは第10条を指す。そこでは、「就業規則」の変更に合理性があり、その「就業規則」が周知されている場合に限っては、変更後の労働条件も有効なものと認められると明記されている。この2つの条件について、それぞれ詳しく見ていこう。

1.「就業規則」の変更に合理性が認められる

「就業規則」の変更に合理性があるかどうかは、以下の要素によって総合的に判断される。

・労働者が受ける不利益の程度
「就業規則」の不利益変更をするにあたって、「会社側は、できるだけ不利益の程度を減らす方法を検討しているか」という点が考慮される。

・「就業規則」を変更する必要性
どうして不利益変更を行わなければならないのか、その必要性の大きさが問われる。会社の存続に関わるなどという場合、必要性が大きいと判断できる。

・変更後の「就業規則」の内容の相当性
業界や業種、同規模の同業他社などを参考に、内容が妥当であるかなども検討する必要がある。

・労働組合等との交渉の状況
従業員との合意形成のため、時間をかけて協議を重ねていくことが必要である。

・その他、変更に関わる事情

2.「就業規則」の周知義務が果たされている

「就業規則」の変更に合理性があったとしても、変更後の「就業規則」が周知されていなければいけない。前述のとおり、労働者が常時「就業規則」を閲覧可能な状態である必要がある。


「就業規則」は、使用者と労働者とのルールであり、約束事となる。労働基準法において効力が定められており、重要な役割をもつ。法改正や、働き方の多様化などさまざまな社会の変化に伴い、定期的に自社の「就業規則」を見直すことを推奨したい。その際のポイントとしては、「必要なルールがすべて記載されているか」、「現行の法令に対応できているか」、「自社の働き方に合致しているか」などが挙げられる。もし、気になる箇所があれば関係者と協議し、「就業規則」の変更を検討するという次のステップに進むべきだろう。労使トラブルが起きてからでは遅いため、早急な対応が不可欠である。

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