近年、賞与を給与化する企業が見られる。ここでいう賞与の給与化とは、従来賞与として支給していた原資の一部または全部を、月例給与(基本給等)に組み替える制度設計を指す。
ソニーでは冬の賞与を廃止し、その原資を給与と夏の賞与に回す制度改定を行った。これにより、2025年度の新卒者の初任給は月額で3万8,000円引き上げられたとされている。また、大卒初任給を10万円引き上げて35万円とした大和ハウス工業も、賃上げに加え、給与と賞与の比率を見直すことで月例給与水準を高める報酬設計を行っている。他にも、バンダイや伊藤忠テクノソリューションズなどでも、賞与の一部を給与に組み込む動きが見られる。
企業が賞与を給与化するのは、主に次のようなメリットを期待してのことと考えられる。
第一に、初任給のアップである。激化する新卒採用競争において、「月給水準の高さ」を明確にアピールできる点は大きい。賞与を含めた年収ではなく、月例給与として高水準を示せることは、就職活動中の学生にとって分かりやすく、採用広報上の訴求力は高い。
第二に、社員の定着促進である。賞与比率を下げ、月例給与を高めることで収入が安定する。これにより社員は生活設計を立てやすくなり、安心感の向上を通じた定着促進効果が期待できる。
第三に、社会保険料負担の削減である。保険料の標準報酬月額には上限があることから、高所得社員は給与を増やすことで社会保険料負担を減らせる可能性がある。
第四に、キャッシュフローの平準化である。賞与は支給月に多額の資金流出を伴うが、給与化することで人件費支出を平準化でき、月次のキャッシュフロー管理が容易になる。
第五に、グローバルスタンダードとの合致である。世界的に見ると、日本のように賞与が報酬の大きな割合を占める制度は例外的である。賞与を給与化することで、グローバルに共通した報酬体系に近づけるという側面もある。
一方、賞与の給与化にはデメリットも存在する。
第一に、業績・成果意識の希薄化である。賞与を業績連動・成果連動の主要な手段としてきた企業では、給与化によって成果と報酬の結びつきが見えにくくなる可能性がある。
第二に、報酬によるインセンティブ感の低下である。年2回、多額の賞与を受け取ることは、社員にとって心理的な節目となり、一定のモチベーション維持につながってきた。賞与の給与化により、こうしたメリハリが弱まる点は否定できない。
第三に、固定人件費の増加である。給与化は人件費の固定化を意味する。賞与であれば業績に応じた減額や不支給が可能だが、給与の減額は原則として困難であり、業績変動への柔軟性は低下する。
加えて、実務上注意すべき点もある。それは、社員から「賞与がない」「賞与が少ない」との不満が生じやすいことである。制度変更直後は、賞与を給与に回した経緯が共有されているが、数年が経過し、新制度を前提に入社した社員が増えてくると、その背景は忘れられやすい。その結果、単純な他社比較により不満が顕在化する可能性がある。
「そのときはまた賞与に戻せばよい」という考え方は、実務的には慎重であるべきだ。賞与の給与化は、会社の意思決定により比較的実施しやすい一方で、一度給与化したものを再び賞与化することは、社員の不利益が大きく、業績悪化などの合理的理由がなければ困難である。この意味で、賞与の給与化は実質的に一方通行の制度変更と認識すべきであろう。
初任給を引き上げるという短期的な採用対策だけを目的として、安易に賞与を給与化することには注意が必要である。給与化を検討する際には、等級制度や基本給テーブル、評価制度との整合性、中長期的な人件費構造まで含めて、総合的に設計する視点が人事には求められる。