今年も年末調整の時期がやってきた。年末調整は1年間の所得税額の精算をする作業だが、その際に「国民年金保険料」を控除の対象として認めるよう申告してくる社員がいる。結論から言うと、厚生年金に加入中の社員が、国民年金に関する控除を申請してきても少しも誤りではない。では、それはいったいどのような仕組みなのだろうか。
年末調整で社員が「国民年金保険料」を申告してくるケースとは

企業勤務者に関係ないはずの「国民年金保険料」が申告される

国民年金保険料は、国民年金の第1号被保険者という加入区分に該当した場合に、支払いが義務付けられる金銭である。第1号被保険者に該当するのは 20歳以上の自営業者や学生などのため、企業に勤務し、厚生年金に加入している場合には、国民年金の第1号被保険者に該当することはない。よって、原則として企業勤務者が国民年金の保険料支払いを求められることもない。

しかしながら、現在は国民年金の第1号被保険者でなかったとしても、平成30年1月1日以降に国民年金保険料を払った実績があるのであれば、払った保険料の全額が本年実施する年末調整の際に、社会保険料控除として申告できる仕組みになっている。

そのため、社員が年末調整で国民年金保険料を控除対象として申告してくるケースは少なくない。具体的には次のようなものがある。

(1)入社前に国民年金保険料を払っていた時期がある
中途採用者が、入社前にどこの職場にも勤めていない期間を持つ場合、その間は国民年金保険料の支払い義務がある第1号被保険者に該当しているケースが多い。

たとえば、平成30年1月末日付で前職を退職し、その後2ヵ月ほどの無職期間を経て、同年4月1日付で現在の職場に入社した社員がいるとする。この場合、どこの職場にも勤めていなかった平成30年2月、3月は通常、国民年金の第1号被保険者に当たる。したがって、この2ヶ月分の国民年金保険料は、今回の年末調整で控除対象として申告可能である。

(2)入社後に“入社前の未払い保険料”を払った
入社前に国民年金の第1号被保険者に該当していた時期があるにも関わらず、保険料支払いを怠っていたというケースもある。そのような場合には、本来は入社前に払うべきであった国民年金保険料を、入社後に払っているというケースが存在する。

たとえば、前述の平成30年1月末日付で前職を退職し、同年4月1日付で現在の職場に入社したケースで、平成30年2月分、3月分の保険料を入社後の4月以降に払った場合などである。国民年金保険料は2年1ヵ月間経過するまでは支払い可能なため、今回の年末調整の際に申告可能である。

(3)一旦は“免除された保険料”を払った
国民年金には、経済的事情などを考慮して、保険料支払いを免除する制度が複数、用意されている。これらの制度を利用すれば、保険料を払わなくても督促を受けることがない。

しかしながら、保険料支払いが免除されると、キチンと保険料を払った人よりも、将来の年金額が低額になってしまう。そこで、将来の年金額を増やすために、一旦は免除された保険料を後から払える「追納制度」という仕組みも用意されている。

過去に国民年金の保険料支払いを免除された期間を持つ社員の中には、この「追納制度」を利用して、一旦は免除された国民年金保険料を払っているケースがある。これもその支払いが平成30年1月1日以降に行われたのであれば、今回の年末調整の際に申告可能である。

(4)“家族の国民年金保険料”を代わりに払っている
子供の国民年金保険料は必ずしも子供本人のみに支払い義務があるわけではない。たとえば、子供が親と同居している場合、世帯主である親は連帯納付義務者とされ、子供の国民年金保険料を払わなければならない法律上の義務が課されている。

そのため、子供を持つ社員の中には、子供の国民年金保険料を代わりに払っているケースも存在する。この場合には、保険料を払った親自身の社会保険料控除として申告できるため、支払いが平成30年1月1日以降に行われたのであれば、その全額が今回の年末調整の際に申告可能である。

繰り返しになるが、厚生年金に加入中の社員が、国民年金に関する控除を申請してきても誤りではない。年末調整事務の際はぜひこれらを念頭に置き、十分に注意していただきたい。


コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)

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