コロナ禍で今年は新卒採用を見送った会社もある一方で、4月から新入社員を迎え入れた会社も多いと思います。もしあなたが研修を一通り終え、自分の部下として配属された新入社員から神妙な顔つきで以下のようなことを聞かれたらどう答えるでしょうか。
優秀な人材の確保に欠かせない「業績数値の開示」と「社員の業績数値への関心」

新入社員に会社の先行きを質問されたらどう答えるか

新入社員「先輩、うちの会社って、潰れたりしないですか?」
あなた「潰れるかもしれないね。ハハハ」

あなたが冗談のつもりで言って笑顔で立ち去った後、新入社員が恐怖におののいて辞表を人事部に出したら、あなたは社長や人事部から呼び出されることでしょう。平時であればこのような切り返しも「冗談」として相手も理解するでしょうが、今の世の中の状況を考えれば、この質問は真剣な質問の部類に入ります。だから真剣に答えてあげなければいけません。仮に真剣に新入社員へ答えた場合、以下のように会話が続いていくでしょう。

あなた「大丈夫だよ。潰れたりしないよ」
新入社員「どうしてですか?」

あなたは何と答えるでしょうか。

「潰れないものは潰れないんだよ」
「新入社員なんだからそんなこと気にしなくていいの」

このような回答だったら、新入社員は一応「そうですか。ありがとうございました」と言いつつ、「この先輩ではだめだ。他の先輩に聞いてみよう」「はっきり理由を答えられないということはやはり大丈夫ではないのかもしれない」と、他の先輩を捕まえて聞いたり、さらに悩みや不安を深めたりしてしまうかもしれません。

皆さんも初めて社会に出た時のことを思い出してもらうとわかりますが、若い時ほど実務経験がありません。そのため、理屈先行で理解する以外ないことの方が多く、どうしても理屈で納得する回答を欲しがってしまうものです。

では、どのように答えたら新入社員は納得するでしょうか。

「うちの会社はまだキャッシュで〇億円あると社長が言っていたから、仮に売上が半減してもあと数年は問題ないから、心配しなくて大丈夫だよ」
「確かに前年度は売上が3割落ちたけど、新規事業を昨年末から始めて先月は前年対比でほぼ同じくらいまで回復してきたから安心していいよ」

このように具体的な数字や事象を挙げると、「よかったです。安心しました」「ありがとうございます。親から、『あなたの会社は大丈夫なのか』と聞かれて不安になってしまったので」「そうですか。確かにそうですね。ちょっと考えてみます」と、その後新入社員がどのような結論を出すかは別にして、自分の質問に対して明確に答えてくれたと「納得」はしてくれると思います。

会社の先行きを具体的に説明できるための二つの条件

現在、皆さんは自分の勤めている会社がなぜ大丈夫なのかをこのように具体的な数字を使って説明することができるでしょうか。

これができるためには、次の条件が必要になります。

(1)会社から業績数値が開示されている
(2)会社から開示された数値資料を各社員が目を通して理解している


(1)会社から業績数値が開示されている
経営不振に陥っている会社のほとんどが、業績数値をそもそもリアルタイムに作れていないか、業績数値を社長と一部の社員以外開示されていなかったという事実があります。なぜそうなっていたのかをヒアリングすると「業績の悪い数値を見せると社員が混乱して辞めてしまうかもしれないから」という声が多かったのですが、私はその答えは本質ではないと思います。

数字を開示するということは、管理部門を強化しなければ数字資料を作れませんのでまずお金がかかります。そして開示をすることで「利益が出ているならもっと賞与を増やして欲しい」などと、社員からうがった数字の見方をされる可能性もあります。つまり業績数値の開示というのは経営サイドから見ると「お金もかかるし面倒なこと」なのです。

しかし、タイムリーに数字が開示されれば、少し数字が下降線を辿ると、全員で反省をして、数字が回復する方向へ一丸となって各社員が考えや行動を変えていき、実際に会社の数字を回復させていくことができます。お金がかかって面倒な分のメリットやリターンは何倍もあるのです。

このような体制を構築できる余裕があるときに、面倒くさがって避けたり逃げたりしてしまうと、数字が落ちた時はさらに社員に業績数値を見せるのが怖くなり、社員へ正しい情報共有や指示ができなくなり、余計に経営不振に陥っていくのです。「経営不振だから悪い数字を開示できない」のではなく「開示の習慣を作っていなかったから経営不振に陥る」と言えます。

(2)会社から開示された数値資料を各社員が目を通して理解している
会社から開示された数字というのは、原則、新入社員から役員まで全員が公平に見ることができます。さらに上場企業であれば、社外の人間でも見ることができます。

つまり、就職活動をしている学生にも閲覧できるわけです。学生すら見ている会社の数字を従業員が認識していないとしたら、もしあなたがその会社の面接を受ける学生の立場だったらどう思うでしょうか。採用面接で会社の数字について学生が質問をして、面接官の現役社員が答えられない場合、優秀な学生だったら、その場はニコニコしていても、その会社から内定が出ても辞退し、他社に行くでしょう。そのような人が先輩になると思ったら……と学生は想像してしまうのです。

会社の数字について会社員の方達に尋ねると、「自分の給与には興味があるけれど、会社の数字にはあまり興味がない」という方がいます。業績数値への関心の低さは、自分だけの問題に終わらず、その下にどのような人達が入社をしてくるのか、優秀な部下が会社に定着してくれるかどうかということにもしっかり影響を与えているのです。どの時代でも部下は自分より優秀な先輩、尊敬する上司と働きたいものです。

そのためには経営者の方が、既存社員にしっかり数字を開示して、普段から自分の代弁者として語れるくらいに社員を教育しておかないと優秀な人材をいくら採用しても抜けていきます。新入社員や親御さんだけでなく、求職者を心配させないような、しっかり数字を根拠にした企業説明ができるかどうかが、混迷の時代では優秀な人材を確保する条件になっていくことでしょう。
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