肉体を使う「肉体労働」、頭脳を使う「頭脳労働」に加え、感情を使う「感情労働」の比重が増している。人事労務管理の現場において、「感情労働」をどう取り扱うべきか、方向性を考えてみたい。
人事労務管理における感情労働対策 ~「感情労働」とこれからの人事労務管理(6)~

会社(使用者)以外に従業員を「統制」する者

【第1回目コラム】http://www.hrpro.co.jp/news_trend.php?news_no=316 

これまで5 回にわたって「感情労働」について考察してきた。
では、実際の人事労務管理の現場において、「感情労働」とどう向き合うべきか、その方向性について考えてみたい。

 労働とは、使用者(会社)が従業員を指揮監督することにより、行われるものである。つまり使用者(会社)が従業員を「統制」し、従業員がその「統制」の下で職務に従事することで成立する。
 しかし「感情労働」においては、使用者(会社)以外にも従業員を「統制」する存在が大きくなっている。

 例えば、接客業務に就く従業員においては、顧客が従業員を「統制」する。顧客がサービスや商品だけでなく、接客対応する従業員に対しても多くを求める場合、従業員にとっては、「いかに顧客に良い気持ちにしてもらうか」に注力することが、日常的に重要になってくる。
 第4回でも指摘したとおり、それが従業員のレベルアップにつながることもある。しかし、一方で過度な感情労働が疲弊の原因ともなり得る。

 また、顧客だけでなく、同僚や上司、部下などの社内の他の従業員との価値観の相違等も、従業員の「統制」になることがある。
会社の倫理や行動規範にありのままに従って、全ての従業員が職務に従事するわけではない。例えば、異なる世代、異なる職歴等で、自分とは異なる価値観や環境にある従業員が社内の人間関係で「チカラ」を持っている場合、会社の倫理や行動規範よりも、その従業員の「チカラ」が、他の従業員を「統制」している場合もある。
それによる疲弊の問題は第3回でも指摘したが、従業員が使用者(会社)と「チカラ」のある従業員の狭間で葛藤しながら職務に従事していたらどうだろう。職務上、必要以上の感情の疲弊が起こっているかも知れない。

「感情労働」において従業員がスキルアップし、職場が円滑・活性化するために。

会社は従業員に対して、労働の対価として、賃金を支払う。賃金は、現在の法律上、原則として「労働した時間」に対して支払われるものである。またその「労働した時間」に対する賃金の単価は、年功序列の制度の上では、「年齢」や「勤続年数」などにより決定されていたし、あるいは「職務」や「能力」により決定されることも多い。また特に近年では「成果」により決定されるウエイトも高まっている。

しかし、「感情労働」において、どれだけ従業員が自らの感情をコントロールして疲弊させたか、は、その賃金決定に反映されることは少ない。
例えば、従業員が「顧客」に対して、どのように自らの感情をコントロールし、顧客満足につなげているか、その「感情のコントロール」について評価して賃金に反映させることも必要である。

あるいは、育児休業を取得する従業員がいる場合、それによる職務の負担を、他の従業員が負うケースも多い。育児休業の取得に対しては、様々な支援がなされているが、一方でその職務の負担を負う従業員は置き去りにされてはいないだろうか。例えば、そういった従業員に対しても何らかの手当等による待遇を施すこと。つまり、他の従業員の「チカラ」からの負荷を受けている従業員に対するケアも、より良い職場環境の為には検討することも必要である。

従業員は適正な賃金を受ける事だけが仕事のモチベーションとなるわけではない。第2回では、「モチベーション3.0」=自己の成長、キャリア意識、達成感、自己実現、顧客や同僚とのメンバーシップによる貢献意識、について指摘した。

「顧客」に対する「感情のコントロール」スキルの向上や職場での良好なメンバーシップの維持が、従業員のモチベーション・喜びになる。
「頭脳労働」の職務と「肉体労働」の職務では、その人事労務管理の在り方には違いがある。そうであるならば「感情労働」についても、独自の人事労務管理の在り方が必要でないだろうか。


その構築には第5回で指摘したアドラー心理学にも大きなヒントがあると考えている。(アドラー心理学がブームとなっているのも、「感情労働」の時代だからこそ、だろうか?)

「他者からの承認を求めることの否定」「自分と相手との境界線が上手く引くこと(課題の分離)」。
会社(使用者)以外の「顧客」や「同僚」からの必要以上の「統制」、感情を疲弊させるような「統制」を従業員から拭うこと。むしろ、その「統制」をプラスにすること。
「感情労働」そのものが悪いわけではない。「感情労働」だからこそ、それをプラスに出来る環境作りを、今後の人事労務管理は考えていかなければならない。

オフィス・ライフワークコンサルティング
社会保険労務士・CDA 飯塚篤司

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