一般的に対象とされることはないが、企業が取り組む広義の「職場環境改善」の中に「家庭の健全性」を含めて考えなければ不十分となることが往々にして起こり得る。なぜなら、個々の従業員には「ワーク・ライフ・インテグレーション」が本質的に内在しているからである。ワーク・ライフ・インテグレーションが機能するためには、プライベートな空間である家庭が、夫婦にとって「価値ある城」、「癒される場」でなければならない。最近は「帰宅拒否症」なる病徴が表れているそうで、癒されるはずの家庭が「嫌味の言い合い」や「批判し合い」、「他人様との比べ合い」などの場となり、まるで仕事の延長戦と化しているとも漏れ聞く。本稿では、ワーク・ライフ・インテグレーションを目指す夫婦にとって、心地よい家庭であるためのひとつの要素として、「家計のあり方」について論じてみよう。
職場環境改善で忘れられがちな「ワーク・ライフ・インテグレーション」の見直し方

納得感のある家計のマネジメント

お金が貯まらなかったり問題があったりする家計を分析すると、次のような特徴がみられる。

(1)何に使っているかわからない家計
(2)借金返済を後回しにしてしまう家計
(3)共働きで夫婦別会計の家計


いかがだろうか。ライフプラン相談会で意外と遭遇するのが(3)である。生活費を拠出した後は「お互い干渉しないようにしよう」という今どきのスタイルだ。お互いの価値観を、コミュニケーションを通じて共有できている家計であれば理想的かもしれない。しかし、「相手が考えてくれているはずだ」と思いきや、「実は両方とも何も考えていなかった」とか、「家計としていくら貯蓄があるかまったくわからない」など、家計としては致命傷ということも十分にあり得る管理手法でもある。

夫婦のライフプランが実現しそうにないという意味で、筆者は「他人事家計」と呼んでいる。「散財家」または「倹約家」の組み合わせによっては悲劇が起こりそうな家計ともいえよう。

おすすめは「夫婦共同管理家計」

筆者がおすすめするのは、財布を1つにする方法である。共働き夫婦に限らないが、家計の管理は夫婦のどちらかが一元的におこなった方が効率的だ。一元的とはいっても、ベースに2人のコミュニケーションがなければ「欠陥家計」になってしまう。従って、管理する側は「主たる管理者」くらいの心持がいいだろう。

よく、「片働きだから家計の管理は妻まかせ」という夫婦もいるが、丸投げはよくない。やはり大事なのはコミュニケーションをはかったうえでの価値観の共有。この土台があって、2人で協力しながら双方の特性(得手不得手)を活かし、家計を管理していくのがベターである。

どのように家計を管理していくか

まずは給料の全額を共有しよう。そこから光熱費などの固定費と、生活費・貯蓄分・夫婦の小遣いなどを割り振る。財布が1つなので、収入や支出といったお金の流れがはっきりすることになる。金融機関の口座は2種類あった方がよい。1つ目は家計支出のやりくりのための口座。もう一方は運用口座。さらに運用口座は、預貯金のための口座と投資のための口座を分けて連携させていけば、短期的な貯蓄・中長期的な運用が効率的におこなえるようになる。

このように、家計を「見える化」することで、お互いの疑心暗鬼も、将来への不安も薄れていくだろう。もちろん、「家計という金銭的な管理方法をどうするか」の前提になるのは、夫婦・家庭としてのライフプランであり、それを「共有」することに心血を注ぐべきである。

最後に

「職場環境改善」と「家計のあり方」という一見なんの関わりもないようなことを考えてみた。しかし、これは「ワーク・ライフ・インテグレーション」にとっては意外と盲点になっている可能性がある。従業員にとって、家庭環境の良否は仕事に大きな影響を与えるものである。

今回は、家庭環境の中でも「家計のあり方」を取り上げたが、ほかにも「家事のアサインメント」、「保険の加入方法」、「住宅の購入やローンの借入れ」、「相続」、「離婚」など、問題化しそうな事項は数多く存在する。これらも広く「職場環境」であるととらえ、踏み込みすぎない程度にサポートしていく姿勢が企業には求められている。そして、それが全体としての「職場環境改善」につながっていくのである。


大曲義典
株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ
社会保険労務士・CFP

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