2020年4月1日より民法が改正される。民法改正は、人事労務分野にも影響を及ぼす。例えば、採用時に身元保証書の提出を求める企業も多いかと思うが、今回の民法改正により、身元保証書に賠償額の上限を定める必要が出てきた。採用シーズン中に、企業の採用に関わる人事労務担当者が知っておきたい「身元保証」について、今一度確認しておきたい。

採用時の「身元保証」とは?

「民法の一部を改正する法律」が2020年4月1日から施行される。民法が1896年に制定されて以来、およそ120年ぶりの大幅な改正だ。

人事労務分野において影響がある事項のひとつに「身元保証」がある。雇用契約の際に提出してもらう身元保証には、主に3つの役割がある。

・雇い入れる者の経歴などに問題がなく、従業員として適性を有する人物であることを身元保証人に保証させる役割
・雇い入れる者が将来的に会社に損害を与えた場合、身元保証人がその損害賠償義務を保証することを約束する役割
・実務的に多いものとして、緊急時の連絡先としての役割

企業においては、身元保証契約を結ぶことにより、身元保証人による当該従業員の指導・監督を期待するとともに、将来、その従業員の行為によって損害をこうむった場合に、従業員本人はもちろん身元保証人に対しても連帯して損害を賠償させることができる。そのため、採用に当たり身元保証人を立てることは広くおこなわれている。

身元保証については、身元保証人の責任が重くなりすぎることのないよう、「身元保証に関する法律」により、以下が規定されている。

(1)保証期間(第1条及び第2条)
定めがあれば5年が最長、なければ3年。自動更新の規定は無効。更新時もその後の期間は最長5年。
(2)使用者から身元保証人への通知義務(第3条)
労働者本人に業務上不適任又は不誠実な事跡があり、身元保証人がその責任を問われるおそれがある場合や、人事異動などで保証人の責任が増加する場合、使用者は身元保証人に通知する必要がある。
(3)身元保証人の解除権(第4条)
(2)が規定する「使用者から身元保証人への通知」後、身元保証人は将来へ向けて身元保証の契約を解除することができる。
(4)保証責任の限度等(第5条)
身元保証人の損害賠償責任は、使用者の過失の有無、身元保証を引き受けるに至った経緯、身元保証人の注意の程度、労働者本人の任務・身上の変化等一切の事情を考慮して裁判所が決定する。
(5)強行法規
この法律に反して身元保証人に不利な特約をしても無効となる。

民法改正による「身元保証書」への影響はあるか?

それでは、民法改正によってどのような影響があるのだろうか。民法の「保証」に関する規定の改正により、4月からは身元保証人の賠償額の上限を定めなければならなくなった。よって、今までは賠償額について定めのない身元保証書が一般的だったといえるが、今後、賠償額の上限の定めがない身元保証書については無効となる可能性があるので注意が必要だ。なお、今回の規制が適用されるのは、4月1日以降に締結した契約となる。

そこで、「賠償額の上限についてはどのように定めるか」であるが、上限額は法律では決まっていない。企業が自由に設定することになる。とはいえ、あまりに高額だと身元保証人が躊躇し、引き受けてくれる人がいなくなる可能性もあるため、現実味のある金額に設定する必要があるだろう。

今回の改正により、賠償額の上限が明確になることで、身元保証人から、「どういった場合に請求されるか」といった内容の説明を求められる機会の増加が予想される。企業としては、金額を定めるうえで、請求が想定される場合についても今一度確認をしておきたい。

ちなみに、裁判において身元保証人の損害賠償責任が争われた場合、全額の賠償が認められることはほとんどないのが実情だ。前述のとおり、諸事情を考慮したうえで判断される傾向にあり、過去の裁判例をみると、それぞれケースバイケースである。例えば「ワールド証券事件(東京地裁/1992年3月23日判決/労働判例618号)」においては、約1億4,800万円の損害額について、本人の賠償額は7割の1億360万円だった。身元保証人2人が本人と連帯して負うべき賠償額は、本人に課せられた額の4割である約4,140万円とした判決がある。過去の判決にのっとり、損害額の2〜4割程度を身元保証人が負担するのが一般的のようである。

また、身元保証書について、採用時に取得したものの、それ以降は更新をしていない企業も見受けられる。民法改正のこの機会に、身元保証書の整備と運用について、見直しをしてみてはいかがだろうか。


松田 法子
社会保険労務士法人SOPHIA 代表
https://sr-sophia.com/