「うつ病」という病名が珍しくなくなった昨今だが、クライアントからの相談も、「社員がうつ病になったらしいが、どうしたらよいか」という相談が増えている。大企業では、すでにメンタルヘルス対策をしているところも多いが、中堅・中小企業では人手不足や資金の関係もあり、なかなか手をつけられないのが現状であろう。
自社には関係ない、必要性を感じないという意識も強く、うつ病の社員があらわれてから慌てるケースも少なくない。ここでは、そんな中堅・中小企業のメンタルヘルス対策を考えてみたい。
厚生労働省の発表によると、平成24年度に精神障害として労災認定された件数は475件と、ここ数年増加している。1年間に全国で475件という数字を見ると「うちには関係ない」と言いたくなる気持ちもわからなくはないが、これは、あくまで労災の件数であって、職場でメンタルヘルス疾患が発生した件数ではない。実際、精神疾患で医療機関に受診する患者数は、ここ数年増加しており、うつ病等の気分障害は100万人と言われている。
企業がメンタルヘルス対策をせず、メンタルヘルス不調者が増えると、どういうリスクがあるのだろうか。
まず、生産性の低下やミスの増加が考えられる。また、その社員が休職した場合は、その仕事をカバーするため他の社員の負担増加、人事担当者や管理職の負担の増加が心配され、さらに、それらによる生産性の低下から、人件費等も増加する。そして、そのメンタルヘルス不調の原因が企業側にあり「労災」と認定された場合は、高額の損害賠償責任を負わされる可能性もある。不幸にも自殺につながってしまった場合、賠償金額は1億円を超えることもある。
では、メンタルヘルス不調の原因は職場のどこにあるのか。
労災と認定された精神障害の原因となる出来事としては、「仕事内容・仕事量の変化」「嫌がらせ・いじめ」「上司とのトラブル」「長時間残業」などが挙げられている。労働契約法第5条には「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。(いわゆる『安全配慮義務』)」とあり、ここには、危険作業や有害物質への対策はもちろん、メンタルヘルス対策も含まれると解釈されている。つまり、企業としては、長時間残業や嫌がらせ・いじめへの正しい対応その他のメンタルヘルス対策をすることにより、社員を守らなければならい。それができていない企業が訴訟されると、安全配慮義務違反として、高額な損害賠償を負わされるのである。
職場のメンタルヘルス対策の重要性がわかったとしても、資金と人手に余裕のある大企業ならともかく、そこまで余裕のない中小企業はどうすればよいのか。
第一に手をつけたいのが、社内規程やルール作りである。就業規則に「休職」の規定はあるか、ある場合、それは現在のメンタルヘルス疾患にも対応できる内容になっているのかがポイントだ。さらに、経営者や人事担当者が、その規定を理解し実行することができるかということも重要だ。担当者が変わっても運用ができるよう、規定に沿った具体的な運用ルールも設けておきたい。実はメンタルヘルス疾患になった社員の対応で、最も難しいのは復職である。これは、主治医や産業医とも連携して慎重に進める必要がある。産業医がいない中小企業は、地域の産業保健センターに相談することができる。
次に、社員の意識改善も大切である。職場のメンタルヘルス不調は、原因が職場環境や人間関係にあることも多く、防止のためにも、社員研修などで啓発することが勧められている。これも順番が大切で、まず管理職研修である。メンタルヘルス研修というとセルフケア研修をイメージする企業も多いが、社員が自分のメンタルヘルス不調の原因に気づいて相談しても、相談された管理職が研修を受けていないため正しい対応ができず、かえって問題がこじれることもある。また、管理職が研修を受けることで、部下のメンタルヘルス不調の早期発見につながることもある。まずは管理職に意識を持ってもらい、次が一般社員への研修という流れがスムーズだ。
もちろん、メンタルヘルス不調の原因を少しでも取り除くことも大切である。長すぎる残業時間の削減はもとより、最近多いと言われている職場の嫌がらせやいじめ、パワーハラスメントを起こさない啓発も、検討したいところである。
そしてなにより大切なのは、自社と従業員を守るという社長の決断である。
社会保険労務士法人日本人事 織田 純代
厚生労働省の発表によると、平成24年度に精神障害として労災認定された件数は475件と、ここ数年増加している。1年間に全国で475件という数字を見ると「うちには関係ない」と言いたくなる気持ちもわからなくはないが、これは、あくまで労災の件数であって、職場でメンタルヘルス疾患が発生した件数ではない。実際、精神疾患で医療機関に受診する患者数は、ここ数年増加しており、うつ病等の気分障害は100万人と言われている。
企業がメンタルヘルス対策をせず、メンタルヘルス不調者が増えると、どういうリスクがあるのだろうか。
まず、生産性の低下やミスの増加が考えられる。また、その社員が休職した場合は、その仕事をカバーするため他の社員の負担増加、人事担当者や管理職の負担の増加が心配され、さらに、それらによる生産性の低下から、人件費等も増加する。そして、そのメンタルヘルス不調の原因が企業側にあり「労災」と認定された場合は、高額の損害賠償責任を負わされる可能性もある。不幸にも自殺につながってしまった場合、賠償金額は1億円を超えることもある。
では、メンタルヘルス不調の原因は職場のどこにあるのか。
労災と認定された精神障害の原因となる出来事としては、「仕事内容・仕事量の変化」「嫌がらせ・いじめ」「上司とのトラブル」「長時間残業」などが挙げられている。労働契約法第5条には「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。(いわゆる『安全配慮義務』)」とあり、ここには、危険作業や有害物質への対策はもちろん、メンタルヘルス対策も含まれると解釈されている。つまり、企業としては、長時間残業や嫌がらせ・いじめへの正しい対応その他のメンタルヘルス対策をすることにより、社員を守らなければならい。それができていない企業が訴訟されると、安全配慮義務違反として、高額な損害賠償を負わされるのである。
職場のメンタルヘルス対策の重要性がわかったとしても、資金と人手に余裕のある大企業ならともかく、そこまで余裕のない中小企業はどうすればよいのか。
第一に手をつけたいのが、社内規程やルール作りである。就業規則に「休職」の規定はあるか、ある場合、それは現在のメンタルヘルス疾患にも対応できる内容になっているのかがポイントだ。さらに、経営者や人事担当者が、その規定を理解し実行することができるかということも重要だ。担当者が変わっても運用ができるよう、規定に沿った具体的な運用ルールも設けておきたい。実はメンタルヘルス疾患になった社員の対応で、最も難しいのは復職である。これは、主治医や産業医とも連携して慎重に進める必要がある。産業医がいない中小企業は、地域の産業保健センターに相談することができる。
次に、社員の意識改善も大切である。職場のメンタルヘルス不調は、原因が職場環境や人間関係にあることも多く、防止のためにも、社員研修などで啓発することが勧められている。これも順番が大切で、まず管理職研修である。メンタルヘルス研修というとセルフケア研修をイメージする企業も多いが、社員が自分のメンタルヘルス不調の原因に気づいて相談しても、相談された管理職が研修を受けていないため正しい対応ができず、かえって問題がこじれることもある。また、管理職が研修を受けることで、部下のメンタルヘルス不調の早期発見につながることもある。まずは管理職に意識を持ってもらい、次が一般社員への研修という流れがスムーズだ。
もちろん、メンタルヘルス不調の原因を少しでも取り除くことも大切である。長すぎる残業時間の削減はもとより、最近多いと言われている職場の嫌がらせやいじめ、パワーハラスメントを起こさない啓発も、検討したいところである。
そしてなにより大切なのは、自社と従業員を守るという社長の決断である。
社会保険労務士法人日本人事 織田 純代