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コロナ禍の障がい者雇用の現状〜企業と障がい者自身は、これから何をしていかなければならないのか〜【特別寄稿】

障がい者雇用の中で、新型コロナウイルス感染症の影響が、どのように起きているのか、前回は「緊急事態宣言下と緊急事態宣言後の状況」について、また「今ある資料や企業の様子を見聞きした内容」を伝えしてきました。簡単にまとめると、次の3点が現状として見えてきています。

(1)障がい者雇用の新規採用は見合わせている企業が多いこと
(2)関東圏の緊急事態宣言下では、出勤できない障がい者(特に知的障がいや、精神障がい)がいたこと
(3)リモートワークに対応できている職場とそうでない職場で、仕事体制に大きな差がでていること

今回は上記を踏まえて、「企業と障がい者本人がこれから何をしていかなければならないのか」について考えていきたいと思います。

企業がコロナ禍の障がい者雇用においてこれから準備すべきこととは

新型コロナウイルス感染症が障がい者雇用に及ぼしている影響について、前回までに下記3点を顕在化してきている問題としてお伝えしました。

・障がい者雇用の新規採用は見合わせている企業が多いこと
・関東圏の緊急事態宣言下では、出勤できない障がい者(特に知的障がいや、精神障がい)がいたこと
・リモートワークに対応できている職場とそうでない職場で、仕事体制に大きな差がでていること


これを踏まえて、「企業と障がい者本人がこれから何をしていかなければならないのか」について考えていきたいと思います。

(1)緊急時にも仕事ができる体制づくり
企業から、「自然災害を想定したBCP(事業継続計画)は考えていたが、今回の新型コロナ禍のような状況は想定していなかった」と言われたことがありました。

「BCP(事業継続計画:Business Continuity Planning)」とは、企業が自然災害・火災・テロ攻撃などの緊急事態に見舞われたとき、その損害を最小限に抑えて中核事業の継続や早期復旧をはかるために、平常時の活動や緊急時における事業継続方法などを取り決めておく計画のことです。緊急事態に備える企業のリスク管理の手法として、広く普及しています。

緊急事態は突然発生するものですが、企業は、そのときに有効な手を打つことがきでなければ、事業を縮小したり、従業員を解雇したりしなければならない状況に陥ることもあります。そのため、平常時にBCPを準備しておき、緊急時に事業の継続・早期復旧をはかることはとても重要なことです。

特に障がい者雇用の場合、そこで働いている障がい者にとって、得られる収入が生活に直結しているケースも多く、仕事がないことが、すぐに彼らの生活に影響を及ぼすことも少なくありません。緊急事態が生じたときでも、できる限り仕事が継続できる体制づくりを行なう必要があるといえるでしょう。

(2)仕事内容の見直し
また、今回の新型コロナ禍では、職場に出勤できない障がい者(特に知的障がいや、精神障がい)が多く存在しました。それは、障がい者の仕事内容として紹介・提案されている業務の多くが、清掃や印刷関連、事務サポート、軽作業などの「職場に行かなければできない仕事」だったからです。

これらの業務は、20年前に、企業が障がい者雇用として知的障がいを受けいれはじめた頃から、内容の変化があまり見られていません。一方で、私たちの生活はこの20年で様変わりしています。パソコンやインターネットの普及にはじまり、外出先でもスマートフォンひとつで簡単に情報収集できるようになりました。何かを探すときに電話帳を使うという人は、今、ほとんどいないでしょう。情報の多くはインターネットを介して収集できますし、物理的に離れている場所でも、距離や時差を感じることなくオンライン会議ができます。

このような流れに加えて、新型コロナ禍で一気にリモートワークが普及してきました。今までなかなか進まなかった書類の電子化やハンコ文化も変わりつつあります。

また、DX(デジタル・トランスフォーメーション)が進み、生活の中にデジタル技術が浸透しています。企業運営の中でも、既存の価値観や枠組みに革新的なビジネスプロセスを取り入れたり、取り入れようとしたりする流れになってきています。このような変化にしたがって、障がい者雇用の業務についても変えていくことが必要でしょう。

働き方が変化する中で、求められる業務も変化しつつあります。リモートワークでも取り組める業務や、オンラインに対応した業務という観点から考えていくことに加え、多くの定型的なバックオフィス業務がAIに変わられることなどを想定すると、プロフィットに近い業務が、これから求められていくのではないかと感じます。

(3)障がい者を戦力化する
障がい者雇用を行っている企業の担当者の悩みとして多くあげられる点は、「業務の切り出しがうまくいかない」ということです。担当者が社内の業務や組織体系、仕事の流れをどれくらい把握しているのかにもよりますが、障がい者にどのような業務をしてもらうのかという視点から業務の切り出しをしていると、ひとつのグループや担当者だけで対応するのは、かなり難しくなっています。

「障がい者ができる仕事は何か」という考え方から脱却して、「会社として必要とされる業務・求められる仕事は」という視点から仕事は何かを見ていくことが必要です。また、必要とされている業務のすべてを担当してもらうことが難しいのであれば、「どの部分であれば担当できるのか」、「どのような工夫やサポートがあればこなせるのか」などを考えることもできるでしょう。

経営に関わるポジションの方々と話をしていると、「もっとこんなことに取り組みたい」、「情報発信の必要性を感じている」という話をよく聞きます。「プロフィットに直結する業務の一部も本来は取り組むべきことだが、手が回っていない」という回答も多くあります。

本業の事業内容を見直すこと、プロフィット部門のニーズや、売上にどのように貢献できるのかを考えることによって、必要とされる仕事は多くあります。WEBマーケティング関連の業務や情報発信のサポート、情報収集やリサーチ業務は、企業の業務のニーズも高いものです。これらの一部を障がい者社員が請け負うことから始めて、徐々に仕事の幅を広げていくことは十分に可能でしょう。

想定外の状況で働くことがあり得る時代に障がい者自身も備える

ここまでは、企業が備えておくべきことについて見てきました。しかし、企業だけが準備しておけばよいというものではありません。同時に、働く障がい者自身も自己管理やセルフマネジメントができるようにしておくことが大切です。

2011年頃、私は特例子会社に勤務していました。東日本大震災が起きたときに次のようなことを想定した企業の動き、そして、障がい者社員が対応できるようにしておく準備の必要性を痛感しました。

・交通機関がすべて止まったときの対応
代替手段や、連絡方法をあらかじめ確認しておく。

・服薬管理
自宅に帰宅できないなども場合も想定し、予備を持っておく。

・安否確認や安全管理
電話がつながらないことも多く、メールやLINEなど複数の連絡手段を使えるようにしておく。

・家庭や会社と連絡を取れるように複数の連絡先を把握
緊急事態下では、緊急連絡先にもつながらないことが多い。

不測の事態について、すべてを想定することは不可能です。しかし、想定できる範囲で、事前にシュミレーションしておくことや、身の安全を確保すること、状況に応じた優先順位の付け方を練習しておくことは、社員にとっても、会社にとっても安心につながるのではないかと感じます。

また、知的障がいや発達障がいのある人が加入できる保険(一般的な保険には、障がい者は加入できないことが多い)に、福利厚生の一部として加入している企業もあります。企業が、社員の生活面でのフォローをすべてできるわけではありませんが、生活の基盤に必要な情報などを提供することはできるかもしれません。

ちなみに、この保険は「新型コロナの入院」にも対応しています。
【参考】ぜんち共済「新型コロナウイルス感染拡大に伴う特別お取扱いについて」
会社に出勤して働くにしても、これからリモートワークを進めるにしても、企業で社員すべてのマネジメントができるわけではありません。仕事の進め方や休憩のとり方、コミュニケーションのとり方、体調管理、そして緊急時対応などは、今まで以上に社員自身がセルフマネジメントできるようになることが必要となってきます。

予想外の事態が起こることが珍しくなくなった今、企業としての対応とともに、当事者社員のフォローや、いざというときに自分で判断しなければならない場合があると想定した取り組みを行なうことも大切だと感じています。
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著者プロフィール

障害者雇用ドットコム 障害者雇用アドバイザー 松井優子

特例子会社の立ち上げや国立特別支援教育総合研究所主任研究員等を経て、障害者雇用ドットコムを運営、障害者雇用の情報発信やコンサルティングに携わる。東京情報大学非常勤講師。著書に「はじめての企業でもできる障害者雇用を成功させるための5つのステップ」、「障害者雇用アドバイザーが教える障害者枠で働きたい人が知っておくべき就活の基本」、「特例子会社の設立を考えたら必ず読む本」等がある。
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