2019年より順次施行された「働き方改革関連法」に基づき、「働き方改革」が推進されているが、多くの企業が「働き方改革=生産性向上」というロジックで、「IT化」や「時短勤務」、「ダイバーシティ」とさまざまな施策に対して大上段に構え過ぎているように見受けられ、その“本質”が置き去りにされているように感じる。本稿では、「働き方改革」とは本来どうあるべきなのかについて考えてみたい。
“従業員の幸せ”を考えることが「働き方改革」推進の近道となる

「働き方改革」のプライオリティは、「従業員の幸福度向上の追求」であるべき

本来、生産性が向上するか否かは、そこで働いている従業員に依拠するはずだ。では、社内で「働き方改革」を推進する管理部門の担当者は、少しでも“従業員の心持ちに寄り添ったこと”があるだろうか。時代の変化とともに、人々の意識も大きく変容しているのが今日だ。旧パラダイムは壊れつつあるといっても過言ではない。このような時代にあって、「組織風土を改善しないといけない」、「心理的安全性を高めよう」といいながら、ほとんどがトップダウン的に決められ、従業員は納得できないながらも従わざるを得ない、という企業も少なくないだろう。

経営者にはいま一度原点に戻り、従業員の“心”に思いを至らせて欲しい。彼らは、「働き方改革」や「ワークライフバランス」、「コロナ禍」で疲弊しきっているはずだ。そのような状況で「生産性を上げる」ことは難しいだろう。そのため、「働き方改革」のプライオリティは、「従業員の幸福度向上の追求」であるべきだと考えられる。

「従業員ファースト」を目指す理由とは

世間が「働き方改革」に目を向ける以前から、これを実践されている経営者もいる。トヨタ自動車の豊田章男社長が共感し、日参している長野県伊那市の伊那食品工業で、最高顧問を務める塚越寛氏である。その著書『リストラなしの「年輪経営」』によると、塚越氏が実践する経営方針は、一般的に企業が採択しがちな「手段」と「目的」が逆転しており、「幸せな職場やチーム、幸せな社員を創ることが会社の目的」となっているのである。これを目的として、「働きやすさ」や「円滑なコミュニケーション」を徹底した結果、社員のモチベーションが向上し、非効率なものが排除され、生産性が向上した、ということのようだ。それで、48期連続増収増益を達成しているわけだから、素晴らしい企業である。ちなみに、“年輪経営”とは、「木の年輪は毎年少しずつ形成され、急に成長したりしない。それが自然な姿であり、企業もそうあるべき。そして、社会の一員としてしっかり役割を果たしていく」という経営を意味する。

このような企業にとって、「働き方改革」、「SDGs」、「ESG投資」などは“今さら感”があり、ことさら騒ぎ立てて対策する必要もないのだろうと思う。社員が幸福感にあふれ、自分たちで考えて行動できるのだから、「管理」などという言葉とは無縁なはずだ。

また、伊那食品工業の社是は「いい会社を作りましょう」、そして以下の「いい会社を作るための10箇条」が掲げられている。

1.常にいい製品を作る。
2.売れるからといってつくり過ぎない、売り過ぎない。
3.できるだけ定価販売を心がけ、値引きをしない。
4.お客様の立場に立ったものづくりとサービスを心がける。
5.美しい工場・店舗・庭づくりをする。
6.上品なパッケージ、センスのいい広告を行う。
7.メセナ活動とボランティア等の社会貢献を行う。
8.仕入先を大切にする。
9.経営理念を全員が理解し、企業イメージを高める。
10.以上のことを確実に実行し、継続する。

日本には、昔から“家族主義的な会社”が数多く存在する。もちろん、現代的な個人主義にも見るべき部分は多いが、先行き不透明な時代だからこそ従業員の“心”に寄り添い、温かみのある家族主義を中心に据えつつ、世相を反映した個人主義とのハイブリッドな「幸せな会社づくり」が求められているのではないだろうか。

よくよく考えたら「当たり前」ではあるが、企業も従業員も“皆が幸せになる”ことを目的とした施策を掲げ、地道に取り組んでいけば、おのずと「働き方改革」に繋がっていくのだろう。
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