近年、健康志向や環境問題への関心の高まり・通勤ラッシュの回避などから都心部を中心として自転車通勤が増加してきている。従業員の健康増進につながるなど利点となることも多いことから、企業として推奨しているところもあるだろう。
しかし、自転車通勤は電車通勤等に比べてリスクをはらんでいる部分もある。
重要性を増す「自転車通勤規定」

■労災対象、責任追及・・・自転車通勤のリスクとは

リスク① 従業員自身が怪我をした場合
従業員が自転車通勤時に事故に遭い、怪我をした場合に通勤災害となるかが問題となる。結論をいえば、通勤が「合理的な経路及び方法」により行われた場合には労災の対象となる。
「合理的な経路及び方法」とは、通勤の経路及び手段が「一般に労働者が用いると認められる」ものである必要がある。企業に届け出た経路通りではなくとも、通常考えうる経路での怪我等であれば労災保険の対象となる。例えば、自宅から子供を預けに託児所へ寄り、そこから企業に向かうような場合は合理的な経路と判断される。

自転車通勤で問題となるのは、その自由度にある。自由度があるがゆえに「合理的な経路及び方法」の判断が難しい。
電車等とは違い決められた線路の上を走るわけではない。
「本屋にでも行って今話題のお笑い芸人の本でも読んでみるか」、はたまた「お!このラーメン屋、今日は行列が少ないから並ぼう」なんてこともあるだろう。
上記のようなケースで、合理的な経路を外れたと判断された場合は、労災保険が適用されないということも起こりうる。

リスク② 従業員が加害者になった場合
自転車通勤中に従業員が加害者となり、第三者に怪我等を負わせてしまった場合の損害賠償等の問題も考える必要がある。
基本的には、従業員本人が損害賠償の責任を負うことになる。
しかし、最近は、自転車の高機能化等により死亡事故を含む重大な事故に発展する例もあり、9500万円の賠償を命じた判決など、高額な損害賠償を命じられたケースも見受けられる。また、使用者責任として雇用主である企業が、責任を追及されることもあり得るだろう。

では、企業としてどのような対策をとる必要があるだろうか。

■自転車通勤の対策をしよう!

まず、自転車による通勤を禁止するのか、認めるのか検討する必要がある。

1.禁止するケース
就業規則もしくは自転車通勤規定を別途作成し、その旨を盛り込むとともに、従業員へ周知を行う。また、違反した場合の懲戒規定も設けるべきだろう。

2.許可するケース
大前提として届出・許可制とするのが好ましい。
重要なのは民間保険の加入義務だ。
保険料の負担については従業員とのトラブルとなりやすい、どちらが負担するのかきちんと規程に盛り込んでおく必要があろう。さらに、自転車通勤を許可する範囲も定めるべきだ。あまりに長距離の場合には疲労等による業務への影響も考えられる。
(もっとも最近は電動自転車があるが)

また、規程には「携帯電話を使用しながらの運転」「飲酒運転」「傘をさしての運転」「整備不良の自転車の運転」等、禁止事項も定めるともに、道路交通法の遵守を徹底させ、違反した場合には、許可の取消等の措置を定めておくことも重要だ。
不運にも事故に遭ってしまった場合の報告も義務付けておくべきだし、通勤費支給をどうするのかという点も盛込む必要がある。

自転車通勤については自動車通勤と違い規程・ルールを設けていない企業も多いだろう。しかし、自転車通勤にも大きなリスクが潜んでいる。自転車通勤を黙認するのではなく、きちんとした規程等を作るとともに社員の安全教育を行っていくことが重要だ。

社会保険労務士たきもと事務所 代表・社会保険労務士 
瀧本 旭

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