「ガバナンス」構築のキーマン「社外取締役」の役割と経営への反映
社外取締役の役割には大きく「ガバナンス体制の構築」、「社外の見識の経営への反映」という二つがあります。今年3月の改正会社法の改正によって、社外取締役が一部義務化されたように、社外取締役についての経営における位置づけは大きくなってきており、ガバナンスという面で物議を醸した東芝の事案が起こりました。これを契機に株主、社外取締役が関与する経営のあり方に脚光が当たっています。今回は、社外取締役の役割と、きちんと機能することでより良き経営に寄与する余地が大きい「社外の見識の経営への反映」について深掘ります。

世間の耳目を集める東芝問題

最近、産業界で話題となっている問題企業の筆頭は東芝であると言って過言ではないでしょう。

「車谷社長が保身のために株主権行使に関して不正を働き、前職のファンドを使って非上場化しようとしたが株主や社員、取締役会の反発を受け、解任を察知して自ら辞任した」という、ゴシップ的な説明がまことしやかにされていますが、一般の人からは「議決権」だとか、「非上場化」だとか、メディアで解説されても、今一つ腹落ちしないのではないかと思います。

ここで詳述するつもりはありません。ただ、一つ言えることは、「ガバナンス」という言葉が何度も使われ、この言葉が茶の間でも有名になったことではないでしょうか。同時に、取締役会議長、指名委員会委員長として、車谷社長解任の引導を渡すはずだったはずの永山氏が純然たる社内の人間ではなく、「社外取締役」という立場であったことにもスポットライトが当たりました。

今回のコラムでは、ガバナンス構築の一つの要である社外取締役の役割について深掘ります。本連載の前々回(※1)、前回(※2)を通じて、コロナ禍、イノベーションや経営改革を実行する経営者の重要性、そしてその確保、育成について書いてきました。社外取締役は、前回言及した「経営者コーチ」同様、社外の力を借りて、経営力をアップしていく有効な方策だと考えられます。

社外取締役の選任が義務化で「ガバナンス」重視に

今年の3月1日に施行された改正会社法により、上場会社など一定の監査役設置会社に対して「法律上の義務」として社外取締役の選任が求められることになりました。社外取締役の存在が完全に市民権を得たといえるでしょう。また、このような改正があったことは、社内論理ばかりだった企業経営の形が曲がり角にさしかかっていることの表われともとれます。

一般論として、今後役割が大きくなる社外取締役選任の目的は、
(1)より良きガバナンス体制の構築
(2)社外の見識を経営に反映させること

の2点です。

ガバナンスとは「統治」を意味し、本来は組織のほかITシステム、権力などにも用いられる概念です。さまざまなニュアンスを含み、人によって定義が微妙に違います。ここではいったん、「適切な意思決定を可能にする体制」としたいと思います。

ここで強調したいのは、このガバナンスという言葉が、経営トップの専横をチェックする内部統制という後向きの概念だけではなく、前向きで戦略的なことも含め、フェアで的確な経営判断ができる経営体制を指すことです。

株主など、社外らのプレッシャーが欧米に比べて弱く、社内論理中心に経営が行われてきた傾向のある日本の現状では、どちらかと言うと、上記の(2)よりも(1)の方が、社外取締役選任の理由として重視されてきたように思います。

上場企業など大企業では株主からのプレッシャーも非常に大きくなってきており、株主の影響力を笠に着た「証券アナリスト」(私も、恥ずかしながら、資格は持っています)や、最近の東芝でのゴタゴタの引き金になった「アクティビスト」(株主としての権利を積極的に行使して、企業に影響力を及ぼそうとする投資家)の存在、など(好むと好まざるを問わず)ガバナンスの構築に向けて日本株式会社は少しずつ歩を進めているといって良いでしょう。

ステークホルダー資本主義という大きな潮流

ガバナンスの構築という日本の企業に欠けている部分……ガバナンスというものが「適切な意思決定を可能にする体制」であるとすれば、「失われた〇十年」と言われるように、日本はグローバルな比較の中で相対的に劣後してきたわけなので、「欠けている」と言い切っても特段問題ないものと思います……については、制度面で徐々に整ってきたと言えなくもないように思います。

上記の「適切な意思決定」の「適切さ」については、現在の株式市場、産業界を見渡すと、一時の「株主第一主義」の時代から、多くのステークホルダーを意識する「ステークホルダー資本主義」の時代に移行しつつあることは明白です。その代表例が、「ESG」(環境や社会、ガバナンスに対して積極的な取り組みをする企業への投資)、「SDGs」(持続可能な開発目標)が重要視されていること。世界的な潮流に、日本企業も直面しているのですから。

利益が最終的に帰属するのは、その会社の「所有者=株主」となります。しかし、社内論理や株主だけを重視するのではなく、ステークホルダー視点に配慮した経営の意思決定は不可欠です。そして、ステークホルダーの代表である社外取締役の役割がますます重要になってきている現在の企業を巡る議論も、正にステークホルダー資本主義の流れと一致するものです。

元来企業というものは「公器」と言われるように、何らかの形で社会に貢献することによって顧客を獲得し利益を得てきました。今の時代は、よりそうした社会性や公共性が強調されるようになっているわけです。

VUCA時代に会社を変革できる経営に資する、という社外取締役の役割

「適切な意思決定」の適切さが “HOW” だとすると、その意思決定での ”WHAT” 、つまり意思決定の内容そのものについてが、非常に重要であることは言を待ちません。

“WHAT“ が適切に行われるために、 ”HOW” であるガバナンスがあるわけで、この”WHAT” が本当にちゃんと戦略として計画され、実行されるのかが、企業の命運を決するということになります。

今の時代「DX」「イノベーション」「経営改革」「グローバル競争」におけるサバイバル……そんな難易度の高い経営の舵取りを的確に行っていくためには、幅広い教養、中長期的な視点など社内の競争だけで勝ち上がってきた経営陣だけでは補えないような深い見識に基づくインプットが不可欠です。

社外取締役の有効活用には、とりわけガバナンス構築に必要な客観的な「社外の視点」(前述の社外取締役の役割の1)だけでなく、「社外の見識」(同、2の役割)の経営への反映が重要になります。

「お飾り」や「形だけの」あるいは「お友達ばかりの」社外取締役ではなく、社内論理を超えた、本当に機能する社外取締役の専任、活用を図ることが、今後の日本株式会社全体の命運を分ける可能性もあるのではないかと思うのです。

企業のありかたについての議論は、コロナ禍でさらに変遷し、加速しているように感じます。社会への貢献をより直接的に表現する言葉に、「ソーシャルグッド」があります。「社会貢献に関する活動を支援・促進する取組み」を意味し、このソーシャルグッドによって企業の一つひとつの施策が社会貢献と結びつけられて語られ、企業ブランドにも影響する時代になってきました。

VUCA時代という変動の時代には、東芝問題のような事案についても、ゴシップ的、興味本位の取り上げ方や、単なる背景、事情の解説ではなく、ガバナンス、企業の意思決定のあり方、今後の企業戦略といった今後の日本の企業社会に資するような形での考察、議論が必要ではないかと考える次第です。
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