根性の時代を乗り越えるもの

特別読み切り

平昌オリンピックが終わった。見るともなく見ていたが、羽生選手の優勝をかけたステージだけは、あまりに心配でリアルタイムで見る勇気がなく、結果が分かってから見る始末だった。常々思うが、氷上で優雅なジャンプを披露する姿は、まさにアーティストである。オリンピックのモットーである「より速く、より高く、より強く」というアスリートの世界を超えているように思えてならない。
ところで、度々繰り返されるメダリストへのインタビューに共通していることは巧な「言語化」である。彼らは競技のこと、体調のこと、自分への期待と責任、支援者について、自らの言葉で語ることができる。アスリートにも、自分を客観視できるスマートさが必要とされているようだ。そこで感じたのは、もう根性や熱血の時代ではないのだな、ということだ。これは、働き方改革が目指すものの一端を例示しているようにも思えた。

内的な混乱があっては自主性など望めない

働き方改革では、「社員の自主性を重んじることで、より生産性を向上させる」としている。自主的に動く社員を育成することは、それほど優しいことではない。今回は研修など外部からの働きかけでなく、内面に向かうことで自主性を呼び覚ますことを考えてみよう。つまり、自分の感情と素直に向き合うことから生まれる気づきから自主性を導くことに期待する方法である。

ここに興味深い調査結果がある。これまで根性の影に置き去りにされてきた「感情」に着目した調査だ。1月31日に公表されたリクルートキャリアによる「転職決定者に聞く、入社後にとまどったことは?」がそれである。

これによると、異業種/同業者へ転職した人は、「前職との仕事の進め方ややり方の違い」を筆頭に、「社内・業界用語等、専門知識が分からない」、「職場ならではの慣習や規範になじめない」といった「とまどい」を感じていることが分かる。

この「とまどい」を放置するとどうなるのだろうか。転職者が入社後に抱えるもやもやとした気持ち、不満、迷いは、「内的な混乱」を招く。これでは自主性を引き出すどころか、やがて「やる気が出ない」、「再び転職したい」といった思いが生じ、重症化すると、メンタルに障害を引き起こすなどの危険性もあるだろう。

「感情と向き合う」、「言語化」がこれからのキーワード

具体的な方策を立てるにあたり、「とまどいという感情の底にある正体」に気づくプロセスが大切だ。ここで、なぜ感情を大切にするのか、「感情」と「個」の関係性を見てみよう。
これは「個」を形作る要因と循環のイメージ図だ。カウンセリングなどでは傾聴することで、相談者の内的感情の言語化を支援する。よく言う「話してすっきりした」というあれだ。内的感情を言語化し、自分を無条件に受け入れてくれる聞き手に話すことにより、カタルシス効果が生まれる。つまり、感情が浄化され、開放される状態になるというわけだ。そうすると自分を縛っていたものから次第に開放され、本心に耳を傾けるようになる。そうして、もやもやしていたものの正体に気づき、自分が何をやるべきか、どうありたいのかが、分かってくるのである。

こうした「個」の形成が起こるのは、カウンセリングに限らず、音楽を聴いている時や、散策をしている時かもしれない。職場でも、また日常の些細なことに触れても、さらには人生の転機においても、時には大きく、時には小さくこのような循環が起こり、「個」は形成されていく。このような効果と働きは、見逃してしまっては非常にもったいないものなのだ。

なぜなら、あるときは大きな仕事のインスピレーションを与えてくれるかもしれないし、ある時は小さな心配事を解決してくれるかもしれない。

今は、ただ「根性が足りない」、「やる気の問題だ」と一蹴できない時代である。社員に自主性を持たせ、生産性を向上させたいのなら、しかるべき手続きが必要なのである。

振り返ってみれば、昭和の働き方は、根性や熱血といった鎧を纏って戦っていた時代と言えそうだ。感情はずっと息をこらして隠れていた。しかしながら、時代の変遷とともにそこへ亀裂が生じた。その亀裂を放置すれば、今後はもっと恐ろしい時代がくるかもしれない。

だからこそ、「感情と向き合う」、「(内的感情の)言語化」というプロセスで人を育てていくことが、これからの時代の人事のキーワードだ、と考えている。
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著者プロフィール

オフィス クロノス 代表 人材育成コンサルタント、社会保険労務士 久保 照子

中小企業の実態を理解できる社会保険労務士の視点を持ち、経営課題を盛り込んだ中長期の人材育成を支援。コンピテンシー、行動力アップ、リーダー研修、レジリエンス研修を初め「行動」を重視した研修のほか各種セミナーを行う。

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