人事を変える集合知コミュニティ HRアゴラ

社員の転勤拒否

0

2015年01月09日

年が明け、人事部門では、人事異動のプランづくりに忙しくなるのではないかと思う。
人事異動は、昇進や昇格などのタテの異動と配置転換や出向などのヨコの異動からなる。
昇進・昇格はおめでたいが、配転はそうとも限らない。特に、配転の中でも転居を伴う転勤は、本人だけでなく家族の都合もあって、歓迎すべきでない場合も多い。大半は、サラリーマンの宿命と転勤を受け入れるが、事情によっては命令を拒否をするケースもある。

このようなとき、企業はどう対応すればよいのかを考えてみたい。ポイントは3つ。

1つ目は、転勤命令の根拠が明確化されているかどうかの確認である。
具体的には、就業規則や労働協約に社員に転勤を命ずることができる旨の規定があり、実際に転勤が行われていればOKである。普通に就業規則が整備されていれば、この点は問題ないはずだ。

2つ目は、当該社員との労働契約で勤務地を限定する旨の特約がないかの確認である。
いわゆる地域限定社員として労働契約を締結していないかということだ。ただ、勤務地について特に明確な定めをしていなくても、現地採用された現場の労働者などは、勤務地が限定されていると判断されることもある。逆に本社採用の大卒社員等であれば、幹部候補生として勤務地の限定はないと判断されうる。

以上の2点がクリアできれば、基本的に労働者の個別的同意なしに転勤は可能と考えてよい。

とはいえ、転勤は社員の生活に大きな影響を与えるものなので、無制限に認められるわけではなく、会社に権利の濫用がないかが問われる。これが3つ目のポイントである。

権利の濫用にあたるケースとは次の3点である。

① 転勤命令に業務上の必要性がない場合
② 転勤命令が不当な動機や目的に基づく場合
③ 労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益をもたらす場合

①については、「その人でなければ他に該当者がいない」というような高度の必要性は求められず、労働力の適正配置や業務の円滑化、人材育成といった趣旨であれば合理性は認められる。

②は、判例では、退職を強いるための転勤や、経営方針に批判的な社員を排除する目的の転勤に対して、不当な動機や目的があると判断している。

③については、転勤をすると家族の介護や看護ができなくなるというような限定的なケースが該当する。単に単身赴任を強いられる場合や、子供の送迎ができなくなるといったレベルでは、③に該当しないとされる。
ただし、育児介護休業法で、就業場所の変更により育児・介護が困難になる労働者への配慮が求められることや、昨今のワークライフバランスの社会的な要請から、③のレベルは下がっていると考えるべきだろう。

以上を整理すると、人事異動の一環として通常に実施されている転勤で、社員の側に転勤を避けなければならない特別な事情がない限りは拒否できないものといえる。

それでも拒否する社員には、就業規則上の懲罰の適用も考えざるを得ない。

一般的な懲罰規定では、けん責・減給・出勤停止・降格といった比較的軽度の制裁と諭旨解雇・懲戒解雇という重度の制裁との2つに大きく区別し、それぞれ具体例を示しているはずである。
転勤命令の拒否は、具体例のうちの「業務上の命令に従わない場合」に該当すると考えられ、このようなケースは前者の軽度の制裁に属するのが通常である。
企業によっては、「正当な理由なく転勤・出向命令等の重要な職務命令に従わないとき」を懲戒解雇の事由に明記しているところもあるかもしれないが、いきなり懲戒解雇とするのは避けた方が無難である。

ただし、懲戒解雇の定めには「懲戒を繰り返し受け、改悛の見込みがないとき」といったものがあるはずなので、拒否が繰り返されれば、懲戒解雇とすることも可能となるだろう。
最高裁の判例でも、2度の転勤命令を拒否した社員を懲戒解雇したケースを、権利の濫用にはあたらないとしている(「東亜ペイント事件」昭和61.7.14)。

企業としては、まずは拒否する理由を確認し、介護等の事情でなければ、転勤の必要性や社員にとっての有用性などから説得を試み、それでも翻意しないのであれば懲戒処分の対象ということになるだろう。
拒否されたからといって安易に命令を撤回するようなことは、他の社員への影響を考慮して避けなければならない。

この記事はあなたの人事キャリア・業務において役に立ちましたか?

参考になった場合はクリックをお願いします。