今回は仕事の裏側にある「ナゼ?」について考えてみたい。
職務分析が十分に行われていない日本では、明確とまではいかないが、どの会社も社員に担ってもらう仕事の範囲がある程度は決められているはずだ。
仕事の裏側にある「ナゼ?」を大切にしているだろうか?

 入社早々、その担ってもらう仕事を覚えてもらうための研修を実施する会社も少なくない。ある程度の規模以上の会社であれば、何らかの社員研修を実施しているだろう。そのうえで、任された仕事がナゼ存在しているのか。その作業をナゼしなければならないのか。仕事をするうえで、その仕事の裏側に潜む「ナゼ」についてまで教えているようで、実は教えられていないのが現実ではないだろうか。仕事の裏側に潜むナゼを押さえることは大切なことである。

 なぜ筆者がこのような質問をぶつけるのかというと、先日こんな場面に遭遇したからである。ある飲食店を訪れた時のこと…、若い男性社員がフロア全体に響くほどの大きな声で、
「いらっしゃいまっせぇ~!」
「ありがとうございましたぁ~っ!」
「また、お願いしまっすぅ~!」
「あっざっしたぁ~!!」
等を、お客さんが来店・帰る際に繰り返し発していたのである。一見、ハキハキしていて気持ちの良い印象を受けるかもしれない。ところが実際は逆である。再度この男性社員の発した言葉に注目していただくとわかると思うが、語尾が伸びている。つまり、間延びしているのである。また、お客さんの方向を向いて、あるいは一礼をしながら発しているのではなく、下を向いて、フロアを移動しながら、何かをしながら発しているのである。わかりやすく言うなれば「やっつけ」で発しているような印象に映るのだ。

 だから、店内で飲食している我々からすれば、単にうるさく聞こえるだけで不快である。他のお客さんがどう感じているのか気になった筆者は、他のお客さんに目を向けてみた。すると、男性社員が発する度に彼の方へ視線をやり、顔をしかめる方や、その声に驚いてビクッとしている人さえもいた。こうなってしまうと、男性店員が良かれと思ってしているせっかくの言動は水泡に帰すことになってしまう。

 なぜこのようなことが起きてしまうのであろうか。
それは、研修や日々の職務を遂行する上で「ナゼこの仕事(あるいは作業)が必要とされているのか」という視点を真に理解していないからである。研修で習ったこと、マニュアルや作業手順書に書かれていることを単に実行しているだけだからこのような事態に陥ってしまうのである。

 このように書くと、よくあるマニュアルが持つ弊害の話へと結びつけられてしまいそうであるが、筆者はマニュアルや作業手順書を否定しているのではない。これらは職務を遂行するにあたって非常に重要なものであると認識している。なぜなら、基本知識や基本動作を固め押さえなければ、その先にある工夫や改善といった応用に繋がらないからである。

 しかし、だからと言って、書かれていることを単に実行するだけでは今回のような事態に陥ってしまう。なぜ、来店したお客さんへの声掛けが必要なのか。例えばそれは、そのお店が持つ経営理念の一つを接客対応へ結びつけて実施していることかもしれない。その仕事の裏側に潜む「ナゼ」を理解することによって、言動の一つ一つにも気を配ることができるはずだ。

 また、今回はたまたまサービス業の接客応対における事例を取り上げたが、内容は異なれども、どの業種にも同じことが言えよう。例えば、ある自動車工場では、工場の生産ラインに故障が生じたときは、絶対に手を触れず保全へ連絡することが徹底されている。ナゼこのようなルールになっているのか。それは、作業員の労災事故を防止するためである。安全衛生を徹底する意味で、生産ラインの作業員と保全工の線引きが明確にされている。仮に作業員がこの程度なら直せるかもしれない…という代物であったとしても、絶対に触ってはいけないことが徹底されている。

 ところで、仕事の裏側にある「ナゼ」を社員に教え込まなければならないのは、会社の役割である。ということは、ナゼこの仕事が存在するのか、ナゼこの作業が必要なのか、ナゼ、この作業手順にしなければならないのか等々について、会社が明確に答えられなければ始まらない。また、逆に考えれば、仕事の裏側にある「ナゼ」の解を見つけられないような仕事があるとしたら、それはその会社にとって必要のない仕事(作業)だと言える。これは仕事や作業内容を見直し、職務や作業の合理化をすることにも繋がるのである。
仕事の裏側に潜む「ナゼ」まで理解しなくても、教えられたように見よう見まねで大抵の仕事は処理できるようになってしまう。だからこそ「ナゼ」は軽視されがちだ。しかし、その仕事(作業)の裏側にある「ナゼ」まで教えてこそ、真の社員研修となり、強い組織を作ることに繋がるのではないだろうか。


SRC・総合労務センター 特定社会保険労務士 佐藤 正欣

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