いわゆるサービス残業とは、所定労働時間外に、実際に働いた労働時間に見合う所定の賃金または割増賃金の全額または一部を支払わないで労働させることをいう。これは労働基準法(以下、労基法)第37条違反となる。
厚労省では、『賃金不払残業の解消を図るために講ずべき措置等に関する指針』を示し、会社で労使がサービス残業の解消や防止に向けた取り組みを行うための体制作りの仕方を紹介している。今回は、同指針の内容を踏まえ簡潔にご紹介することで会社ごとのサービス残業解消に向けた取り組みの参考としていただきたい。
サービス残業の解消・防止に向けての取り組み方

「労働時間適正把握基準」を遵守する。

 みなさんは労働時間適正把握基準というものをご存知だろうか。正式には『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準』といい、厚労省が示したものである。同基準のポイントは、「始業・終業時刻の確認と記録は、原則として客観的な方法によること」「労働時間に関する記録を保存しておくこと」の2点。
 具体的には、タイムカードや出勤簿(始業と終業の時刻が分かるようなもの)、残業命令書、残業報告書等。賃金台帳については、労働日数・労働時間・時間外労働時間、休日労働時間、深夜労働時間等を記載することが義務付けられているため、これらの事項を遵守することが第一である。

職場風土を改革する。

 サービス残業の背景には、職場の中に「サービス残業があっても仕方がない」といった意識(職場風土)が反映されていることが多く見受けられる。この意識を変えるためには、経営トップによる決意表明、労使合意によるサービス残業撲滅の宣言、会社内での教育等が考えられる。
 私は何よりも職場意識改善が最も大切だと考えているが、これは会社全体で取り組まなければ効果がない。経営トップやその他経営層がなかなか前向きでない場合、職場意識改善助成金等の各種助成金を検討してみるのもいいかもしれない。職場意識を改善し結果を出すことで(これが大変だが)助成金が得られるとなれば、経営層も少しは前向きになってくれるかもしれない。

適正に労働時間の管理を行う仕組みを整備する。

 現在まったくこのような仕組みがない場合には、まずは実態の把握(例、勤務状況に関する社内アンケート)をした上で、仕組み作り(例、関係者の実施事項、手順等のマニュアル作成)を行う。
 また、仕組みがすでにある会社でも今一度、労働時間管理の制度についての見直しを検討してはいかがだろうか。検討事項としては、現行の労働時間管理の制度とその運用の仕方、仕事の進め方あるいは業務体制や業務指示のあり方等である。
 さらに、サービス残業の是正という観点を考慮した人事考課制度を検討してみるのもひとつである。「サービス残業を行った労働者も、これを許した上司も評価しない」というメッセージは職場風土の改革にもつながる効果があるだろう。

責任体制を明確にし、チェック体制を整備する。

 これについては、事業所ごとに労働時間管理の責任者を明確にしておくことがまず大切である。例えば、同じ指揮命令系統にない複数の管理責任者をおいて牽制体制を確立したり、労働時間のダブルチェックを行ったりということである。
 また、相談窓口を設置することも重要である。注意すべきは、上司や人事労務担当者以外の者を窓口とすること。経営トップが直接情報を把握できる仕組み(専用のメールアドレス等)があればよいであろう。


三谷社会保険労務士事務所 三谷 文夫

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