「360度多面評価(Multi-rater Evaluations)」とは、人事評価制度の1つで、上司だけではなく、同僚や部下といったその人に関わる様々な人からの評価を行います。

一般的に組織における評価は、上司が部下を見る形で行われますが、その上司の先入観や価値観、業務内容に対する知識量などで偏りが避けられません。

上司が見えないところでの行動や潜在能力などの評価が加わることにより、非評価者にとっても「みんな」から評価されることで、納得度も高いものとなり、上司の顔色だけをうかがって仕事をするのではなく、周りから常に見られているという緊張感の中で業務を遂行することにより、質の向上、組織力の向上にも繋がるというメリットがあります。

また、多面評価と自己評価を比較することで、自らのマネジメントの特徴を理解させ、適切な行動変化の特徴を広げ、明確な行動変化を促すことができます。

デメリットとしては、評価制度を企業文化に即した適切な設定をすることや、組織内で有効に活用するために広く展開するための細やかな配慮など、運用上の負荷が大変に大きく、また評価が自己評価と大幅にズレるなどネガティブなとらえ方をするものも少なくないため、評価後のフォローもしっかり実施しなければならないなどがあります。

最近では、人事的評価だけではなく、マネジメント力向上や育成にも使われています。元々は、イギリスやアメリカの諜報機関や軍などでの要員選抜のための仕組みとして用いられてきた手法とされているが、仕組みや集計が煩雑だったため、広く普及することはありませんでしたが、90年代になってインターネットを利用した方法が実用化され、アメリカの企業で人事評価の方法として用いられるようになりました。

実施前の準備としては、1.目的、目的の周知、2.被評価者の設定、3.評価者(観察者)の設定、4.具体的な実施方法・設問・解析方法などの設定、5、スケジュールの設定となります。多くの人が関与し、社内的な負荷も高いため、計画的に行うことが大切なポイントとなります。また、評価者は、上司・同僚・部下やかかわりがある他部署からなど、5名程度の選定が一般的となっています。

実施後の計画としては、1.結果の取り扱いと配布についての確認、2.実施後のフィードバック、3、アクションプランの作成、フィードバックは、研修やミーティング、面談など効果効率を図った方法で行います。

この360度多面評価制度は、社員の意欲向上や人事評価だけではなく、管理職は自らのマネジメントや課題がわかるため、管理職の人材育成にも繋がっています。システムの煩雑な部分だけが注目されがちな制度ですが、運用の工夫次第で、企業に効果的な利益をもたらすでしょう。