前編では、会社の労働生産性を高め業績アップをはかっていくためには、「できない社員(低業績社員)」に「できる社員(高業績社員)」の行動を「模倣」させるべきである理由をお伝えした。今回(後編)は、できない社員に、どのような方法を使って模倣させるべきか。模倣のさせ方の「ベストプラクティス」をお教えする。
働き方改革による業績アップの決め手は、ズバリ「模倣」にあり!【後編】

高業績企業は「コンピテンシー」重視、低業績企業は「マニュアル」重視

一般にどこの会社にも下の図のように、「できる社員(高業績)」が2割、「できない社員(標準・低業績)」が8割存在するといわれている。しかし、企業利益の8割をあげているのは2割のできる社員であって、できない社員はさほど貢献できていないともいう。そのため、できない社員にできる社員の行動を模倣させて、同等のレベルまで引きあげることができたならば、あらたな利益がプラスされると考えられるだろう。
働き方改革による業績アップの決め手は、ズバリ「模倣」にあり!【後編】
では、できない社員に「どのようにして、できる社員の行動を模倣させるべきか」という話になるが、すぐに思いつく方法は「マニュアル」整備だろう。

マニュアルの定義を調べると、「方法を知らない者(初心者)に対して教えるために、標準化・体系化して作られた文書」とある。下図の「1」で示すように、低業績社員を標準業績社員レベルに引きあげるものがマニュアルである。つまり、マニュアルでは社員の標準化は可能でも、できる社員を生むことは不可能なのである。

それに対して「コンピテンシー(行動特性)」は、高い業績を上げている社員の行動特性を分析し、その特性をモデル化する。これは、下図の「2」で示すように、できない社員をできる社員のレベルに引きあげることを目的としている。ゆえに、できない社員をできる社員へと導くためには、コンピテンシーがベストプラクティスなのである。

図:(1)「マニュアルを活用」した場合と(2)「コンピテンシーを活用」した場合の比較
働き方改革による業績アップの決め手は、ズバリ「模倣」にあり!【後編】

「コンピテンシー(行動特性)」の実例

「コンピテンシー(行動特性)」を、営業職Sさんの事例から具体的に説明してみよう。

【営業の社員Sさんの事例】
営業部の社員Sさんは、営業部でトップ成績を上げつづけている。その商談手法は、ほかの営業社員とは異なり「商談前に必ず商品のプレゼンをおこなう」ことにしている。そのため、顧客の商品に対する認知度や理解度が高まり、商談をスムーズに進めることができている。

この、社員Sさんがおこなっている「商談前プレゼン」こそが、成果につながる行動特性、つまりコンピテンシーなのである。もしも、社員Sさんのようにほかの営業社員も商談前プレゼンというプロセスを経て、商談をしたらどうなるだろうか。おそらく従来の営業方法よりも、商談成立の可能性は拡がるだろう。

「コンピテンシー」の導入方法

では、いくつかある「コンピテンシー」導入方法の中で、私がおすすめする方法を具体的にご紹介する。コンピテンシーの導入ステップは、以下のたった4つだけである。

(1)できる社員のコンピテンシーを職種ごとに、前もってカード形式に書き出しておく。「冷静さ」、「親密性」、「顧客拡大力」、「プレゼンテーションカ」などの項目として、できる社員が身につけておくべき能力をあげておくとよい。

(2)職種ごとに社員を集め、それぞれが自身の職務に必要だと思うコンピテンシーカードを3~5枚選ぶ。その後、グループに分かれてじっくりと話し合い、さらにグループで3~5枚を選び出す。

(3)グループで絞り込んだコンピテンシーカードごとに、できる社員がおこなっている具体的な行動を、1人あたり5~10個ほど書き出す。たとえば、「冷静さ」のカードであれば「クレームに対して、うろたえたり、パニックになったりしない」といったように、とるべき最善の行動を具体的に書き出す。

(4)グループごとに書き出した具体的な行動を、集められた社員全員で検討し選定する。これで、できる社員のコンピテンシーの完成である。また、完成したコンピテンシーは、ポケットに入るぐらいの小冊子にして持ち歩いていれば、必要なときにいつでも確認ができて便利である。

できる社員のコンピテンシーを模倣することで、できない社員は業務に不要な行動を減らせて、最適な行動を増やすことができる。最適な行動を増やすことこそが業績アップを実現するのだ。ぜひ、コンピテンシーを導入し、実践してもらいたい。


佐野浩之
ひと・しくみ研究所
社会保険労務士
採用・定着・教育に強い ひと・しくみ研究所
https://www.hitoshikumi.com/

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