就職・採用は男女の恋愛に似ているとは言うけれど

ここからは、就活生からの投稿による「2023年卒 就活川柳・短歌」の入選作品を取り上げます。まずは、【最優秀賞】です。

面接の フィードバックは 家族から(大阪府 スーススーさん)


自宅でのWeb面接が当たり前になった今、家族に聞き耳を立てられている学生はこの方だけではないでしょう。作者のコメントによると、「もっと明るくしゃべられへんの?」「なんか途中、めっちゃ訛ってたで」「なにが『家族への恩返しがしたい』や、洗濯物一つ畳まないくせに」など、関西人らしいストレートなフィードバックをもらえるとのこと。面接官からのフィードバックでは決して聞くことのできない、忌憚のない(なさすぎる)客観的なアドバイスをもらえることを、Web面接ならではのメリットとして肯定的にとらえ、「家族からのフィードバック」に苦笑する、作者の心情を見事に表した作品です。「壁に耳あり、障子に目あり」は、必ずしも注意を促す言葉ではなさそうです。

続いて、【優秀賞】の2作です。

恐ろしや 仏頂面の 面接官 よくよく見れば 画面フリーズ(東京都 ひよこぶたさん)


面接で多くの人が不安を感じるのが「沈黙」と、オンライン特有の「回線問題」でしょう。その両方が組み合わさった、現代ならではの就活での不安を凝縮した作品であるといえます。作者は、面接の最初の質問で、画面越しに表情一つ変えない面接官に、自分の話にまったく興味を持ってもらえていないのではないかと、かなりビクビクしたとのこと。仏頂面のまま表情が変わらなかったとしたら、さぞ怖かったことでしょう。フリーズ解消後、面接を続けてみると、実際にはとても温和でにこやかな方だったとか。画面がフリーズしていないかどうかをすぐに見分けられると、面接での余計な緊張が少しは減るのかもしれません。

内定後 カップルみたいな 会話する 別れたいのに 別れてくれない(兵庫県 さんちゃんさん)


学生と採用担当者、双方の困った感情、表情を男女関係に例えて表現した、ストレートでありながら非常に共感性の高い秀逸な作品だと思います。採用担当者の思いとしては、「相思相愛だと思っていたのに。あんなに第一志望だと言っていたのに。何か誤解があるなら解きたい。内定承諾して戻ってきてほしい」と、引き止めに必死なのでしょうが、得てして別れを決めた人(内定を辞退して、別の会社に行くことを決めた人)の心は既に前(別の会社)を向いているもの、という学生の立場も理解してあげたい。作者によれば、これは電話でのやりとりで、その場では内定辞退は認めてもらえなかったとのことです。

「玉手箱」から「メルカリ」まで登場

こちらも【佳作】の中から5作を抜粋して紹介します。

地方から 夜行バス乗り 6時間 面接時間は わずか10分(宮城県 お暇頂戴いたします)


Web面接が主流となった今でも、たった10分の面接のために遠方からわざわざ学生を呼んで「対面」面接にこだわる企業があることに驚きます。きっと、宮城県から東京にある企業の面接のために上京したのでしょう。交通費を抑えるために、新幹線ではなく夜行の高速バスを利用した移動時間の6時間と、わずか10分という面接時間の短さの明確な対比によって、理不尽さや虚しさをうまく表現できた作品だと思います。人を思いやる力や想像する力を問われているのは、学生ではなく、むしろ採用担当者の方ではないでしょうか。

玉手箱 解いた疲労で 歳をとる(埼玉県 霧崎鋭さん)


新卒採用で、「SPI2」と並んでよく利用されるWebテストの一つである日本エス・エイチ・エル社「玉手箱シリーズ」を、おとぎ話「浦島太郎」のストーリーに重ね合わせ、Webテストに向き合う作者の苦労や疲労を軽やかに表現した作品です。「玉手箱シリーズ」は、短時間で大量の問題を解くことを求められ、終了後には「疲れた」と漏らす学生が多いといわれています。もしかして「玉手箱」の命名者は、本当におとぎ話から名前を取ったのではないかと思わずにはいられませんが、もしそうだとすればかなりのブラックジョークの効いたネーミングですね。

面接中 「ご飯どうする?」 「面接中!」(埼玉県 山田太郎さん)


Web面接により、就職活動が日常生活に食い込んだ現代を、印象的で共感性の高い家庭での一コマとして表現した作品です。「ご飯どうする?」という母親からの問い掛けの前に、ドアのノックなど何かしらのサインがあれば、一旦マイクをオフにすることもできますが、多くの家庭ではそのような配慮を日常的にしていないでしょう。子どもがWeb面接を受けていると知らなければ致し方のない行為です。リビングから大声で呼び掛ける母親と、面接中に焦る学生の姿が鮮明に目に浮かびます。作者によれば、「面接中!」と叫んだ時には、一時的にマイクをオフにしたとのことですが、カメラはオンのままですから、画面越しの面接官に声は届かなくても、大きく開けた口の動きから、おおよその判断はつきそうです。面接官のほくそ笑んだ表情までもが思い浮かびます。面接を受ける際には、指向性の高いマイクの付いたヘッドセットの着用をお薦めします。そうすれば、家族の声が面接官には届くことはないでしょう。

御社から 弊社に変わる 達成感(三重県 きこさん)


自分の就活を振り返って込み上げてくる達成感を、社会人特有の言い回しで表した作品。学生時代には使っていなかった「御社」、「弊社」という響きを自分の言葉にしており、学生から社会人への成長過程もうかがうことができる素敵な一句です。就活中はずっと「御社」と呼んでいた企業に内定し、入社を決意してからは、後輩に対して「弊社は・・・」と自慢げに企業説明する姿が微笑ましい限りです。その達成感をいつまでも忘れずにいてほしいと思います。

圧迫面接 するならこちらは メルカリで 御社の商品 ぜんぶ売ります(東京都 あいこさん)


対面で圧迫面接という精神的な負荷が大きい面接で受けたストレスを、いま家にあるその企業の商品をフリマアプリ「メルカリ」で売り払って、自分の目の前から全部消してしまおうという、斬新かつ今どきの発散法を詠んだ作品です。

ただ、疑問なのは、その企業の商品を見るたびに、圧迫面接の悪夢を思い出すことのないようにしたいという思いなのか、フリマアプリでその企業の商品を安値で売り払うことで、その企業の商品イメージを少しでも落とそうとしたいのか、何なのでしょうか。いずれにしても、それによって気分がスッキリするのであれば、面白いストレス発散法だと思います。ところで、無形商材しかない応募先企業の場合はどう対処するのかも、作者の考えをぜひ聞いてみたいところです。
[図表2]「2023年卒 就活川柳・短歌」入選作品
HR総研のオフィシャルページでは、「2023年卒 採用川柳・短歌/就活川柳・短歌」の全入選作品について、作者の思いを踏まえての寸評・解説とともに掲載しています。それぞれの作者がどんな気持ちでこの川柳や短歌を詠んだのか、ご興味をお持ちいただけましたら、ぜひご覧ください。

【HR総研「2023年卒 採用川柳・短歌/就活川柳・短歌」オフィシャルページ】
こちらからご覧ください⇒https://hr-souken.jp/senryu2023/
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