人材の育成や活用に多面的に取り組んでいる株式会社ニトリホールディングス。個々の能力を最大限発揮できる環境を整えるための教育体制や制度構築など、人材を多面的に支える仕組みを整え日々変化させている。これら施策の一端を垣間見られるのが、同社が展開するメディア『ニトリン』だ。本来はニトリという会社やそこで働く人の想いを発信する媒体だが、人事視点でみると「同社の人事施策を従業員がどう受け入れ実行しているか」が働く人たちの声で紹介されている。本連載では、ニトリン編集部の協力を得て、『ニトリン』で掲載中の注目記事を厳選し、転載していく。施策の成果や浸透具合は、多くの企業で参考になるはずだ。2回目は、前回に引き続き同社組織開発室室長の永島寛之氏とProFuture代表取締役CEO 寺澤康介の対談(後編)を紹介する。 (HRプロ編集部)
個人の活躍のその先に──ニトリの目指す世界へと到達する
前編は、『ニトリン』に込めた想いを中心にトークを展開しました。

後編は、ニトリが取り組んできた施策や、その下に流れる価値観、「企業」と「個人」の理想的な雇用関係など、人事の今後についても話題に。

日本最大級の人事ポータルサイト『HRpro(HR総研)』を主宰し、採用コンサルタント歴25年以上の寺澤康介氏をお招きしての対談の後編。組織開発室室長の永島寛之と、ざっくばらんに語り合います。

教育は「未来への投資」。多数精鋭で全員が活躍することを目指す

寺澤 改めまして、ニトリさんの人材育成や教育の施策についてうかがいたいと思います。昨年、2019年には『グロービス学び放題』を導入されましたね。 永続的に学べるプランを導入するところからして、ニトリさんの本気度がうかがえます。そして、自由にカリキュラムを選べる教育プログラムというところに、個にフォーカスした人事の判断も感じます。時代の流れとして今は、個の多様性に寄り添っていく方向に向かいつつあります。そうした影響もあるのでしょうか

永島 ニトリは昔から「多数精鋭」という組織づくりを掲げて、教育機会の提供に力を入れています。「少数」の人間が精鋭部隊になるのではなく、「多数」つまり、みんなが活躍することを目指しているんですね。その精神を受け継いでいる立場の私としては、多数精鋭のために「水道のように蛇口をひねれば出るような」教育の機会を提供したいという想いがあります。
個人の活躍のその先に──ニトリの目指す世界へと到達する
それと、教育をコストとは考えず、「未来への投資」であると認識しています。ですから、全社員が等しく自分の意志で、学びたいことを学べる環境というのは、まさにニトリが目指していることでした。時代の流れを意識してというよりも、むしろ、「こんなのがあったらいいな」がテクノロジーの力で現実になったという感じでしょうか。

寺澤 人事の流行に左右されることなく、むしろ、その先を走り続け、人材育成・教育に精力的に取り組まれてこられた、ということですね。そのひとつの事例として、アメリカ研修も位置しているのでしょか。

永島 アメリカ研修は、一部内容は異なりますが約40年前からスタートしています。現在は、新入社員を育成する2年間の継続的なプログラムの総仕上げとして、アメリカ研修があります。入社して2年目の全社員が参加し、そこでひとつの「区切り」となり、新たな「スタート」となるわけです。
個人の活躍のその先に──ニトリの目指す世界へと到達する

全社員が店舗勤務。お客様目線を肌で感じ、マネジメントを経験

寺澤 私たちHR総研としては、人事の施策をしっかりと進めている会社の企業価値が、年々高くなっていると見ています。それには大きく2つの観点があります。

1つ目は、就活・転職者の観点です。つまり、一人ひとりがイキイキと働ける環境を求める人たちが集まってくるということです。今まではどちらかというと、企業ブランドや給料に惹かれる傾向がありました。ところが、私たちが調査をしていると、個々に寄り添ってくれる会社に惹きつけられる、ということが起きています。

2つ目は、ビジネスの観点です。人材育成や教育の取り組みの斉一化よって、この激動の時代に未知のことに取り組むときに、それを担う人材がいるということです。たとえ、今受けている教育が現場ですぐに活かせなくても、それが後々功を奏してくるというのは、先を見た対策も含めてビジネスへの影響力があります。このような企業価値があるんじゃないかと。

永島 そうですね。ニトリでは2〜3年ごとに配置転換があり、社員はいろいろな部署で経験を重ねます。そうすることで、新たな発見やイノベーションも生まれる。たとえば、貿易部署を経験してから商品部のバイヤーになった社員は、これまでにないパッケージ案を思いつき、そのおかげでコスト削減し、売価が2/3にできた話など、いろいろな部署を経験したからこその化学変化が、社内のあちこちで起きています。私はプチイノベーションと呼んでいます。

専門性を育むことももちろん必要ですが、それぞれの社員の挑戦したいことを理解して、そこに合わせて配置転換をして経験を積んでもらうというのは、とても大事なことだと思います。
個人の活躍のその先に──ニトリの目指す世界へと到達する
その一方で、配置転換は店舗勤務を起点にしているほど、ニトリは現場経験をとても大切にしています。日々、お客様と接することで、お客様の想いやニーズを肌で理解することができます。私は、店舗勤務は究極のマーケティングだと思っています。現場を離れては、机上の空論になり兼ねません。ですから、本部勤務の人も定期的に店舗に戻り、楽しそうに勤務しています。

そして、実はもうひとつ重要なねらいがあります。

寺澤 というと、どのようなことですか?

永島 アメリカ研修後、まずは3年目でフロアマネージャー、次に店長を目指そうと促しています。フロアマネージャーになると部下ができ、新卒ならば、20代半ばでマネジメントを経験します。以前、ニトリを退職した人たちを集め、OB会を開催した際に、「ニトリで学んで役に立っていること」について、忌憚のない意見を話してもらいました。多くのOBが「ユーザーを中心に考えるデザイン的思考を習得したこと」と「若いうちにマネジメントの経験ができたこと」と言っていました。経験として学んでいけるのがニトリの配転教育です。若いころにマネジメントの経験があると視野が広がりますので、配置転換後もプラスに働きますね。

個が活躍する先に、ニトリが行きたい場所へとたどり着ける

寺澤 今までのお話しでは、会社のなかの個に寄り添い、個の多様性にどのように対応していくかということでした。一方で、企業が個を雇い入れたら、個は基本的には企業の命令に従わないとならない。移動や転勤も、業務命令だといえば「YES」と言わざるを得ない。これはある意味、個の状況を無視して、会社のやり方に合わせるということです。

その代わり、「最後まで雇用するよ」というのが、これまででした。ところが、今は途中で放り出されることもあります。それも、仮にマネジメント経験がない、この先何をしていいかわからない状態で。実はこの状況はとてもリスクがあると思っています。
個人の活躍のその先に──ニトリの目指す世界へと到達する
永島 そう思います。今、アメリカでは終身雇用という考え方を検討しはじめる会社が出てきましたが、終身雇用について日本と考え方が違います。

アメリカでは、企業として「こうなっていきたい」という「組織」と「個」に求めるものがあり、そのうえで、「個人のやりたいこと」に対して学べる環境を提供しています。その個々の学びを支えているのが、テクノロジーです。テクノロジーの発達のおかげで、個人個人へのきめ細やかなサポートができるようになりました。

こうした環境で仕事をして、企業と個人が相思相愛だったら、結果的に終身雇用になる可能性があり、「そうなったら幸せだね」ということです。

もちろん、ある一定の基準に達しなければ、解雇ということもあるでしょう。しかし、一斉解雇というのは、想定されていないと思うんです。終身雇用でも、Win-Winな関係ですね。

寺澤 おっしゃるとおりですね。雇用というのは上下関係ではなくて、パートナー関係ということですね。もちろん、甘えた関係でなく、良い意味で厳しくカラッとした契約関係というのか。今日のお話ともつながっていますね。やはり、パートナーシップとしての雇用を見越していらっしゃるのですか?

永島 それも視野に入れて、社員のスキルや経験値などを一元管理して適材配置をおこなう「タレントマネジメント」を導入しています。よく話すのは、「好奇心のマネジメントをしたいよね」と。

それぞれが、10年、20年後、どのような将来設計があって、そこにつながる好奇心をいかに活かして、学び実践していってもらうか。私たち人事は、誰がどのようなことを考え、何をどこまで学び、現場ではどのような評価を得ているかを鑑み、配置転換をしていく。それで、それぞれが描く「ニトリ」で得たい経験を積んでいってもらえるように、ニトリが「個」に合わせていく。

そうした歩み寄りの結果、個人個人が活躍し、ニトリの行きたいところ、目指す世界にちゃんとたどり着ける、というように設計しています。 結構シンプルですけど、さまざまな施策を打たないといけないですね、これからも。
個人の活躍のその先に──ニトリの目指す世界へと到達する
寺澤 「こっちの方向」という指し示すものはあっても、「これが正解」というものは、存在しないといっても過言ではないでしょう。だからこそ、このオウンドメディアを通じて、健康的な議論が生まれたり、新しい価値観が生まれたりしていくと面白いですね。

永島 ええ、本当に。私たち自身、今回も新しいことに挑戦しているので、まだまだ手探りではあります。このメディアを機に、そうした議論のスタートになればいいなと思っています。

※本記事は『ニトリン』に掲載された記事の転載です。
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