「働き方改革」取り組み状況に関する調査結果の第2回は、「労働時間」に関する調査結果を報告する。労働時間に関しては、約7割の企業が何らかの取り組みを行っている。実態としては、1か月の「所定労働時間」は「151~160時間」の企業が35%で最多であり、「平均の実労働時間」では「171~180時間」の企業が24%で最多であった。
 労働時間短縮に取り組むうえで、どのような点が課題なのだろうか。10の選択肢のうち最も多くの人事が選択したものは「業務量が多く、人員が不足していること」であった。調査詳細は以下をご覧ください。

所定労働時間は「150~160時間」が35%で最多

労働時間の短縮は「働き方改革」の中でも人事が最も力をいれている取り組みだ。前回紹介したように「働き方改革」に取り組んでいる企業のうち、約8割が「労働時間短縮」に取り組んでいる。
では、その前提として「所定労働時間」はどのくらいなのだろうか。今回、最多となったのは「151~160時間」で35%である。土日と祝祭日が休日の場合、2016年では就業日数が245日なので、1日の労働時間が法定の8時間とすると月間163.3時間となる。所定労働時間が160時間未満の企業では、土日と祝祭日のほかに、年初や夏季などの休日を定めていたり、一日の就労時間を8時間未満としていると考えられる。
 第2位の「161~170時間」は26%で、「171時間以上」としている企業も全体で16%あった。一方、「150時間」以下としている企業も全体で24%ある。

〔図表1〕所定労働時間(1か月平均)

HR総研:「働き方改革」への取り組み実態調査【2】労働時間

「実労働時間」は「171~180時間」が25%で最多

「所定労働時間」に対して、1か月の「実労働時間」はどのくらいになるのだろうか。最多は「171~180時間」で25%を占めている。仮に、所定労働時間が「151~160時間」の企業の実労働時間が「171~180時間」とすると、10時間~30時間の残業時間が発生していることになる。

「実労働時間」では企業規模で差異がある。1001名以上の大規模企業では「161~170時間」が最多の29%だが、301~1000名規模では「181~190時間」が31%で最多となっている。300名以下規模では「171~180時間」が28%で最多である。企業規模でみると、301~1000名規模の企業が長時間労働の傾向があるといえるだろう。

〔図表2〕実質労働時間(1か月平均)

HR総研:「働き方改革」への取り組み実態調査【2】労働時間

普及している労働時間短縮は「ノー残業デーなどの設定」

こうした実態に対して、労働時間短縮のための制度・施策はどのようなことを行っているかを複数選択で聞いた。第1位は「ノー残業デーなどの設定」で58%、第2位は「残業の事前届出制、許可制」で54%だ。この2つは半数以上の企業が実施していて、普及している施策だ。それ以外は実施している企業数は減少し、「深夜残業の禁止」が19%、「業務繁閑に対応した営業時間の設定」は6%と少ない。
「勤務間インターバル制度(勤務終了から次の勤務開始までの間に一定の休息時間を義務付ける)」は5%と少ない。厚生労働省は、2017年度から「勤務間インターバル」制度を導入した中小企業に助成金を支給する方針で、今後はこうした施策も普及していく可能性がある。
「朝型勤務への転換を奨励する制度」も同じく5%だ。
「残業代の抑制分を賞与等で従業員に還元」している企業は、わずか2%である。SCSK株式会社が、残業手当の減少を目標達成時にインセンティブとして支給したことで注目を浴びた制度だが、追随して実施している企業はほとんど見られない。

〔図表3〕労働時間短縮のための制度・施策

HR総研:「働き方改革」への取り組み実態調査【2】労働時間

労働時間短縮のための運用のトップは「業務プロセスの見直し・改善」

労働時間短縮のためにどのような運用を行っているか、という質問では、トップとなったのは「業務プロセスの見直し・改善」で42%の企業が行っている。続いて「退勤時刻の終業呼びかけ・社内放送、強制消灯など」が37%、「長時間労働抑制のための周知・啓発(ポスター等の掲示など)」が36%となった。残業抑止の意識づけを、目や耳から入れていこうということだ。
またさらに業務改善に踏み込んで「業務量の偏在を解消するための組織間・従業員間の業務配分の見直し」を行っている企業も21%ある。
「長時間労働抑制に関する管理職向けの研修」を実施している企業は20%あり、長時間労働を抑制することが管理職の業務であることの意識づけを行っている。
「適正な人員配置による一人当たり業務量の削減」を行っている企業は19%であった。

また選択肢以外の施策や運用については以下が挙がった。ぜひ参考にしてもらいたい。

・労働時間短縮委員会の設置(1001名以上、メーカー)
・毎月の残業(法定超+休日労働)時間の当月平均、当月MAX、累計平均、有給休暇取得状況、36協定の延長申請回数等の組織サマリーを社内ポータルで公開(1001名以上、情報通信)
・定時から15分たつと社内システムにログインできなくなる(301~1000名、サービス)
・ITツールの導入:シンクライアント、BYOD、業務見える化ツールなど(
1001名以上、情報・通信)
・フレックスタイム制度(301~1000名、メーカー)
・長時間労働をしがちな管理職に対する個別指導(301~1000名、商社・流通)
・長時間労働をもって評価することはない(むしろ逆)と社長が公言(300名以下、サービス)

〔図表4〕労働時間短縮のための運用

HR総研:「働き方改革」への取り組み実態調査【2】労働時間

施策や運用がうまくいっているのは3社に1社

労働時間短縮のための施策や運用について、「取り組みはどのような進捗状況だとお考えですか」と質問した。
「うまくいっている」は34%。3社に1社がうまくいっていると人事担当者は考えているという結果だ。「うまくいっていない」は13%で1割強である。「どちらともいえない」が53%であり、施策・運用はまだ成果が出ていないか、何らかの課題があるなかで進められている状況なのだろう。

〔図表5〕取り組みの進捗状況

HR総研:「働き方改革」への取り組み実態調査【2】労働時間

課題の最多は「業務量が多く、人員が不足している」

労働時間短縮に取り組む上での課題は何だろうか。10の選択肢から複数可で選んでもらったところ、「業務量が多く、人員が不足している」が58%で最多となった。解決の方法は業務量を減らすか、人員を増やすかになるが、先に見た労働時間短縮のための運用で「業務プロセスの見直し・改善」を行っているのはこうした課題感からであろう。人員の不足は採用するか配置を変えるかになる。今日の人材獲得競争が激化している状況では採用は新卒もキャリアも容易ではなく、配置転換の場合は育成が必要になる。いずれも人事が取り組んで解決しなければならない重要課題である。

第2位は、「長時間労働をいとわず、一定水準以上の仕事をしようとすることで労働時間が長くなる従業員がいる」で55%である。これは日本企業の労働生産性が低いと言われていることとも関連するだろう。一定水準をどこにもっていくのかは企業文化に基づくものだが、時間と仕事の質を秤にかけて、ある程度のところで見切りをつけるということを文化的に許容する必要があるのかもしれない。

同じく55%で第2位となったのは「仕事の進め方にムダがある(急な方針変更、曖昧な指示、プロセスの多い決済手続きなど)」。仕事にムダがあることは、時間の問題だけでなく、モチベーションの低下にもつながる。仕事のムダを削減することは、取り組み次第で解消していくことができるだろう。
第4位の「業務の繁閑が激しい、または突発的な業務が生じやすい」(46%)も同様に、プロセスの見直しなどにより、解決の道筋が立ちそうだ。
第5位は「能力・技術不足で時間がかかってしまう従業員がいる」(40%)であり、人材育成により解消していくべき課題である。
「時間外労働を増やすことで、自分の所得を増やそうとする従業員がいる」は34%で3社に1社はそのような風土があるようだ。


本調査では「仕事が終わっても周囲に人が残っていると帰りにくい雰囲気がある」(28%)、「時間外労働が高く評価される風土がある」(27%)は、いずれも3割以下という結果になった。日本の企業では「周りの雰囲気で残業せざるを得ない」などと言われるが、すべての企業がそういうわけではない。しかし3割弱は「残業を良しとする習慣、風習」があると言えよう。文化・風土を変えるのは容易ではないが、決してできないことではない。経営トップとタッグを組んで、文化・風土を変えていくことが望まれる。

HR総研:「働き方改革」への取り組み実態調査【2】労働時間

【調査概要】

調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査対象:上場および未上場企業人事責任者・担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2016年10月5日~10月20日
有効回答:252件(1001名以上:77件、301~1000名:65件、300名以下:110件)

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