激変する経営環境に応じた戦略を実現するために、企業は変革を迫られています。変革し競争力を維持・発展させるために最も大切なものは“人”であり、“人”を活かすも殺すもHRM(人的資源管理)次第と言っても過言ではありません。HRMの根幹となるものはBuy(外部調達・採用)とMake(内部調達・育成)です。現場からの要請に応えるためには、従来からの「Make」力を中心としたHRMだけではなく、外部から調達・採用する「Buy」力の強化と、時代に合った「Buy」力への変革が不可欠であると言えるでしょう。そこで、日本企業で先鋭的にHRMに取り組んでいる企業の事例を伺いました。

講師

  • 倉 千春氏

    倉 千春氏

    味の素株式会社 理事 グローバル人事部長

    1983年、農林水産省入省。1990年にフルブライト奨学生として米国Georgetown 大学へ留学し、MBAを取得。1993年からはコンサルティング会社にて、組織再編、新規事業実施などにともなう組織構築、人材開発などに関するコンサルティングを担当。その後、人事に転じ、1999年ファイザー株式会社、2004年日本べクトン・ディキンソン株式会社、2006年ノバルティスファーマ株式会社の人事部長を歴任。2014年7月に味の素株式会社へ入社し、2018年4月から現職。味の素グローバル戦略推進に向けた、グローバル人事制度の構築と実施をリードしている。



  • 北島 久嗣氏

    北島 久嗣氏

    ソニー株式会社 人事センター人事1部 統括部長

    ソニー株式会社入社後、労務、人事、研修、採用、事業部人事、海外事業所人事を担当。2015年3月より本社組織を担当する人事1部に着任。2016年2月より採用部に兼務し、リソースマネジメントを担当。



  • 須東 朋広氏

    須東 朋広氏

    多摩大学大学院 経営情報学研究科 客員教授

    2003年、最高人事責任者の在り方を研究する日本CHO協会の立ち上げに従事し、事務局長として8年半務める。2011年7月からはインテリジェンスHITO総研リサーチ部主席研究員として日本的雇用システムの在り方の研究から中高年、女性躍進、障がい者雇用、転職者、正社員の雇用やキャリアについて調査研究活動を行う。組織内でなんらかの理由で声を上げられない社員が増え、マジョリティ化しつつあることに対して、2016年10月、誰もがイキイキ働き続ける社会を実現するために『一般社団法人組織内サイレントマイノリティ』を立ち上げる。現職。 多摩大学大学院 客員教授、専修大学 非常勤講師、HR総研 客員研究員を兼任。


Make中心の日本企業の人事戦略は限界が露呈しつつある

多摩大学大学院 経営情報学研究科 客員教授 須東 朋広 氏(ファシリテーター)

 「組織力を高めるBuy力の在り方」というテーマの講演ですが、そもそもBuy力とは何かということから説明させていただきます。
 ピーターキャペリ氏の、『ジャスト・イン・タイムの人事戦略』という本の中で、「Make」と「Buy」の適切な組み合わせについて記述しています。Makeは内部育成、Buyは外部調達を意味します。アメリカでも人を育てることに力を入れている企業はありますが、今後はMakeだけでは難しく、戦略としてBuy、つまり外部から人を採用することが必要だと述べています。

 ただし戦略だけではなく、企業の将来に対する不確実性の増加に対して、5年後、10年後にどのようなビジネスを展開しているのかということを考える必要があります。そこから自社に求める人物像やコンピテンシーを設定し、予測し、対処していくために、Buy力が非常に重要になっています。しかしながら、日本企業は新卒一括採用というシステムが中心です。基本的に“白いキャンバス”状態の学生を採用し、組織の中で育てていく、Make中心の人事戦略を展開してきたのですが、昨今、この方法に限界がきているのではないかと思うのです。

 その理由は3つあります。まず、「ビジネスの多様化」です。デジタル技術が社会に変化をもたらしていることは、皆さんも感じていらっしゃると思いますが、それによってビジネスモデルが陳腐化したり、サービスが高度化したり、新しいビジネスやビジネスのシェアリング化などが起きたりしているという現状があります。例えば大日本印刷社は印刷・出版の会社でしたが、今ではエレクトロニクス企業へと変貌を遂げました。このように現代は変化に対応していかなければならない時代なのです。
 次に、それに応じた「スキルの多様化」です。早稲田大学准教授の入山章栄氏は、イノベーションが求められる現代においてイノベーションを起こすためには、深化(専門性・技術力の活用)と探索(課題発見力など)の2つを組み合わせることが重要だと述べています。深化と探索を組み合わせることによってスキルは多様化します。ところが、日本の企業は深化できているものの探索が不足しているため、スキルを多様化できていない現状があります。
 最後の一つが、「キャリアの多様化」です。深化、探索ともに、社内のリソース(経営資源)を活かすMakeだけでは追いつかないというケースが多々あります。そのための人材を外から採らなければならない、借りてこなければいけないという状態が起きているわけです。しかし、そのような優秀な人材は、これまでのように新卒一括採用で、定時に出社し、長時間残業をするような労働をさせていると逃げてしまいます。ですからキャリアの多様化にも対応しなければいけないということになります。
少し話が逸れますが、私が2016年に「若年者のキャリア志向別年代別心理状態」というテーマで調査を行った結果、若い人材の志向カテゴリーは主に3つに分かれました。1つは“既存重視”。今までのように企業に言われたことをしっかりやる、先輩の教えをしっかり守るというカテゴリーです。次に“専門性チャレンジ”。「自分はプロフェッショナルになりたい、そのために企業に入って、自分で手に職を付けたい」というカテゴリーです。3つ目が“エンプロイアビリティ(雇用され得る能力)への自信”。根拠のない自信と言ってしまうと失礼ですが、「自分はどこでも働ける自信がある。採用される自信がある」というカテゴリーです。
 これまで日本企業は“既存重視”の人材が中心でした。しかし彼らは調査の結果は、20代前半、20代後半、30代前半とキャリアを重ねるにつれて職場疎外感が拡大していく傾向がみられました。また自己不安感も増加していました。従来のように“白いキャンバス”の状態で入社したとしても、年を重ねるとともに職場の疎外感や自己不安感が高まってくるという状況があります。
 これは不確実性が増加する環境の中で、言われたことだけに取り組むことが果たして本当にいいのかと感じたり、職場に外部から優秀な人が入ってきた場合、そういう人材との間に自己感覚の違いがあったり、既存の仕事に固執しすぎるあまり職場から排除されてしまうことが起こっているためではないかと思います。
 そうした環境の中で、Buy力とはどのようなことなのか、MakeとBuyの適切な組み合わせとはどういうことなのか、ということについて、ソニー株式会社の北島久嗣さん、味の素株式会社の倉千春さんにお話を伺っていきたいと思います。
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