イギリスのリバプール出身の能力開発・教育アドバイザーのケンロビンソン(Ken Robinson:Professor University of Warwick U.K.)氏のプレゼンテーションが、教育の世界で注目されている。邦題『才能を引き出すエレメントの法則』の著者で、「学校教育は創造性を殺してしまっている」のテーマで、プレゼンテーション公開サイトのTEDでは最も閲覧されたコンテンツベスト10位に入っている。
新たなキャリアを生み出すエレメントの法則

 講演の中で、学校教育にエレメントの話を合わせて、会場の参加者に深い気付きを与えている。エレメントとは、好きなこと、得意なことである。人間の才能は天然資源のようなもので、多くの人々は、自分は才能を見つけられないと思っているが、それは、組織と教育が問題であると主張している。
 米国の学校教育を例に出し、米国では30%の子供が高校を卒業できない現実があり、一部の地域では60%に達する現実がある。しかし、高校を卒業できなくても、成功しないというわけではない。なぜならば、実際に才能は、必ず育つものであり、大好きなことに情熱を向けることができれば才能が育つという例は多数あり、多くの事例から、例えば高校を卒業できなかった子供たちでも、多くの成功者がでている現実がある。この子供たちこそエレメントに注目した事例である。
 エレメントとは、自分の「好きなこと」と「得意なこと」が交わる場所のことだ。エレメントを見つけた人は、情熱を燃やして仕事に打ち込み、天才的な資質で凄い業績を生み出している。エレメントを強くするには、上手なことをやることと、好きなことをやることで才能は活かされると説いている。
 ロビンソン氏によると、人類は今まで1,000億人が生まれてきましたが同じ人生は1人もいないはずで、一人一人の人生は全て別々であり、自分で作り上げることができ、そして作り変えることができるという強いメッセージを出している。このエレメントを活かした成功の事例として、象徴的な話がある。ロビンソン氏が全面的にサポートしているという、アーティストのブルーマングループの最近の活動の話がそれだ。彼らの活動は25年前になるが、ただ顔を青く塗って町中を歩けば自分たちがアピールできるだろうという、思いつきで始めたパフォーマンスが今では世界中でパフォーマンスを行い、人々に驚きと感動を与えるグループになった。現在、ブルーマンが積極的に取り組んでいるのは、学校を作ることだそうだ。ロビンソン氏は、今の学校教育が子供達の創造性を殺していると考え、子供達が創造性を自由に発揮できる学校を作ることを支援している。
 クリエイティブとは制約がなく、自分が違うことを隠さなくても良いということだそうだ。子供達がどうやってエレメントを引き出すことができるか、そして自分の人生を引き出すことができるか支援している。私はブルーマングループは、単にパフォーマンスを行っているだけのグループと思っていたが、認識を新たにした。
 キャリア開発の世界は、多く二つの潮流がある。一つは、キャリアアンカーという考え方で、自分のことを知り、将来をイメージして設計し自ら切り開いていく生き方である。もう一つが、プランドハップンスタンスという考え方で、偶然とは自らが引き寄せるもので、どのようなことも今の自分のあり方で切り開かれるという生き方だ。つまり、どのようなことでも、自分が引き起こした人生なので、偶然を準備し、楽しむことが必要という考え方である。このロビンソンの講演を聞き、この二つのキャリア開発にもう一つの方向性があると考える。それが、エレメントで、自分を信じ、やりたいことに情熱も持って生きれば、才能が伸び、それが幸せにつながる人生になるというキャリアの考え方だ。


HR総研 客員研究員 下山博志
(株式会社人財ラボ 代表取締役社長/ASTDグローバルネットワーク・ジャパン副会長)

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