連載第1回では、労働力人口の減少による人材獲得競争の激化と、その戦いに勝つためには企業が採用力を身につけることが重要であることをお伝えしました。とはいえ、「今いる人だけで十分」「退職者が出たら採用を考えればいい」とお考えの企業も少なくないと思います。ここでいま一度ご注目いただきたいのは「事業は人なり」ということ。つまり、人材戦略は経営戦略そのものなのです。
  しかし、日本の多くの中小企業では人材戦略と経営戦略がイコールであるとは思われないことが多いようです。なぜなら、採用をはじめ、人事異動や昇進、昇格は「上からいわれた業務をこなす」といった事務的作業になりがちだからです。これからの社会で企業が勝ち抜いていくためには、人材戦略に経営的思想を持つべきであり、実際、世界を見渡すと人事は経営チームの一員であるケースが多く見られます。欧米の多くの企業では、人事のトップは経営会議に参加して経営方針を理解し、その方針に基づいて人材戦略を策定しています。いつまでにどのような人材がどれだけ必要か、経営戦略に基づいて1 年後の採用計画を更新しているのです。

 とはいえ、さまざまな理由から、総務というポジションが人事や労務、経理を兼任しているといった「専任の人事がいない中小企業」はとても多いでしょう。いますぐ専任を立てることが難しかったとしても、人事という仕事にかかわる以上は、これからお伝えする内容を意識して人材と向き合うことが必要です。

「事業は人なり」を体現するために

  経営戦略に基づいた人材戦略が実現すると、「戦略目標の達成」「市場での業績向上」「離職率の低下」「生産性の向上」「顧客満足度の向上」といったさまざまな効果を期待できます。その実現のために人事がすべき、4つのステップをご紹介します。

1 経営環境・ビジネスの現状を把握する
マクロの視点から経営環境やビジネスの現状を把握します。世界や時代のトレンド、経済環境、業界事情といった外的要因を理解し、それらが自社の事業に及ぼす影響や、自社の現状について考えます。

2 経営戦略を実現させる人材像を特定
経営戦略の実現に必要なスキルや能力を把握します。戦略を遂行するためには、どのようなキャリアを持つ人材が必要であるかを正確に見極めます。

3 人材戦略を策定
2で人材像を特定したら採用戦略を考えます。その際に大切なのは、経営戦略の遂行に不可欠な能力と、現在社内に在籍する人材が持つ能力とのギャップを把握すること。このギャップを埋めるのに必要な人材を外部から獲得するのであり、その戦略を立てるのです。

4 人材採用から活躍までのプロセス設計
人材採用や育成のプロセスをしっかりと整えます。採用から育成、そして実際の活躍まで、すべてのプロセスを設計し、さまざまな人材ニーズに対応できる基盤をつくります。

おわりに

  経営戦略とは、企業が競争環境のなかで生き抜いていくために立てる基本的な方針で、事業戦略とは、単独の事業がその領域のなかで競争優位性を確立するための方針です。それらの戦略がどれだけ素晴らしいものであったとしても、企業間の競争において勝利をもたらすのに必要なスキルを持つ人材がいなければ、戦略は実行されません。戦略が実行されないということは、すなわち企業の存続が危ぶまれるということです。よって人事は、経営陣とともに主体的に人材戦略を立て、実行の主体者となっていくことが求められるのです。

 専任の人事がいる・いないにかかわらず、採用計画がなく、人材戦略を軽んじていたり、経営戦略とはかけはなれたところを考えていたりするなら、企業の5年後、10年後の未来は危ないといえるでしょう。
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