この1-2年で留学生の就職環境はずいぶん変わってきているなあというのが正直な印象です。今回はそのあたりについて書いてみたいと思います。

私が企業の人事部に在籍し採用担当をやっていた2007年くらいまでは、留学生採用に身構えてしまう企業が多かったような印象を持っています。したがって、日本人と同等レベルの日本語スキルを有するような語学能力に相当高い能力を求めるか、海外進出している拠点に将来戻すための要員として、毎年その国出身の留学生を1-2名継続的に採用するかなどが中心で、全体的に少数の厳選採用という色彩が強かったように思います。
リーマンショック前の2005年~2007年卒の超売り手市場の状況下で、理工系で日本語がそこそこ話せるなら「留学生でもOK」みたいな動きが大手企業で少しあったように思います。これは失礼な言い方になってしまいますが、日本人学生の補完的な位置づけでの採用だったようです。しかし、少しずつではありますが、留学生の採用の門戸が開けつつあったような状況だったと思います。

リーマンショック直後の2009年、2010年卒の新卒採用の時期は先行きの不透明感が強かったために日本人採用すら手控える会社が多く、留学生の採用もごく一部の超大手を除いてはほとんど閉ざされてしまったような印象がありました。
しかし、2010年の1月ごろから中国人留学生を中心に、いままでとは違った動きが出てきたような印象があります。具体的には以下の3つがあげられます。一つ目は、大手中心だった留学生の求人依頼が、地方の中小企業からの求人、たとえば従業員数100名前後の企業からも求人をいただくことが出始めてきたことです。二つめは、工場進出でなく、中国に自社製品を販売するために現地出身の留学生を採用したいという内容です。三つめは、二つめの動きと関連しているのですが、従来の理工系学生中心の求人から徐々に文系学生の求人に対象が広がり始めてきているという点です。
中国の「生産地から販売地」としての位置づけの変化が、留学生採用にも急速に浸透してきているという印象があります。超大手が外国人留学生の積極採用を2012年卒から推進するという報道をよく皆さんも目にしていると思うのですが、こうした動きとは別の部分でもじわりじわりとグローバル化が進展してきているように思います。

そういった意味では、日本経済の産業構造の変革期に入ってきているような印象を感じます。これまでは「安く作れる国で作って日本で売る」というビジネスモデル中心の海外進出だったのですが、これからは製販一体での海外進出、あるいは販売・サービスを中心にした海外進出を、企業規模に関係なく考えられる企業が成長し続けられる印象を持っています。

ただ一方で、これらの動きが本当に定着するのかという部分に不安も感じます。中小規模の企業で、はたして考え方も行動も思考も習慣も異なる留学生を、本当に定着させ使いこなせることができるかどうかという点です。都市圏の方にはあまり理解できないことだと思いますが、地方によっては隣県からの就職希望者を敬遠するような企業が、実はかなり多いという事実があります。これは過去に隣県の学生や転職希望者を採用したが、結局定着せずにすぐに離職し、出身県に戻ってしまったという経験をしている企業が多いからです。もちろん当事者には自覚も悪意もないのでしょうが、その地方特有の風土や気質にうまくなじめない人に何となく排他的な雰囲気を醸し出してしまうという、同一化した気質の人たち中心で集団を形成しているがゆえに起こる弊害があるように感じています(私自身が地方出身者ですので、このあたりについて思い当たる節がないではありません)。このあたりの企業風土を意識的に変えていくような労務政策を展開していかないと、隣県出身者の採用と同様に早期退職者を出してしまい、「留学生はどうせ入ってもすぐ辞めるから・・」ということで今の流れが根付かずに終わってしまう危険性を感じています。

いずれにしても様々な部分でのグローバル対応が、今後の日本企業に急速に求められることは間違いのないことでしょうし、そこが今後の個々の企業の成長の有無に大きく影響するように思います。したがって留学生採用が増えてくるという今の流れについては、紆余曲折があるにせよ、今後さらに進むのだろうと考えています。

一方で、逆に日本人学生についての不安が出てきます。当然ですが、こうした企業のグローバル化の流れは、それらの企業を志望する学生にも同様のマインドが求められることになります。つまり、企業規模にかかわりなく、日本人学生にも将来的な海外勤務の可能性が高まってくるということになりますので、勤務地優先(金沢大学にはこの志向の学生が多いのですが・・・)という就職志向そのものがだんだん通用しなくなってくるような時代がくるのかな?と感じています。私自身が東京で仕事をしていて、生まれ育った故郷に戻りたくて今の仕事をしているのですから、地元志向という考え方は否定するべきではないと思っているのですが、なかなか難しい時代になるのかなと感じています。
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