コロナ禍における障がい者雇用の状況について、これまで3回にわたり、企業の対応や今後備えるべきことについて見てきました。今回はその最終回になります。そこで本稿では、「障がい者枠で働く人たちへの影響」について考えていきたいと思います。新型コロナの影響に関する事例については、「障がい者雇用ドットコム」の読者の方や、特別支援学校の進路の担当の先生方にご協力いただきました。どのような影響があったのか、その対応策について、障がい者雇用の当事者や関係者の実際の声をもとにまとめてみました。
コロナ禍の障がい者雇用の現状~「障がい枠」で働く人たちへの影響~【特別寄稿】

コロナ禍で見られた「障がい者枠で働く人たち」への影響

新型コロナウイルス感染症拡大は、障がい者枠で働いている方々には、次のような影響が見られました。実際に聞いた、当事者、関係者の声をご紹介します。

【障がい者枠で働いている方々への影響の事例】
・「働いていた会社から雇い止めを受けました。結局、弱い者から切られてしまうことを感じました。健常者より配慮が必要だから“障がい者枠”で働いているのに、雇い止め理由が障がいを理由としたことでした。訴えたい気持ちもあるけれど、その気力は残っていません」(当事者)

・「仕事自体は、リモートワークになりました。残業代がつかなくなったため、収入が減りました」(当事者)

・「就職した生徒たちの勤務先では、休業、時短勤務などの影響が見られています。特に、サービス業(食品・ホテル・クリーニング関連)などが多いです。休業補償といった手当は、企業によって対応が異なるようです。国の補償制度などを活用しているケースもあれば、休業補償はできないものの、仕事が元通りになってくれば、また職場で働ける話ができているところもあります」(特別支援学校進路担当教員)

解雇や雇い止めを受けた人は、全体から見ると少数ではありましたが、実際に影響をこうむった方がいました。また、「給与や収入の減少という影響を受けている」と回答した人は多かったです。これは、「時短勤務」や「休業」などが影響していると考えられます。

「障がい者枠」で働く人の中には「時給制」で賃金を受け取っている場合が多く、労働時間の減少が、直接、すぐに給与に反映してしまいます。そのため、即座に生活に影響がおよぶことも多く、その心配をする声が寄せられていました。ある方は、「お金がないと住む場所もなくなります。仕事がなくなれば、即“家なき子”です。海外の貧困と日本は、なんら変わりないと感じます」と回答しています。

【望まれる対応】
では、企業や社会に望まれる対策は、どのようなものなのでしょうか。

・企業の運営を継続できるようにしておく
まず、企業が持続的に会社を運営して、社員が働き続けられるような工夫をするということです。現在、緊急事態に備える企業のリスク管理の手法として、「BCP(事業継続計画:Business Continuity Planning)」が広く普及していています。このBCPを準備しておけば、緊急時に事業の継続・早期復旧をはかることができます。

また、今回の新型コロナ禍では、職場に出勤できない障がい者(特に知的障がいや、精神障がい)が多く見られました。それは、障がい者の仕事内容として紹介・提案されている業務の多くが、清掃や印刷関連、事務サポート、軽作業などの「職場に行かなければできない仕事」だったことが起因しています。今まで行ってきた業務のすべてをリモートワークに移行することは難しいかもしれませんが、それでも「オンラインで仕事を進められる体制づくり」や、「仕事や業務の優先順位を見直す」ということは必要になってくるでしょう。

・障がい者社員の生活をサポートする体制をつくる
地域や企業の状況によっても状況は異なりますので、すべての企業が取り組めるわけではありませんが、特別支援学校の先生からは、次のような企業の対応に感謝なさっている声がありました。具体的な声をご紹介しましょう。

・「本人の生活の様子から、(会社の)休みが増えて暇な時間ができると良くない行動も増えるかもしれない……いうことで、できるだけ通常通りに勤務できるよう配慮してもらいました」(特別支援学校進路担当教員)

・「親と一緒に暮らしている場合はよいが、ひとり暮らし(社員寮、グループホームなど)の場合は、支払いを減額、もしくは猶予してもらっているケースもあります」(特別支援学校進路担当教員)

企業で対応できないことに関しては、生活支援機関や行政の福祉などと連携して、生活を維持できるようなサポート体制を築いておくことが可能かもしれません。

・適切な時期に説明し、不安を取り除く
「平常時の仕事ができる体制を構築する」。これができれば一番よいですが、もし難しい場合には、当事者たちが理解できる形で、きちんと説明することが大切です。

また、新型コロナ禍による影響で、仕事に対して抱えている不安について聞いたところ、上位にあがった項目は、次のようなことでした。

・職場の人間関係
・働き続けることができるか(個人的な体調やメンタル面の変化などによる影響)
・働き方の変化
・今の会社で働き続けられるか(企業の経営環境の変化などによる影響)


今回の新型コロナ禍では、まさに予想がつかない状況に対応する必要があり、社内でも緊急に対応しなければならないことや、判断に迷うことも多かったと思います。障がいの有無に関わらず、ストレスを感じた方も多数いたと思います。

当事者である障がい者社員の多くは、障がい者枠で働くことに対して、一般枠で働くこととは違った感情や居づらさ、不安を感じていることが少なくありません。ましてや、今回のような状況では、一層ストレスを受けやすく、気持ちが不安定になりがちです。

会社の状況や対応(もし、対応が決められないのであれば、それも含めて)の説明をわかりやすく伝えることが大切です。また、不安な気持ちを抱えているようであれば、それを相談したり、情報共有できる機会を持ったりすることができるでしょう。カウンセラーや産業医を配置することは難しいかもしれませんが、障がい者社員に対した「気にかけている」、「社員の一人として大切に思っている」ということを、言葉や行動で示すことは大切です。

コロナ禍で見られた「障がい者枠で就職活動している人」への影響

「障がい者枠で就職活動中」の方には、次のような影響が見られています。

【障がい者枠で就職活動中の方々の事例】
・「就労移行支援事業所に行っています。企業に応募し、雇用前実習も決まっていましたが、新型コロナの影響で延期になっただけでなく、雇用の話もなくなってしまいました」(当事者)

・「雇用前実習が決まっていた会社は大企業で、障がい者雇用の実績があって、とても障がい者に理解があるところでしたが、コロナ禍の中、急に雇用担当の方が退職してしまったようで、連絡がつかなくなりました。諦めたくなかったけれど、自分の思いをメールで送っても……(思うような結果にならず)。納得・理解したわけではないけれど、諦めるしかない状況になりました」(当事者)

また、特別支援学校では、一般的に年に2回(春頃・秋頃が多い)採用を視野に入れて企業実習を行なっていますが、2020年は予定通りの時期に実施することができませんでした。

・「2020年の企業実習は、夏休み明けからできるようになりました。しかし、実習件数は例年に比べ少なく、厳しい状況です。福祉施設や病院関係からは、企業実習を断られるケースが多く見られます」(特別支援学校進路担当教員)

就職活動中の方は、「求人数が減ったこと」、「就職活動そのものができていないこと」に焦りを感じています。就活が上手く進まないことでストレスがたまって「睡眠不足になり、体調が安定しにくいことを心配している」という声もありました。

【望まれる対応】
現時点では、新規の採用は難しいかもしれませんが、会社の姿勢や、誠意ある態度を示すことは、信頼につながります。ある特別支援学校の先生は、こんなことをおっしゃっていました。

・「障がい者雇用に対する各企業の姿勢がよくわかりました。新型コロナを理由に特別支援学校から離れてしまうところ、より親密になるところなど、いろいろあります。もちろん企業側も大変だとは思いますが、こうした状況でもなんとか雇用をしていきたい、と言って動いてくれる企業は信頼できると感じました」(特別支援学校進路担当教員)
「障がい者雇用」には、多くの訓練機関や就労支援機関、労働行政などが関わってくるものです。採用する時だけ、必要な時にだけ声をかけるような関係では、本当の信頼関係は築けません。コロナ禍のような予測のつかない情勢下では、たとえ企業としては都合の悪いことがあったとしても、状況によって雇用を断らなければならないときでも、真摯に対応することで、企業への信頼や今後の採用につながっていく可能性があると感じました。
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