組織やチームが何らかの目標・目的に向かってアクションを起こす時、不可欠なのがリーダーの存在である。チームの指導者としてビジョンを定め、メンバーを統率する「リーダーシップ」を発揮する人間がいなければ、成果を出すことは難しいだろう。リーダーシップのあり方に着目した代表的な行動理論が「PM理論」だ。現代は先行きが不透明な時代であるだけに、今まで以上にリーダーの存在価値が高まっている。そこで今回は、改めて「PM理論」の概要を紹介するとともに、「PM理論」に基づくリーダシップ機能の高め方や、「PM理論」と組み合わせてリーダーシップ向上に役立てられる「SL理論」についても触れるので、リーダーシップ開発および組織運営のヒントとしていただきたい。
「PM理論」の意味とは? リーダーシップ向上に役立つ4つのタイプ診断や、SL理論とあわせた活用方法などを紹介

「PM理論」とはどのような理論か

まずは、「PM理論」の定義や機能などについて解説していこう。

「PM理論」とは

「PM理論」とは、リーダーに求められる行動に着目した行動理論の一つである。1966年に日本の社会心理学者・三隅二不二氏(みすみ じゅうじ)によって提唱された。リーダーシップにおいて「P:目標達成機能」(Performance)を重視するか、「M:集団維持機能」(Maintenance)を重視するかという、「P」と「M」の2軸で定義している。P軸は成果をあげるためのリーダーシップを有しているか、M軸は成果をあげるためのチームビルディングに長けているかを表すと言い換えても良いだろう。

●「P」機能の具体例
P機能(Performance function:目標達成機能)とは、目標達成に向けて組織に働きかけ成果を上げるために発揮されるリーダーシップを言う。機能の例としては以下が挙げられる。

・適切な目標設定、計画立案、戦略策定
・業績達成のための業務指示や進捗管理
・業務効率化や生産性向上に向けた業務指導
・ルール違反に対する指導

●「M」機能の具体例
M機能(Maintenance function:集団維持機能)とは、企業や組織をまとめ成果を継続して出していくために発揮されるリーダーシップを言う。機能の例としては以下が挙げられる。

・心理的安全性を高める声かけや配慮
・メンバーの悩みやトラブル解消のサポート
・それぞれの意見や特性を尊重した公平なマネジメント
・良好な雰囲気作り

「PM理論」に基づく4タイプのリーダーシップ

「PM理論」では、P機能とM機能の強さによってリーダーシップ像を4つに分類している。 それぞれの特徴を紹介しよう。

■PM型

高い目標達成能力と集団維持能力を持つ、理想的なリーダー像

PM型は、P機能とM機能のどちらも強い。計画力、管理力に優れ、チームビルディングに向いているリーダーである。ビジネスの場面では、目標達成に向けて具体的な計画を立案したり、的確な指示を出したりすることに加え、メンバーとの関係、組織の状態を良好に保ちチームをまとめ上げることもできるとあって、最も理想的なリーダーとされている。このタイプのリーダーの下で働くメンバーは、業務で高い成果を出せる達成感や働きやすさを実感しやすい傾向がある。

■Pm型

短期的に成果を出しやすいが、長期的にはチームワークやモチベーションの低下を招く

Pm型は、P機能が強くM機能が弱い。目標達成行動に長けているので、緻密な計画や管理、徹底した指示・指導などにより、短期的には成果を出しやすい傾向にある。しかし、集団維持があまり得意ではないだけに、メンバー同士の人間関係に配慮が不足しがちであったり、個々のメンバーをリスペクトする姿勢に欠けていたりする可能性がある。それだけに、長期的に見ると、メンバーのモチベーションの低下やパフォーマンスの低下を招くおそれがある。また、トップダウン型の組織を作りがちなため、後継者を育て組織を大きくしていくことも苦手であると言える。

■pM型

チームの関係性は良好に保てるが、成果を出すための業務指導に困難がある

pM型は、P機能が弱くM機能が強い。集団維持行動に優れているので部下との関係性は保たれやすく、和気あいあいとした職場環境を作ることができる。その一方、目標達成に向けた適切なプランニング能力や、立案した戦略のもと成果を導いていく指導力・マネジメント力には不安が見られる。このタイプのリーダーは、自ら率いる組織の生産性を上げるために、どんな取り組みを進めて行けば良いかを十分に検討する必要がある。

■pm型

目標達成能力も集団維持能力も低い、未熟なリーダーといえる

pm型は、P機能もM機能も弱い。このタイプは、目標達成行動と集団維持行動の両方が劣っているので、成果を上げることも、集団をまとめることも苦手で、未熟なリーダーと言える。リーダーとしての能力を高めていくためには、PとM両方の能力を高めていく必要がある。

「P機能」と「M機能」を向上させるには

PM型のリーダーを目指すために、P機能(目標達成機能)、M機能(集団維持機能)をそれぞれどのように伸ばしていけばよいのか。ポイントを取り上げたい。

■「P機能」を向上させるための取り組み

まずは、「P機能」を向上させるための取り組みから説明していこう。

●明確なゴールと達成計画を設定・提示する
まずは、大前提としてリーダーが会社(組織)全体の目指すべき方向性を認識した上で、自分たちの部署やチームが果たすべき役割や目指すゴールをメンバーにしっかりと設定・提示する必要がある。それを達成するために、メンバーの意識を継続的に促すとともに、具体的に何をいつまでにやるべきかを伝えていかなければいけない。

●具体的な達成イメージをチーム内で共有する
2つ目は、ゴール達成のイメージをチーム内で共有することだ。達成までにすべきことを紐解いて伝えることで、メンバーが共通の理解を持てるとともに、強い意識を持ちながら業務を進めることができるだろう。

●目標達成への行動を徹底させる
3つ目は、メンバーに目標を浸透させると共に、達成に向けた行動を徹底させることだ。チームの目標を自分ごととして捉えさせ、各メンバーの業務により責任感を持たせるとともに、定期的にミーティングを行い、常に全体の進捗を確認・管理するなどの取り組みが想定される。このような行動を継続することで、P機能向上させていくことができる。

■「M機能」を向上させるための取り組み

次は、「M機能」を向上させるための取り組みを紹介したい。

●メンバー一人ひとりと向き合い、丁寧にコミュニケーションを取る
1つ目は、メンバーと信頼関係を築けるよう丁寧にコミュニケーションを取ること。これは、上司対メンバーという縦の人間関係を良好にするためのポイントだ。具体的には、月に一度は1on1ミーティングを行い、メンバーの思い・考えを確認することや、キャリアイメージをヒアリングして共有するという取り組みが想定される。また、日常レベルでもメンバー一人ひとりに気さくに声をかけるとか、メンバーから話を持ち掛けられた際には仕事を一旦中断して意識を集中するといった心がけも大切である。

●メンバー同士の人間関係を良好に保つよう配慮する
2つ目は、メンバー同士の人間関係に配慮すること。こちらは、メンバー対メンバーという横の人間関係を維持するためのポイントとなる。具体的には、会議の場で参加者全員の意見を聞く、メンバー一人ひとりの価値観を認識・共有し相互理解を深める場を設けるなどの取り組みが有効だ。

●チームの心理的安全性を高めるアプローチ
3つ目は、チーム全体の心理的安全性を高める働きかけだ。各メンバーがチームへの貢献実感を持てるよう成果を評価し共有する、メンバー全員によるコミュニケーションの場を意識的に設け、互いの言動を肯定できるような体制を作るといったことがあげられる。これは、縦の人間関係だけでなく、横の人間関係づくりにも役立つポイントである。節度をわきまえた上で、お互いに忌憚なく自分の想いを伝えあえるような環境であれば、チームとしてのまとまりが生まれ、パフォーマンス向上にもつながる。

「PM理論」と「SL理論」を組み合わせた有効なリーダーシップとは

最後に、「PM理論」と関連するリーダーシップ理論として「SL理論」についても説明したい。

「SL理論」とは

「SL理論」とは、P・ハーシー氏とK・H・ブランチャード氏が1977年に提唱したリーダーシップ条件適応理論である。「部下の成長や状況、スキルの習熟度合いによって、リーダーシップのスタイルを変えることが有効である」との考え方を示したものだ。SLは“Situational Leadership”の略で、日本語では「状況対応型リーダーシップ」と呼ばれている。

「SL理論」は、部下への接し方について「援助的行動」を縦軸、「指示的行動」を横軸とする2軸で捉える。縦軸の「援助的行動」はコミュニケーションや承認を、横軸の「指示的行動」は具体的な仕事の指示を意味し、部下の発達度に応じてこれらの強弱を調整することが有効とされる。具体的には、メンバーの習熟度などによって以下の4段階がある。

●S1:教示的リーダーシップ(成熟度の低い部下に有効)
部下に仕事のゴールを提示するとともに、そのゴールに対するロードマップを示す必要がある。リーダーがしっかり監督することで、部下は安心して業務を進められる。

●S2:説得的リーダーシップ(成熟度がやや高まった部下に有効)
ある程度仕事に慣れてきた部下に対して、コミュニケーションをこまめに取り、質問を投げかけたり、自分の考えを伝えたりしていく。

●S3:参加的リーダーシップ(成熟度がさらに高まった部下に有効)
能力は高いが自分で意思決定できない、仕事に対する意欲が低い部下に用いる、カウンセリング型のリーダーシップである。

●S4:委任的リーダーシップ(自立できている部下に有効)
業務遂行力や仕事への意欲が高く、自信も有している部下に最適なリーダーシップ。基本的には部下のやり方に任せ、何か相談を受けた際にのみ、アドバイスするスタイルが望まれる。

リーダーシップ向上のための「PM理論」と「SL理論」の活用

このように、部下の状態に応じて「援助的行動」と「指示的行動」のバランスを取る「SL理論」を、自らのリーダーシップを掘り下げ、補うべき機能を強化する「PM理論」とともに活用すると、リーダーとしてどう行動すれば良いか、メンバーとはどのようなコミュニケーションスタイルを取れば良いかがより明確になる。この2つの理論を上手く組み合わせることで、より理想的なリーダーシップの発揮につながり、チームのパフォーマンスを効果的に引き出す優れたリーダーに近づけるだろう。


「PM理論」を活用することで、自らのリーダーシップを磨くことに加え、リーダーを効率的・効果的に育成していくこともできる。リーダー個人の長所・短所を整理し、足りない部分を伸ばしていくことができるからだ。また、「PM理論」に基づいて組織内のリーダー全員の特性や傾向を分析すれば、組織全体の課題を把握することにも役立つだろう。変化の激しい時代には、強いリーダーが望まれる。本記事を通じて「PM理論」だけでなく、さらには「SL理論」のエッセンスも学び、ぜひ理想のリーダーを輩出していただきたい。
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