HRプロの読者で「ニトリ」という企業を知らない人はいないだろう。世界で607店舗(2020年2月20日時点)に家具やインテリア用品販売店を展開、33期連続で増収増益を達成している。この成長の背景には同社に根付く「変化し続ける」文化がある。とりわけ、人材に対しての取り組みは力を入れており、個々の能力を最大限発揮できる環境を整えるための教育体制や制度構築など、人材を多面的に支える仕組みを整え日々変化させているのだ。これら施策の一端を垣間見られるのが、同社が展開するメディア『ニトリン』だ。ニトリという会社やそこで働く人の想いを発信する媒体だが、人事視点でみると「同社の人事施策を従業員がどう受け入れ実行しているか」が働く人たちの声で紹介されている。ここでは、ニトリン編集部の協力を得て、注目の記事を転載していく。施策の成果や浸透具合は、多くの企業で参考になるはずだ。1回目は、同社組織開発室室長の永島寛之氏とProFuture代表取締役CEO 寺澤康介の対談(前編)を紹介する。 (HRプロ編集部)
働く人たちの真の姿を伝える 『ニトリン』制作の背景にある採用・人材育成に込められた想い
2020年からスタートした、ニトリのオウンドメディア『ニトリン』。

普段はなかなか表に出てこない、従業員たちの真の姿を知ってもらいたいとの想いで始まりました。メディアといえば、マーケティング部や広報部が企画運営することも多いなか、『ニトリン』はニトリの人事部メインで企画から運営までを担っています。

なぜ人事部発信なのか、そこにはどのような想いが込められているのか?

今回は、日本最大級の人事ポータルサイト『HRpro(HR総研)』を運営する、ProFuture株式会社 代表取締役CEOの寺澤康介氏をお招きして、人事部が企業情報を発信する重要性も含め、組織開発室室長の永島寛之と、ざっくばらんに語りあっていただきました。

お客様や就活生、その周囲の人たちに“ニトリの素顔”を伝える

働く人たちの真の姿を伝える 『ニトリン』制作の背景にある採用・人材育成に込められた想い
寺澤 本日はお招きいただき、ありがとうございます。我々、HR総研というのは、人事領域全般の調査をおこない、その結果などについて情報発信しています。たとえば、採用であれば学生調査、人材育成であれば、さまざまな会社の人事の取り組み調査などですね。

こうした調査をしているなかで、ニトリさんのお名前を耳にする機会がとても増え、経営戦略に沿った“攻めの人事”をしていらっしゃるという印象があります。そうしたニトリさんの人事部が、2020年から『ニトリン』というメディアを立ち上げられた。その経緯や背景には何があったのでしょうか。

永島 もっとニトリという会社の本質を知ってもらいたい!そう思ったのが、一番大きな理由です。社会から認知いただいているニトリの姿と、私たちがみなさんに知っていただきたい姿にズレが出てきていると感じるところがあって、情報発信を通じてそのズレを解消したいと思いました。

私たちのビジネスモデルは「製造物流IT小売業」というもので、商品開発・製造から、物流、システム開発、小売という、川上から川下まですべて自社でおこない、お客様のニーズをシームレスにつなげ、商品化していく仕組みがあります。

私たちの仕組みや取り組みを伝えることで、ニトリという会社を正しく理解してもらうだけではなく、ニトリで働く人や商品、サービスの背景にあるストーリーを伝えていければと思っています。

寺澤 ニトリさんの真の姿を伝えるということはわかりましたが、なぜ人事部が企画運営することに?

永島 「商品や店舗」を軸とした企業ブランドとは別に、ニトリの「人」を軸とした組織ブランドのようなものを訴求したいと考えたからです。

ニトリにも広報部があり、活発な活動を展開していますが、ニトリの「人」にフォーカスした情報発信は、まさに人事部が取り組むべきものだと認識しています。そのため、人事部のなかに「人事広報」というセクションを創設し、人事広報が担当する仕組みにしました。

ニトリの「人」を通じて、ニトリの組織や仕組み、商品やサービスを紹介することで、ニトリという会社がどういう想いをもって事業を展開しているのか、立体的にご覧いただけるように工夫をしています。

働く場所としてのニトリを発信し、ニトリでの働き方や企業文化を正しく理解してもらうことで、そこに共感してニトリで活躍したいと考える人を採用できるようになり、入社後のギャップを減らしたり 、活躍までの期間を短くするプレボーディングの役割を果たしてくれると思っています。

スピード感もニトリらしさ。旬を逃さず変革に挑む

寺澤 人事広報が創設されたのが、2018年の8月とお聞きしました。そして2020年には『ニトリン』が立ち上がっている。人事の取り組みを外部に出していく際には、大手企業になればなるほど難しさがある、と人事分野専門の私たちも感じています。一方で、外側から企業の人事の取り組みが見えにくくなる、という企業側の課題もある。

ニトリさんは、その難しい部分を積極的にやろうとし、保守的になりがちな分野においても、チャレンジしていくカルチャーがあるように見受けられます。そして、スピード感もある。大企業はどうしても、企画から実現までかなりの時間がかかります。そのあたり、ニトリさんはいかがですか。
働く人たちの真の姿を伝える 『ニトリン』制作の背景にある採用・人材育成に込められた想い
永島 ニトリはサイズでいえば大企業になりましたが、判断やアクションのスピードはベンチャーのようなところがあります。「走りながら考える」「とりあえずやってみる」というのは、今でもニトリの行動規範になっています。オウンドメディアもそのような判断でスタートしました。無理やり費用対効果を考えても後で苦しくなりそうでしたので。

寺澤 手を挙げた人間の士気が下がらないためにも、スピード感は重要です。まさに、旬を逃さずやりたい時に取り組むということですね。

変化が激しい今だからこそ、新しいことに積極的に取り組んでいらっしゃる。しかし、人事が戦略を立てて、プログラムを始動するときに、そこに必要な人材がいなければ始められませんし、最善の手を打っていかないと事業が成り立たない。人事広報創設の際はどうだったのですか?

永島 もともと、ニトリは社内報を精魂込めて作成してきた歴史があり、トップ層のなかにも社内報の編集長を経験した人が多くいます。話は逸れますが、先日、たまたま35年くらい前の社内報を見ていたら、その時代にしては随分と新しいことに取り組んでいるようすがうかがえました。こうした情報発信文化は脈々と受け継がれているんですね。
働く人たちの真の姿を伝える 『ニトリン』制作の背景にある採用・人材育成に込められた想い
永島 最近では、オウンドメディアの運営メンバーを社内公募で募集し、新たに2名が加わりました。ニトリのロマン(企業理念)とビジョンを理解して、それを内外に伝えていきたいという熱いメンバーを中心に、人事と広報の世界にまたがったHRPRという分野を世の中に広めていこうという気概をもって運営しています。

紡ぎたいのは秘めた物語。社員と会社の輪郭が浮かび上がる

寺澤 採用に関していえば、採用ページでさまざまなコンテンツを出して、PRに取り組んでいる企業も増えました。しかし、それがその企業の価値を高めるような情報発信かというと、そうでもないことが多い。また、就活生や転職希望者が望む情報でなかったり、ということもあります。今回のようにオウンドメディアを新たに展開することで、人事の取り組みがさらに見えるようになります。

ところが、オウンドメディアというのはPRとは違い、あくまでも、「メディア」という立ち位置で、「企業目線」ではなく「読者目線」に立脚して、情報を伝えていくものです。マーケティングする側、商品を売り出す側の視点じゃなくて、読者の求めているもの、読者の心に響くものを「読み物」として提供する。

そうした中立的な読み物だからこそ、読者は惹きつけられていきます。『ニトリン』では、具体的にどのようなことを語っていきたいとお考えですか?

永島 人事部発信だからといって、ニトリの制度を延々と紹介していくというアプローチは考えていません。それよりも、普通に今のニトリの中に存在している「人」や「モノ」にフォーカスしていきたいですね。

お客様の暮らしを豊かにするという企業理念をベースに、商品部の担当者が商品開発にかける想いや、それらを実現するためにニトリ社員が歩む独特なキャリアパスなどの紹介を通してニトリで働く世界観、さらには私たちが成し遂げようとしている世界観を物語っていく。

さらにそこから、個人のキャリア観までも綴っていきたいと思っています。ニトリの人事は「個人の力が組織の力になり、社会を変えていく力になる」と考えて、さまざまな人事施策を実行しています。ですから、常に個人のストーリーを通じて会社や組織を見てもらうようにしていきたいですね。

寺澤 そうした「人」にかける想いや視点は、まさに人事ならではですね。ニトリさんの人材に対する価値観や具体的な人事の施策などについて、このあと、うかがっていきたいと思います。

【後編】「個人の活躍のその先に ニトリの目指す世界へ到達する」に続く……。(2020年6月10日頃公開予定)

※本記事は『ニトリン』に掲載された記事の転載です。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!