安倍内閣は、成長戦略の一環として女性活躍推進を目標に掲げている。社会保障制度では、社会保険料の免除期間が「育児休業期間中」のみであったのに対し、法改正によって平成26年4月からは「産前産後休業期間中」においても拡大適用されるようになった。他にも実現に至るかはさておき「配偶者控除」の見直しを検討するなど、ドラスティックな制度面の変更を試みようとしている。
―成長戦略―女性の活躍推進を考える

 安倍内閣は、指導的地位に占める女性の割合を2020年までに30%程度とする政府目標を掲げた。上場企業における役員クラスに就く女性の占める割合が約1%程度にとどまっている現状からすると、実現への道のりは決して簡単ではない。とはいえ、何の政策も目標も持たなければ何の変化もない。だから、このような数値目標を政府自らが掲げて先導的立場に立ち実行に移していくことは一定の評価ができる。女性活躍の場は徐々にではあるが開けつつあると言えるだろう。
 ただ一方で筆者が危惧するのは、音頭をとったはいいが単なる一過性のお祭り騒ぎで終わってしまわないだろうかという点である。そう感じてしまうのは次の2つの理由からだ。
 第1に、日本が1985年に女子差別撤廃条約に批准して以降、女性の社会進出と地位向上が一層叫ばれるようになった。しかし、前述したように依然として女性の指導的立場にある人達の割合が極めて低い水準にあることは、それだけ日本において女性の社会的地位が確立されないまま現在まで来てしまっていることを如実に物語っている。その根幹にあるのは、依然として女性が結婚・出産を機に就労継続が困難となる事象が続いている点にあるとみて良いだろう。 女性にとって、仕事と結婚・出産は密接に関連するものである。女性が安心し、継続して仕事を続けるためには、環境的側面(保育施設)も去ることながら、拙稿において何度となく主張してきたが、我々の働き方を大きくシフトチェンジしていかなければ難しい。サービス業の批准が高まる我が国とって、これまでのように曖昧な職務のままに、ザックリとした人事労務管理では長時間労働に陥りやすい。そして属人化しやすい。結果として、法整備によってハード面がいくら充足されたとしても、働き方の限界によって仕事と家庭の両立は困難となる。そしてこの問題は、女性だけに限った話ではない。男性もまた働き方を変えていかなければ、結果として子育て・介護を女性に押し付けることに繋がり、社会における女性の活躍は日の目を見ないことになる。男性側の意識変化も必要ということである。

 第2に、今回のように女性の活躍推進策が提言されると、日本の場合は数値目標ばかりに目が向き、体裁を繕って大切な中身が置き去りにされる点だ。そもそも論で考えてみて欲しい。本来有能な人材ならば男性・女性など関係ないはずである。重要なことは、男女関係なく有能な人材が然るべきポストに就くことが自然な形であるということだ。諸外国と比較しても、そうなっていない今の日本が特異なのである。この特異な現実を我々はまず受け入れることから始めなければならないのではないだろうか。女性が指導的地位に就くだけでイメージアップに繋がったり、サプライズになったりすることに違和感を持つ意識変化が必要である。だから、企業は今回の女性の活躍推進策に対し、とりあえず便乗して重要ポストや指導的地位に女性を据えて外形を整えるだけでは本末転倒なのだ。外見だけに意識が向くあまり、そのポストを担うにはまだ時間が必要な女性を担当させてしまうことで、これから成長するハズだった芽を摘んでしまうことになるかもしれない。それは本人にとっても不幸だし、その結果だけをもって、女性に担当させるべきでなかった…というような認識に繋がれば、それはあまりに安直すぎる。

 以上の点から、人事処遇においては、とかく女性という視点だけに目を奪われるのではなく、男女関係なしに有能な力のある人材が然るべきポストに処遇されてこそ組織力強化に繋がるという基本を見失ってはならない。また企業は、こうした適材適所の仕組み作りや働き方を徹底追求していかなければならない。なぜなら、このような会社こそ次世代に打ち勝っていける組織になるからだ。これから少子高齢化が進む我が国の競争力を維持するためには、女性が今以上に社会で活躍することは必須である。しかし、こればかりが先行し、単なる姿形だけで中身が伴わないような事態は絶対に避けなければならない。

SRC・総合労務センター、株式会社エンブレス 特定社会保険労務士 佐藤正欣

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