新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、ますますデジタル化・DXが進み、多様な働き方も増えてきました。そして、この大きな変化に対応できない企業は生き残れない時代になってきています。今後、企業は何をしていけばいいのでしょうか。加えて、社員も自分自身でキャリア形成を考えなければ、不安定な時代を生き抜くことはできなくなりました。そこで今回は、社員と企業の「キャリア形成・支援」について考えてみたいと思います。
社員の「キャリア形成」と企業の「キャリア支援」、今後の鍵を握るのは“DXへの対応”

「キャリア形成」とは何なのか

キャリア形成とは、仕事や人生のなかで継続して経験を積んでいくことを言います。働く意味や人生の目標を明確にした上で、「自分が今、何をするべきか」を考えながら、日々仕事に向き合うことです。最近の採用活動では、学生など求職者の多くから、社内での教育制度やキャリア支援についての質問が寄せられます。それだけ、「仕事を通じて能力を向上させたい」という成長への希望が強いといえるのではないでしょうか。

公益財団法人日本生産性本部による、「第7回働く人の意識に関する調査」の内容を見てみましょう。この調査は、2021年10月に、20歳以上の日本の企業・団体に雇用されている者(雇用者=就業者から自営業者、家族従業者等を除いたもの)1,100名を対象として実施されたものです。

「図27 年代別・キャリアプランの有無」を見ますと、「キャリアプランを思い描いている」と答えた人は各年代のうち20代・30代で多く、40代以上は、20代・30代に比べて少ないです。ですが、一番少ない40代でも、28%が「明確に思い描いている」または「大まかに思い描いている」と答えています。

このように、キャリアプランを思い描いている社員がいるのであれば、“そうしたプランに対し、企業がどれだけ支援できるか”が、「社員の成長」における今後のポイントになるのではないでしょうか。
年代別・キャリアプランの有無(第7回働く人の意識に関する調査/公益財団法人日本生産性本部)

出典:「第7回働く人の意識に関する調査」(公益財団法人日本生産性本部)

社員の「キャリア支援」のために、企業がすべきこと

では、社員は、自らの能力向上・成長について、どのように実感しているのでしょうか。上記の「第7回働く人の意識に関する調査」における、「仕事能力向上を実感したきっかけ」という質問への回答状況を見ますと、「仕事能力の向上を実感したことが無い」が43%で最も多かったようです。

もちろん、実際には能力が向上していても、本人が気づかない場合もあるでしょうし、控えめな自己評価をしていることもあるでしょう。しかしながら、仕事能力の向上を実感したことが無い上司に対し、キャリアプランを思い描いている部下は、物足りなさを感じるに違いありません。企業としては、社員に対し、レベルの高い業務や新たな分野の業務を担当させたり、新たなツール等の習得機会を設けたりするなど、「挑戦の機会」を積極的に与える必要があります。
仕事能力向上を実感したきっかけ(第7回働く人の意識に関する調査/公益財団法人日本生産性本部)

出典:「第7回働く人の意識に関する調査」(公益財団法人日本生産性本部)

一方で、さまざまな変化により仕事の専門性が細分化されてきており、また業務も多様化してきています。さらに、RPA(ロボットによる定型業務の自動化)やAI(機械に人間と同じような知能を持たせるソフトウェア)の普及により、「社員に求められる能力」は、RPAやAIが対応できない業務に限られていきます。

2015年12月に公表された「野村総合研究所レポート」では、「10~20年後に、日本の労働人口の約49%が、技術的には人工知能やロボット等により代替できるようになる可能性が高い」といわれています。その他にも、2018年に経済産業省がまとめた「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート」の中で、「2025年の崖」について警告されています。「2025年の崖」とは、同省による「DXが進まなければ2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある」という指摘のことであり、DXの取り組みへの重要性を唱えたものです。これらのことから、企業には、「IT分野など技術が必要な職種」や「人間的な付加価値を求められる職種」、「コミュニケーション能力が必要とされる職種」などに対応可能な社員を増やしていくことが求められているのです。

では、企業は具体的に何をすべきかといえば、「人材育成方針の明確化」、「キャリア支援体制の整備」、「キャリア形成の動機づけ」、「能力開発機会の提供」、「評価・人事等への反映」、さらに、これらを支える職場環境の整備等です。これらを行うことで、人材の定着や従業員の意識向上につながり、ひいては組織の活性化、生産性向上への寄与等の効果が期待されます。目標管理・キャリアプランなどをこれから設定する場合、または見直しする場合は、さまざまな人事評価システムを参考にして、制度化することをお勧めします。

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