話題の「Employee Experience」に、人事はどう向かい合うべきか?

特別読み切り

近年、海外だけでなく、国内においても急速に聞く機会が増えた「Employee Experience(エンプロイーエクスペリエンス)」、通称「EX」。「私もEXについて理解しなければ」「自社も何か新しい対応が必要なのではないか」と焦る人事パーソンも多いのではないでしょうか? そこで、本項では、このEXという言葉の意味と対処のポイントについて簡単にまとめています。

「Employee Experience」という言葉の意味は?

EXはいわゆる流行語・バズワードの一つです。そのため、言葉の意味を厳密・正確に定義することにあまり意味はありません。「ナウい」とか「エモい」などの流行語の使い方を完璧に理解しても、流行を作る能力がほとんど身につかないことと同様です。実務的には大体の概念とその概念が示す観点を把握すれば十分です。

では、具体的には、EXと言う語の意味はどんな意味なのでしょうか?日本語に直訳すると「従業員体験」となる通り、「会社・組織での様々な活動・事象を通じた従業員の経験価値」です。イメージとしては図表1のように位置づけることができます。
歴史的には、この言葉は、従来流行していた「エンゲージメント」という単語を入れ替える形で登場しました。そのためエンゲージメントとかなり近い位置づけにあると理解すると分かりやすいでしょう。

「Employee Experience」という言葉から見えるもの

エンゲージメントに代えて、EXという言葉を用いる意味は何でしょうか? EXという言葉を用いるときは下記の3つの観点が見えやすくなるというメリットがあり、セットで議論されることが多いようです。


観点(1):ツール・施策の観点
エンゲージメントという語を用いると、どうしてもそれを測定するサーベイに議論が向きやすくなります。一方でEXという語を用いると、EXを決定するツールや施策に自然と焦点が当たりやすくなります。

観点(2):従業員目線の観点
EXは、その語の中に従業員を含んでいるため、従業員目線の重要性が見えやすくなる言葉です。エンゲージメントに取り組む際も、従業員目線は重要なはずなのですが、EXの場合は、改めて協調されることが多いようです。

観点(3):「Employee Journey」(エンプロイージャーニー)の観点
前述の従業員目線での施策検討を実際に行うための、一つの観点が「Employee Journey(エンプロイージャーニー)」です。従業員の経験にも様々なものがありますが、それを従業員目線に立って、時系列で整理したものが「Employee Journey」です。下の図表2が一例になります。従来は、採用、教育、福利厚生、評価など人事側の都合で分けてしまいがちだったテーマを、このように従業員の目線に沿って整理することで、新しい施策を創出し易くなるでしょう。
上記の3観点に加えて、海外においては、EXとセットで「Personalize(個別化)」というキーワードが、頻繁にクローズアップされています。これは「社員は各々異なった特性があるのだから、施策も一人一人変えた方が良い」という考え方です。考え方としては正しいのですが、海外ですら具体的なツール、施策への落とし込みは試行錯誤中の感があり、国内の実務で参考にするには少々難易度が高いでしょう。

なぜEXが流行り始めたのか?

なぜ今、EXはエンゲージメントに代わるキーワードとして注目度を増しつつあるのでしょうか?大きく分けると以下の3点が大きいと思われます。この背景は国内外同様です。

理由(1):人手不足
好景気、採用難に伴う人手不足から、従業員目線の重要性が増しています。そうした課題意識にEXという単語はマッチしていると言えます。

理由(2):サーベイだけでなく、ツールを提供できるようになった
従来は、人事周りの施策を支援できるツールが少なく、サーベイとコンサルが人事関連企業のメイン商材でした。そのため、人事関連企業としてはすぐに施策に目線が行ってしまうEXよりもサーベイに議論を繋げやすいエンゲージメントの方がキーワードとして使いやすかったのです。そうした状況は、近年急速に変化しています。タレマネ、評価ツール、ナレッジマネジメントツール、福利厚生サービスなど人事関連企業が提供できるツールがここ数年で大きく増加しました。その結果、人事関連企業は、EXとそのためのツールについて正面から議論することができるようになったのです。

理由(3):エンゲージメントが普及して時間が経ち、新しいバズワードが必要
新しい概念やキーワードというのは集客やブランディングに便利なものです。しかし、「エンゲージメント」という語が広まって10年程が経過し、バズワードとしての求心力が弱まっていたと思われます。そこで新しいバズワードとしてEXが登場したということです。

人事はどのようにEXと向き合うか?

ここまで述べてきた通り、EXや関連する観点はそこまで難しい概念ではありません。緊急の対処が必要なものではないでしょう。しかし、図表1にも示した通り企業・組織を構成する重要な1パーツであることも確かです。これまでエンゲージメントに対して取り組んできた取り組みに、EXの概念を踏まえ、上述した(1)〜(3)の観点を考慮することで、より効果的な施策立案への示唆が得られる可能性があります。
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著者プロフィール

カオナビHRテクノロジー研究所 所長 内田 壮

日本エス・エイチ・エルにて人材データを用いた人事コンサルティングに従事。ヘルスケア企業の事業開発を経て、株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所にてX-Tech領域の調査・コンサルティングに従事し、2017年よりカオナビに参画。
カオナビHRテクノロジー総研

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