第5回:「楽しい仕事」に待ち構える大赤字の罠

その働き方改革は利益が出るのか【連載】

先日、『節約ウオッチ』(iOS版)という節約アプリを開発してリリースしたのですが、普段はクライアントの製品やサービスを客観的に見る仕事をしている私にとって、自社製品を作るということは初めてでしたので、とても良い経験になりました。
まず、開発をしている行程が「楽しかった」です。仕事でありながら、むしろ遊びに近い感覚を終始味わいました。そして、「最初から決まった答えがない」という「自由さ」も感じることができました。だからこそ、ふと思ったのです。「このような開発の仕事は、もう一人の客観的な自分、数字を見られる人が一緒にいないと、はまり込んで大赤字になってしまう危険性があるな」と。

バックヤードの仕事は「楽しさ」とはあまりリンクしない

バックヤードの仕事は、最終的な答えは一つしかありません。たとえば経理でいえば、不正操作などをしない限り、原則「時間はかかっても、最終的には誰がやっても、あるべき答えは一つのはず」という仕事です。だから「いかに早く、そして正確に仕事を終わらせることができるか」、また「その数字をもとに、今後どう改善すべきかを提案できるか」、ということがメインの仕事であり、他者との評価の差になります。

そうすると、そこに遊びのような「楽しさ」という感情はあまり介在しません。例えば計算をしている時に「計算楽しい!」と思いながら仕事をしている人よりは、とにかく間違えないように「無心」、「集中」、「緊張」して仕事をしている人のほうが、一般的には多いのではないかと思います。

また、数字の結果が出た後も、たとえば悪い数字が出た場合は、厳しい意見を言わなければいけません。ですから、おのずとその場の空気も神妙になるばかりで、満面の笑みや笑い声で包まれる、というシチュエーションはあまりありません。

では、経理の人達は何を楽しみに仕事をしているのか、と思われるかもしれません。私の場合は、最終チェックをして全ての相関する数字がぴったり一致したとき、また自分が心の中で予想していた数字とほぼ一緒だったとき、そして改善提案した結果、数字が翌月、翌年実際に改善された時に、「よしっ」というような、「すっきりした」という感覚に近い感情が湧きます。「楽しい」というよりは「充実している」という表現のほうが近いかもしれません。

「答えが決まっていない職種」こそ丁寧なマネジメントが必要

ところが今回、はじめて自分で製品を企画、立案してエンジニアの方を自分で探し、自己資金を供出して、ああでもない、こうでもない、とアプリを作っていた間、仕事に対する自分の向き合い方や感情の動きなどが、経理の仕事をしているそれとは全くの別物でした。そのような職種の人達から見たら、バックヤードの仕事というのは「あまり面白くなさそうな仕事で大変だろうな」と思われるかもしれません。

正直なところ、私は以前から「なぜ最近は、皆、仕事に楽しさばかり求めたがるのだろう」と疑問に思っていました。それが今回、自分で開発の仕事に携わってみてわかった気がします。それは、「答えが決まっていない職種」が増えたとからなのだと思います。

これまでの私の仕事観では、「楽しさ」が最初の条件になることはありませんでした。「生活のため」、「自分にしかできない仕事だから」というような義務感や責任感のほうが優先順位が高く、楽しさは優先度でいえば最後でした。実際に楽しいとは思えなかった仕事でも、「義務や責任が果たせた」と思えれば、それで納得でき、充実を感じていました。

ところが「答えが決まっていない仕事」というのは、その「作業中」が楽しくないと、しんどくなるのだろうなあ、と想像できました。作業そのものがあまりにも自分の興味のない内容だと、つらくなり、体調不良を起こしてしまう人も少なくないのだろうな、と思ったのです。

つまり今まで、仕事に対する価値観というのは、個人一人ひとりのパーソナリティの問題が100%だと思っていました。ですが実際のところは、職種の影響も少なからずあるのではないか、と今回の経験を通して思いました。

例えばマネジメントをする際、答えが明確に決まっている仕事については、「あなただから任せられる」という信頼のメッセージを送れば、受け手も「こんな仕事、自分がやらなくても誰でもいいのでは」という気持ちではなく、「自分がやらないといけないのだ」、「自分だから任せてもらえているのだ」というモチベーションを高めてくれるのではないかと思います。

一方で、答えが決まっていない仕事については、会社側が“その仕事そのものが興味を持つ魅力的なテーマである”ことに尽力するのが、社員の「その仕事をやらせて欲しい」というモチベーションアップのポイントになってくるのではないかと思います。

ここで気を付けるべき点は、前述のように「答えが決まっていない仕事は、仕事そのものにはまり過ぎてしまうと、気づいたら大赤字になる可能性がある」ということです。

答えが決まっている仕事は、予算や期限の算段が立てやすいので、そこで経費の予算がオーバーになる、といったことはあまりありません。ところが、答えが決まっていない仕事の場合、それが面白い仕事であればあるほど「ああでもない」、「こっちのほうがもっといいかな」と、ずっと作業をやり続けてしまう恐れがあります。予算や納期が頭の片隅に入っている人であれば問題ないのですが、そうでない人の場合、第3者がマネジメントしてコントロールしなくてはいけません。

つまらない仕事であれば、メンタルの不調を訴える人が出て生産性が落ちてしまい、面白い仕事であれば、はまり過ぎて予算や期限をオーバーしてしまう。「答えが決まっていない仕事」というのは一見華やかですが、実際は利益を出すためには、とても繊細なマネジメントが必要だと私は思います。

今までであれば、無尽蔵に費用を使っていい、という投資環境もありましたので、「お金のことは考えず、楽しいことだけを考えて」仕事をしてもよかった場合もありました。しかし最近は「やはりビジネスは利益が出ないとダメ」という潮流に急速に替わってきていますので、注意が必要です。

会社側は、「答えが決まっていない仕事」をしている社員にも、予算や期限というものを頭の片隅にだけは置いてもらいましょう。そして、経営者やバックヤードの社員などと予算や納期に関してコミュニケーションをとる際に、理解、対応できるレベルにはしておく必要があるのではないかと思います。
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著者プロフィール

流創株式会社 代表取締役 経営コンサルタント/作家 前田 康二郎

数社の民間企業で経理総務、IPO業務、中国での駐在業務などを経て独立。現在は「フリーランスの経理部長」としてコンサルタント活動を行うほか、企業の顧問、社外役員、日本語教師としての活動、ビジネス書やコラムの執筆なども行っている。著書は『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』のほか、『スーパー経理部長が実践する50の習慣』、『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』、『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』『経営を強くする戦略経理(共著)』、『スピード経理で会社が儲かる』、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』、『自分らしくはたらく手帳(共著)』など多数。節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)も運営している。

流創株式会社
節約ウオッチ(iOS版)

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